学園戦隊! 風林火山

貴様二太郎

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番外編1

ブルーなあたしは悪役令嬢 ★

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原案:あっきコタロウさま


「一体どうして振り向いてくれないの、隼人さま!?」

私立武田学園に入学した桜小路 奏(さくらこうじ かなで)は、入学式で出会った鷺宮 隼人(さぎのみや はやと)に一目惚れ。
彼は容姿端麗、運動神経バツグンで、とある大会社の御曹司の爽やかイケメン。
奏の淡い恋心は日に日に加速していくも、ある日、転校生がやってきて、隼人と良い感じに!

お似合いの二人に割って入ろうとする奏は、まるで……



 ☆ ★ ☆ ★


 
「なんで……なんであたしじゃだめなの、隼人はやとさま」

 放課後、誰も居ない教室――ぽろりとこぼれたのは、おとめの嘆きと珠の雫。
 窓の外、おとめが見つめる先――幸せそうに微笑みあうのは、夢のように美しい二人。

「やだ……まだ、諦めない! だって、何もしてないうちから諦めるなんて、絶対やだ!!」

 おとめは乱暴に涙をぬぐうと窓の外、愛しい人の隣を歩く少女をびしっと指さす。

「待っていなさい、小娘! この桜小路さくらこうじ かなで、必ず正々堂々と隼人さまを振り向かせてみせるから!!」

 おとめ――桜小路 奏は燃える決意を胸に、茜色に染まる教室を後にした。指さした先の少女が振り返り、笑みを浮かべていたことを知らずに……


 ※ ※ ※ ※


 さらさらと風に泳ぐ濡羽ぬれば色の髪、吸い込まれてしまいそうな瞳と長いまつげ。一見冷たそうな氷の美貌……でもでも、実は笑顔が意外とかわいくて、笑うとちょっと幼くなるのがもう本当にたまらないの! それに細く見えて、実はちゃんと筋肉がついているところもポイント高いわ。腹筋割れてるの、この前プールの授業で見ちゃった!

「はぁ~……隼人さまぁ。なんって素敵なのかしら!」

 夜寝る前、ベッドの中であたしの王子――鷺宮さぎのみや 隼人《はやと》――さまのお姿を噛みしめるのが、あの日からのあたしの日課。ああ、なんて幸せな時間!
 今日一日、しっかと焼き付けた隼人さまを、これでもかと反芻はんすうしてたら……あらやだ、よだれが。

「はぁ~。神様、ありがとう! あたしと隼人さまを出会わせてくれて!!」

 枕を抱きしめまぶたを閉じれば、鮮明に映し出されるのはあの運命の出会い――

 四月、あれは入学式の日の帰り。校門まで続く、葉桜になりつつある桜並木の下で、あたしが落としたものを拾ってくれたのが隼人さま。

「待って。これ……気をつけて」

 ちょっと恥ずかしそうに目を逸らして、あたしに落とし物を差し出す隼人さま。
 そのあまりにかわいい姿に一瞬、息ができなくなっちゃった。だってだって、あたしの好みドストライクなお顔だったから。ええ、思いっきり見惚れました。
 だから、うっかりお礼を言うのが遅くなっちゃったのよね。

「あ……ありがとうございました!」

 我に返った時には、隼人さまはもう歩き出していて。遠ざかるそのお背中に、精一杯のお礼を投げたんだっけ。でもドキドキしすぎて、声が上ずっちゃったんだよね。なんか懐かしいなぁ。

 それから三カ月。幸いにも同じクラスだったあたしは、毎日隼人さまを見てきた。
 一見冷たそうに見えて笑顔がかわいいところも、意外と筋肉質な体型も、国語よりも数学の方が得意なことも、なんだかんだで優しいお人好しなところも、学食ではいつも日替わりを頼む好き嫌いのなさも、隠してるけど実はあの有名な鷺宮重工の御曹司だってことも、靴のサイズが27センチだってことも、他にも色々……

「ずっと見てた……なのに!」

 今月に入って、突然現れたあの女!!

 転校生――乙女おとめ ひじり

 あたしが隼人さまに話しかけようとすると、毎度必ず現れるあの女!
 あたしに向いていた隼人さまの視線を、ことごとく奪ってくやな女!!

 でも、わかってる。隼人さまがあの子に惹かれてしまう気持ちも。
 だって、あの子はあたしとは正反対の、華奢でかわいらしい、フリルや甘いお菓子が似合う女の子。
 元々の色素が薄いのか、ミルク色の肌に天然の茶髪。しかもゆるくウェーブがかかっていて、まるでお人形みたい。さらに目も、カラコンいらずの天然アンバー・アイ。
 一方あたしはといえば……骨太な体格に、黒々としたまっすぐで硬い髪の毛。肌が白いのは自慢だけど、彼女がミルクのような白なら、あたしは青みがかった白……

 わかってる。男の子が選ぶのはいつだって、あの子みたいなかわいいかわいい、砂糖菓子みたいな女の子。でも、あたしだって……

「ダメダメ! まだ何もしてないのに、想像だけで卑屈になっちゃってどうするの、あたし!!」

 ぱんっと両頬に気合を入れて、軟弱な気持ちを吹き飛ばす。

「恋は戦い! 見てるだけで戦いもしない者に、女神は微笑まない!!」

 そうよ。あたしはまだ、何もしてない。ただ、見ていただけ。
 たしかにあの子には毎回邪魔されてるけど、もう戦いは始まってるんだから。だったらあたしはあの子を乗り越えて、隼人さまを振り向かせるだけ!

「よし! 明日こそ隼人さまに声をかけるんだから!!」

 心機一転。掲げた小さな目標を胸に、明日への期待を抱きしめ……ワクワクとした気持ちのまま、あたしはいつの間にか眠りに落ちていた。


 ※ ※ ※ ※


「桜小路! 聖に何したんだ!?」
「違っ、あたしは、ただ……」

 なんで? なんでこんなことになってるの!?
 なんで隼人さまに、あたしが睨まれてるの? なんで……

 朝、登校する生徒たちで賑わう、校舎へと続く道の真ん中で。
 あたしは、なんで隼人さまに睨まれてるの?
 震えるあの子は、なんで隼人さまに守られてるの?
 あたしはただ、あの子に宣戦布告しただけなのに。ただ、正々堂々と戦いましょうって言っただけなのに。

「聖さん、あなたのことは私たちが守ります」
「聖ちゃん、怖かったね~」
「大丈夫か、聖」

 しかも、なんか増えてるし! ってこれ、三年のイケメン生徒会長に、隣のクラスの天然金髪ショタくんに、二年のヤンキー先輩じゃない。学園内でもそこそこ有名なイケメンたちが、なんでこんなところに勢ぞろいしてるのよ!?

「違うって、何が違うんだ。聖を泣かせたのは、お前だろう」
「そんなこと言われたって……あたしにだってわからないし!!」

 最低。むしろ泣きたいのはあたしの方だっての! なによ、あの子のまわりにばっかり味方が集まって……って、ちょっと待って。
 このシチュエーション、ものすごくアレに似てない? アレよ、アレ! ネット小説とかで流行ってる、婚約破棄系悪役令嬢ってやつ!! あたしアレ、好きなのよね~……って、今はそんな場合じゃないわね。

「この期に及んでしらを切るとは、往生際が悪い」

 生徒会長がすごんできたけど、どうしろって言うのよ。わかんないものはわかんないっての。

「テメェ……一発くれてやろうか?」

 ヤンキーがバキバキと拳を鳴らしながらガンつけてきたけど……ちょっとアンタ、か弱いあたしに向かって暴力ふるう気? 顔はいいけど、性格最悪!

「聖ちゃん、元気出して。ほら、これで僕のことなぶっていいから」

 ショタ天使くんは……ちょっと意味がわからない。とりあえずあたしに攻撃してこないのはいいけど、なんであの子に鞭差し出してるの? ちょっと意味がわからない。

「桜小路……見損なったぞ。乙女みたいな女子を泣かすなんて」

 そして進み出てきた隼人さまの冷たい視線に、あたしの心臓はぎゅっと縮む。目の奥が、鼻の奥が、じんわりと熱くなってくる。
 なんでよ。なんで隼人さままで、その子の味方なのよ! あたし、何もしてないのに!!

 その時、あの子があたしを見た。目が合った瞬間、笑ったの。あの子、あたし見て、笑った。

「……怖い」

 でもすぐにうつむいちゃって。そんで一言、「怖い」って…………はぁ!?

「テメェ、聖が怖がってんだろ」
「そんなこと言われたって知らないわよ! いったい何が怖いってのよ!!」
「その凶器みてぇな、テメェのツラ以外ねぇだろうが!」

 ヤンキーがめっちゃくちゃ失礼なこと言ってきた。
 はぁ!? あたしの見た目が怖い? 失礼ね、どこが怖いっていうのよ!

「その子、怖がってなんかないわよ! だってさっきあたしのこと見て、笑ったもの!!」

 隼人さま、生徒会長、ヤンキーが怪訝そうな顔であたしを見た。天使くんはなんでか地面に転がって、一人悶えてるけど。

「桜小路……おまえ、自分の見た目が他者に与える印象、わかって言ってるのか?」
「聖さんがお前に微笑みかけるわけないだろう。お前、自分の姿、鏡で見たことないのか?」
「ありえねぇ。理解してねぇのが、ありえねぇ」

 三人ともひどくない!? それじゃまるで、あたしの見た目が怖いみたいじゃない!

「待ってよ! あたしの見た目の、どこが怖いって言うのよ!!」

 半分涙目で叫んだあたしに、三人の冷たい視線と言葉が突き刺さる。


「女言葉使う190センチ角刈りガチムチ柔道部員の、どこに怯えるなっつーんだよ!!!」


 きれいにハモった三人の叫びに、あたしはその場に崩れ落ちた。

「ひどい……ちょっと背が高くて骨太で、硬めの黒髪直毛で、色が白いから血管とか透けちゃって浮き出てるだけなのに…………ひどいわ!!」
「いや、桜小路。お前に浮き出てるのは血管じゃない。ヒゲだ」
「あなたのそれは背が高くて骨太ではなく、筋骨隆々と言うのです」
「あとテメェの髪は単なる剛毛だろうが。いいように言い換えてんじゃねぇよ」

 三人から放たれた流れるようなダメ出し口撃に、あたしのガラスハートは崩壊寸前。

「怖い……」

 そこへとどめの一言。あの子、また言った! それに深くうなずく男三人。ひどい……ひどすぎる…………

「奏くんの顔……怖いくらい、わたしの好みなの!!」

 …………は? 今なんつった、この小娘?

「は?」
「はぁ?」
「はぁぁぁぁ!?」
「はぁぁぁぁん!」

 三人の驚きの声と、約一名の変な声がきれいにハモって。
 
「わたしの逆ハーレムに加えるなら、奏くんしかいないって思ってた! 初めて見たときから、ずっと狙ってたの。隼人になんて、絶対に譲らない!!」
「じょ、冗談じゃないわよ! 逆ハーレムってアンタ、バカなの!? そもそもあたしが好きなのは隼人さまなんだから、アンタの逆ハーレムなんかに入るわけないでしょ!!」
「………………え?」

 ひっついてくる小娘、顔面蒼白の隼人さま、いつの間にか距離を取ってる生徒会長とヤンキー、地面で天国にフライアウェイした天使。なによ、なんなのよ、この状況!

「奏くぅ~~~ん」
「くっつくんじゃないわよ、小娘! ああん、待ってぇ隼人さま~~~」
「こ、こっち来んな! おい聖、嘘だろ!?」

 めちゃくちゃな矢印が結び付けたあたしたちの関係。

 武田学園入学三カ月目。
 隼人さまには拒否されちゃったけど、そう簡単に諦めるなんてやっぱり無理!

 卒業まであと三年。
 聖なんかに負けてたまるか!
 不屈の漢女おとめ、桜小路奏。
 隼人さまの心、絶対手に入れて卒業してやるんだから!

 ――あたしの戦いは、これからだ!



 ※ ※ ※ ※


「……この学校、ほんと毎日賑やかですよね」
「楽しくていいじゃない。れいちゃんは賑やかなの、苦手?」

 校門のあたりで繰り広げられてるクラスメイトの痴話喧嘩(?)を眺めながら、なんとなくつぶやいた私の言葉を隣のうららちゃん先輩が拾った。

「いえ、苦手ってことはないですけど。でも、毎日驚きの連続ではありますね」

 うん、驚きの連続。
 話を聞かないアホ眼鏡とか話を聞かないドM天使とか、露出狂に赤ちゃんプレイに緑色の肌をした人類とか青ヒゲの女生徒とか……
 この三カ月で人類の多様性とか可能性っていうものを、これでもかと思い知らされました。

「奏――あ、あそこで愛の劇場繰り広げてる、あの大きな男の子ね。あの子も悪い子じゃないのよ」

 角刈り青ヒゲ男子を指して、「やっぱり、ちょっとだけ変わってるけど」と麗ちゃん先輩は笑った。

「桜小路くんと知り合いだったんですね」
「ああ、玲ちゃんは奏と同じ特進クラスだったっけ。奏はね、中等部で同じ手芸部に入ってたの。かわいい後輩の一人よ」

 そんな麗ちゃん先輩との平和な会話の最中にも、視界の端にもぞもぞとうごめくやたら主張の強い影。

「……麗ちゃん先輩。あそこで転がってる林くん、どうします?」
「そうねぇ……女子全員に迷惑だから、回収しておきましょうか」

 この時の私は、まだ知らなかった。
 類は友を呼ぶ。
 二度あることは三度ある。
 彼らとの出会いが、まさか、あんな事になるなんて……



 ☆ ★ ☆ ★


真実はいつも1つ!

 


 
前書きのやつは、奏の脳内イメージでした♡


ちなみにこちらがいただいたネタ(原文まんま)です↓


「一体どうして振り向いてくれないの、ヒーローくん!?」

 私立ニタロウ学園に入学した主人公は、入園式で見かけたヒーローくんに一目惚れ。
容姿端麗、運動神経バツグンで財閥の息子の爽やかイケメンのヒーローくん。
主人公の淡い恋心は日に日に加速していくも、ある日、転校生がやってきて、ヒーローくんと良い感じに!

「許せない、アタシのほうが絶対ヒロインよりヒーローくんを幸せにできるのに!
 ヒーローくんをかけて、勝負よ!」

 って、ヒロインに果たし状を叩きつけたら、ヒロインってば泣いちゃった……真剣に彼をかけて戦いたかっただけなのに!

 一体何がいけないの? え? アタシの見た目が怖い?

 どこが怖いっていうのよ! 
ただちょっと身長が190センチ超の角刈りの柔道部員なだけじゃないの! まったく、なんて失礼な子なの!

 むしろ泣きたいのはアタシのほうなのに、ヒロインちゃんのまわりにばっかり味方が集まって……
ちょっとまって、アタシのこれって、もしかして悪役令嬢ってやつ!? そんな~!
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