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番外編1 ※ネタバレ注意
初めてのクリスマス ★
しおりを挟む年の瀬も押し迫ったある日、それは届けられた。
「ねえジア、これは何かしら?」
「ドレス……にしては随分と丈が短いわね」
贈り物の箱を前に、眉をハの字にして困り果てているミオソティス。その隣には、眉間に皺を寄せたアルビジア。
二人を困惑させている原因、それは今朝、オルロフから届けられたミオソティス宛の贈り物だった。
中身は真っ赤な天鵞絨のドレス一式。ドレスの首元や裾、長手袋は真っ白な毛皮で飾られた可愛らしい意匠。ただ、そのドレスの丈はやけに短く、せいぜいが膝が隠れる程度しかない。しかも、背中もかなり開いている。
「とてつもなく嫌な予感しかしないわ。ティス、これは見なかったことにしましょう」
「い、いいのかなぁ……。お礼とかどうしよう」
「無視していいから! あの変態王子、絶対ろくなこと考えてないもの」
ぷりぷりと怒るアルビジア、そしてそれを見て困ったように笑うミオソティス。
「あー、もう! 今日の今日で夜会の招待断るなんてできないじゃない。でも、こんなものが贈られてきたのにティスを一人にするなんて……」
「ジア、私なら大丈夫だから。ね? 安心して夜会、楽しんできて」
その後、ミオソティスは渋るアルビジアをなだめ説得し、なんとか無事夜会へと送り出した。
そして一息ついたその時、まるでアルビジアがいなくなるのを待っていたかのようなタイミングで、奇妙な服を着たオルロフが現れた。
「今朝贈ったもの、ちゃんと見たか?」
「オルロフ様! 見ましたけど……そのお召しになっている服もですが、一体何なのです?」
するとオルロフは「そうか、見たか」と満足そうに一人頷き、なんだか含みのあるような笑みを浮かべた。
「なあティス、お前、『クリスマス』って知ってるか?」
ミオソティスは初めて聞くその言葉に首を傾げた。そして素直に「知らない」と言うと、オルロフの笑みがますます深くなった。
「なんかな、人間たちの世界の祭りの一つらしい。大きな木を飾り付けて贈り物をしあい、親しい者と過ごすんだと」
「なんだか面白そうですね」
「だろ? そこで今朝贈ったあのドレスだ」
「あれ……ですか? あれが、そのお祭りに何か関係あるんですか?」
怪訝な表情になったミオソティスに、オルロフはしかつめらしい顔で「大ありだ」とうなずく。
「今、俺が着ているこれもだがな、あれはその祭りのための正装だ」
「あれが正装ですか!? 人間たちはこの百年の間で随分と変わったのですね……知りませんでした」
驚愕し、オルロフに尊敬の眼差しを送るミオソティス。その純粋な眼差しに、オルロフは一瞬だけ目を逸らした。
「と、とにかくだ。俺の屋敷にその飾り付けた木を用意したんだ。見に来るだろう?」
「はい! では、すぐに着替えてきますね」
好奇心に瞳をきらめかせ、跳ねるような足取りで屋敷に入っていくミオソティス。その後姿を見送るオルロフの笑顔、しかしそれは、明らかに悪い大人のものであった。
しばらくすると、ミオソティスは周りを窺うようにこそこそと屋敷から出てきた。
「オルロフ様……いくら正装とはいえ、やはりとても恥ずかしいのですが」
「いや、お前今、思い切り外套着込んでるだろ。中身、まったく見えないんだが」
「あ、当たり前です!! あんな格好で人前に出られるわけないじゃないですか!」
頬を真っ赤にしてうつむいてしまったミオソティス。それを見たオルロフは心の中で思い切り悶えていた。
そうして到着したオルロフの屋敷。そこはきらめく魔法の光で屋敷全体が彩られており、ミオソティスの心をあっという間に浮き立たせた。
さらには玄関広間にそびえ立つ大きな樅ノ木。生の木というだけでも珍しいのに、さらにそれはキラキラとした様々な人形や小物で飾り付けられ、ミオソティスにとってはまるで夢の世界のようだった。
「すごい! すごいです、オルロフ様!! まるで夢の世界に来たみたいです」
頬を上気させ、喜びを身体中で表すミオソティス。それに引きかえオルロフは落ち着かないようで、妙にそわそわとしている。
「なあ、ティス。屋敷の中は暖かいだろ? コート、預かるよ」
「あ、はい。そういえばオルロフ様のお屋敷は随分と暖かいのですね。もしかして、オルロフ様は寒がりなのですか?」
何も疑うことなく、あっさりとコートを渡すミオソティス。オルロフはそれを使用人に預けると、突然ミオソティスを抱き上げた。
「な、何するんですか! おろしてください!!」
突然のことに真っ赤になって抵抗するミオソティスに、オルロフはこの上なく楽しそうな笑顔を向けた。
「ティス、知ってるか? クリスマスってのはな、赤い服着た人からプレゼント貰えるらしいんだ」
「し、知りませんよ! そうならそうと先に言っておいてくれれば、ちゃんと用意したのに」
「いや、いい。プレゼントなら今、ここにあるからな」
そう言って笑ったオルロフの顔は子羊の前の狼、まさに捕食者のものだった。
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