運命の女神は円環を断ち切る 〜死に戻り令嬢は恋も命も諦めない!〜

貴様二太郎

文字の大きさ
上 下
21 / 23
番外編

**.漂流者は時の狭間で溺れる

しおりを挟む
 あたしは悪くない。
 なのに、なんでこんなエンディングに……


 ※ ※ ※ ※


 あたしは昔から運が悪かった。
 まず、親ガチャ。ブサイクなクソ親父に似たせいで、結婚できなかった。
 次に、時代。就職氷河期のせいで、ブラックにしか入れなかった。クソ過ぎて三日で辞めた。
 そして、今。店舗特典目当てで予約したゲームを引き取りに外出たら、歩道橋の階段から落ちて死んだ。

 あたしの人生ってなんだったんだろ。
 もっと美人に生まれてたら。もっとお金持ちの家に生まれてたら。もっと周囲に恵まれてたら。もっといい時代に生まれてたら。もっと……もっと……

 救急車で運ばれてく自分を見ながら、あたしはなんでこんなに運が悪いんだってムカついてきた。

「もっとかわいく生まれてたら……あたしだって、きっと」

 例えば。今日、これからやるはずだった乙女ゲー「永劫回帰DESTRUCTION《ディストラクション》2」、これの主人公モルタとか、無印主人公とか、そのライバルだった王女アブンダンティアとか……そういう美少女に生まれてたら、あたしだって。

「ふふ、見ーつけた」

 いきなり後ろから声がして振り向いたら、ハリウッド女優かよって美女が立ってた。

「こんにちは。私ねぇ、異世界で神様やってるんだぁ。今日はズバリ、あなたをスカウトしにきちゃいましたぁ」
「うそ、マジで⁉」

 最後の最後できた! クソみたいなあたしの人生って、もしかしてこれのためのフラグだったんじゃね?

「今ねぇ、私のいる世界の王女様が死にかけてるの。ていうかぁ、このままだと死んじゃうんだぁ。アブンダンティアちゃん」

 アブンダンティアって……もしかしてこれ、ゲーム世界に転生ってやつ⁉ いや、小説の世界に転生ってパターンも捨てがたいな。

「アブンダンティアに転生すればいいの?」
「うん。ただアブンダンティアちゃんの中に入ったら、こっちのあなたの体は魂なくなるから死んじゃうけど。どうする?」

 そんなん決まってる。あんなクソな体なんかいらない。アブンダンティアになれるんなら、そっち選ぶに決まってる。
 若さも、美貌も、お金も。全部持ってるなんてずるい。死ぬんならそれ、全部ちょうだいよ。あたしが有効活用してあげるから。

「やる」

 じゃあね、低スペックな古いあたし。


 ※ ※ ※ ※


「十三歳⁉ 聞いてないんだけど!」

 無印の「永劫回帰DESTRUCTION」に出てきたアブンダンティアは十六歳だった。てことはもしかしてこれ、ゲーム始まる前の時間に転生ってやつ?
 えー、予定と違う。……でも、まあいっか。ゲーム終わったあとの時間とかだったらどうにもできなかったけど、前なら。たく、あのクソ女神ちゃんと説明しとけっての。

 えーと、アブンダンティアが十三歳ってことは……サートゥルヌスは十七歳か。無印で出てきたサートゥルヌスは二十歳だったけど、十代のサートゥルヌス見られるとかラッキーじゃん。超楽しみ。
 無印のときは攻略できなかったからなぁ、サートゥルヌス。主人公チェンジの2で攻略対象になったけど、無印より前の時間の今から攻略ってできんのかな?

「あたしの知ってるのと違う!」

 アイアースサポートキャラから渡された攻略対象ヒーローたちの情報は、あたしの知ってるものと微妙にずれてた。
 まず、年齢。サートゥルヌスはアブンダンティアより四つ上だったはずなのに、ここでは三歳差の十六歳。しかも2の主人公のモルタとすでに婚約済み。

 ふざけんな! まだ2が始まる前の時間なのに、なんでもう攻略終わってんだよ‼
 モルタ、絶対に許さねぇ。……あ、もしかしたらこれって、モルタの中身も転生者なんじゃね? てことは、あたしって役割的に悪役令嬢?

「オーケーオーケー。てことは、ヒドインは最終的に死刑か国外追放あたり?」

 これ年齢とか微妙にずれてるのは、もしかして二次創作の世界に転生したからなんじゃね? だとすると前世の知識あんまり使えないな。どの二次創作なのか全然わかんないし。
 でも、あったかな? 十三歳のアブンダンティアに転生する小説なんて。アブンダンティアに転生するやつ結構読んでたけど、これは読んだ覚えないなぁ。

 ま、いいや。とりあえずまずは攻略対象全員フリーに戻ってもらわなきゃ。
 待っててね、サートゥルヌス。あたしがヒドインの洗脳から解放してあげるから。


 ※ ※ ※ ※


「なんでだよ! 話が違うじゃねぇかクソ女神‼」

 なんで。なんであたしが元のクソな自分に戻されて、こんな牢屋なんかに入れられなきゃなんねぇんだよ!

「話が違うって、なぁに?」
「クソ女神!」

 あたしの今の不幸の元凶、クソ女神がいきなり目の前に現れやがった。なにキョトンとしてんだよ! お前のせいであたしは……あたしは!

「ここ、永ディスの世界じゃなかったのかよ!」
「えぇ~、私はそんなこと一言も言ってないよぉ」
「は……? いや、ここ永ディスの世界でしょ? ゲームか二次小説かはわかんなかったけど。だって、アブンダンティアって無印の方のライバルキャラじゃん!」

 無印の主人公は見かけなかったけど、2の主人公はいたし、攻略対象サートゥルヌスたちだっていた。それぞれ微妙に年齢とか立ち位置とか違ってたけど。

「私はぁ、私のいる世界の死んじゃう王女様の体に入らないかって聞いただけだよぉ」
「じゃあここ永ディスの世界じゃないってこと⁉ なにそれ、詐欺じゃん!」
「やだぁ、詐欺だなんて人聞きの悪い。私ぃ、最初から一言もゲーム世界とか小説世界なんて言ってないでしょぉ」

 そんな……だって、こんなシチュどう考えてもweb小説の異世界転生だったじゃん。愛され逆ハーで大勝利のやつだったじゃん。

「じゃあ……じゃあ、なんだったんだよ! どうしてあたしを転生させたんだよ‼」
「えーと、暇だったから?」
「……は?」

 なんだよ。なんだよ、それ。

「私もねぇ、永ディスやってたよぉ。でね、自分の世界が永ディスの世界にそっくりだなぁって思ってた。だからねぇ、ちょっと遊んでみたくなっちゃったんだぁ」

 クソ女神が無邪気に笑う。

「面白かったよぉ。アブンダンティア逆ハーエンドはなかなかにR18でこれはこれでアリって感じだったしぃ、モルタトゥルーエンドはバッドエンド乗り越えて辿り着く王道って感じでこっちも楽しかったぁ」
「待ってよ! あたしの逆ハーエンドって何⁉ そんなの知らない‼」

 くすくすと。クソ女神はあたしを見て笑った。

「あったんだよぉ、そういう未来エンドも。でもねぇ、サートゥルヌスちゃんがロードして、モルタちゃんがやり直したから、上書きされてその未来はなかったことになったんだぁ」
「待ってよ。サートゥルヌスがロードしたって、どういうこと?」

 やっぱここってゲームの世界だったの? でも、なんでサートゥルヌスが?

「サートゥルヌスちゃんってばね、『モルタがいない世界なんていらないー』ってキレちゃってぇ、ヤーヌスちゃんの力借りて時間戻しちゃったの。そのときにヤーヌスちゃんがちょーっと協力したみたいでぇ、モルタちゃんには巻き戻る前の記憶が残るようにしたみたい~」

 それって死に戻り⁉ じゃあ、本当はあったあたしの逆ハーエンドは、それでなかったことにされたってこと?

「ずるい! あたしもロードしてよ‼」
「ごめんねぇ、無理~。時間は私の管轄外でーす」
「ずるいずるいずるい! なんでモルタはできて、あたしはダメなんだよ‼」

 地団太を踏むあたしを見て、クソ女神は憐れむように嗤った。

「だってぇ。あなたにはぁ、あなたのために大切なもの命や記憶を捧げてくれるような相手、いなかったでしょぉ」

 言い返せなかった。
 だって、あたしの周りにいたのは、盗まれて心が空っぽになったお人形だけだったから。

「でもぉ、楽しかったよぉ。奪ってでも全部を欲しがったあなたの強欲さ、私は好きだった」

 クソ女神があたしを抱きしめた。そして甘ったるい匂いが鼻をかすめた直後、唇にふわりと温かいものが落とされて――

 あたしの人生ってなんだったんだろ。
 もっと美人に生まれてたら。もっとお金持ちの家に生まれてたら。もっと周囲に恵まれてたら。もっといい時代に生まれてたら。もっと……もっと……


 ※ ※ ※ ※


「あーあ。ヤーヌスちゃんにも怒られちゃったしぃ、しばらくはリアルゲームできなくなっちゃったなぁ」

 ホムンクルスの中から盗み出した魂を手のひらで転がし、ラウェルナは小さなため息を吐いた。

「拾ってきた魂は元の場所に返してきなさいって、ヤーヌスちゃんってばお母さんみたいなんだからぁ。あ、そーだ! せっかくだからぁ、日本行くついでに色んな漫画とかゲームとかゲットしてこよっと」

 気まぐれで残酷な女神は微塵も反省することなく、意気揚々と異世界へと消えていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

転生悪役令嬢は冒険者になればいいと気が付いた

よーこ
恋愛
物心ついた頃から前世の記憶持ちの悪役令嬢ベルティーア。 国の第一王子との婚約式の時、ここが乙女ゲームの世界だと気が付いた。 自分はメイン攻略対象にくっつく悪役令嬢キャラだった。 はい、詰んだ。 将来は貴族籍を剥奪されて国外追放決定です。 よし、だったら魔法があるこのファンタジーな世界を満喫しよう。 国外に追放されたら冒険者になって生きるぞヒャッホー!

【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。

るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」  色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。  ……ほんとに屑だわ。 結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。 彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。 彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。

悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません

れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。 「…私、間違ってませんわね」 曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話 …だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている… 5/13 ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます 5/22 修正完了しました。明日から通常更新に戻ります 9/21 完結しました また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います

公爵令嬢は、どう考えても悪役の器じゃないようです。

三歩ミチ
恋愛
*本編は完結しました*  公爵令嬢のキャサリンは、婚約者であるベイル王子から、婚約破棄を言い渡された。その瞬間、「この世界はゲームだ」という認識が流れ込んでくる。そして私は「悪役」らしい。ところがどう考えても悪役らしいことはしていないし、そんなことができる器じゃない。  どうやら破滅は回避したし、ゲームのストーリーも終わっちゃったようだから、あとはまわりのみんなを幸せにしたい!……そこへ攻略対象達や、不遇なヒロインも絡んでくる始末。博愛主義の「悪役令嬢」が奮闘します。 ※小説家になろう様で連載しています。バックアップを兼ねて、こちらでも投稿しています。 ※以前打ち切ったものを、初めから改稿し、完結させました。73以降、展開が大きく変わっています。

【完結】リクエストにお答えして、今から『悪役令嬢』です。

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
恋愛
「断罪……? いいえ、ただの事実確認ですよ。」 *** ただ求められるままに生きてきた私は、ある日王子との婚約解消と極刑を突きつけられる。 しかし王子から「お前は『悪』だ」と言われ、周りから冷たい視線に晒されて、私は気づいてしまったのだ。 ――あぁ、今私に求められているのは『悪役』なのだ、と。  今まで溜まっていた鬱憤も、ずっとしてきた我慢も。  それら全てを吐き出して私は今、「彼らが望む『悪役』」へと変貌する。  これは従順だった公爵令嬢が一転、異色の『悪役』として王族達を相手取り、様々な真実を紐解き果たす。  そんな復讐と解放と恋の物語。 ◇ ◆ ◇ ※カクヨムではさっぱり断罪版を、アルファポリスでは恋愛色強めで書いています。  さっぱり断罪が好み、または読み比べたいという方は、カクヨムへお越しください。  カクヨムへのリンクは画面下部に貼ってあります。 ※カクヨム版が『カクヨムWeb小説短編賞2020』中間選考作品に選ばれました。  選考結果如何では、こちらの作品を削除する可能性もありますので悪しからず。 ※表紙絵はフリー素材を拝借しました。

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜

川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。 前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。 恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。 だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。 そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。 「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」 レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。 実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。 女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。 過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。 二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。

【完結】断罪された悪役令嬢は、全てを捨てる事にした

miniko
恋愛
悪役令嬢に生まれ変わったのだと気付いた時、私は既に王太子の婚約者になった後だった。 婚約回避は手遅れだったが、思いの外、彼と円満な関係を築く。 (ゲーム通りになるとは限らないのかも) ・・・とか思ってたら、学園入学後に状況は激変。 周囲に疎まれる様になり、まんまと卒業パーティーで断罪&婚約破棄のテンプレ展開。 馬鹿馬鹿しい。こんな国、こっちから捨ててやろう。 冤罪を晴らして、意気揚々と単身で出国しようとするのだが、ある人物に捕まって・・・。 強制力と言う名の運命に翻弄される私は、幸せになれるのか!? ※感想欄はネタバレあり/なし の振り分けをしていません。本編より先にお読みになる場合はご注意ください。

処理中です...