運命の女神は円環を断ち切る 〜死に戻り令嬢は恋も命も諦めない!〜

貴様二太郎

文字の大きさ
上 下
15 / 23
3周目

10.運命の女神は糸を拾い上げる

しおりを挟む
 王宮の一般開放されている庭園の一角、しゃれた作りの四阿ガゼボで行われている茶番劇。それを見て私は確信した。

 ――また巻き戻った!

 でも今回は一度目のときよりも目覚める時期が遅くなっていた。この茶番劇を見たのは確かフェブルウスの月二月二十八日。前回はヤーヌスの月一月二十日だったから一ヶ月以上も遅くなっている。
 もしかしてこの巻き戻り、回数を重ねるごとに戻れる時間が短くなっていく?

 できることならば最初と同じヤーヌスの月に戻って欲しかった。この一ヶ月、サートゥルヌスは既に何回もラウェルナの術を使ってしまっていたから。今も私に隠密の術がかかっている。このままではいけない。アブンダンティア様の調査はひとまず打ち切りにしなくては。
 それに前回の巻き戻りで、私を殺したのはサートゥルヌスではなかったことが確定した。最初に私を殺したのはサートゥルヌスに化けたアイアース、二回目は乗っ取られたアブンダンティア様。

 サートゥルヌスは私を殺していなかった。
 なら、今度はお父様じゃなくてサートゥルヌスに全てを話してみよう。私の知ってること全部話して、ラウェルナの呪縛から逃れられないか二人であがいてみよう。
 荒唐無稽な話だけど、サートゥルヌスなら信じてくれる。前回お父様が信じてくれたように、サートゥルヌスも、きっと。

「サートゥルヌス、大事な話があるの。これから少し時間取れる?」
「もちろん! モルタのためなら時間なんていくらでも作るよ」

 茶番劇が終わって解放されたサートゥルヌスを捕まえると、いつも通りの即答で了承を得られた。
 人目を避けられる場所を聞いたら、なぜかものすごく張り切ってサートゥルヌスのアパートメントの部屋へと案内された。

「防音の結界もばっちりだから思う存分声出しても大丈夫だからね」
「普通に話すだけだから、そんなに大声出すつもりないのだけど」
「え⁉」
「え?」

 顔を赤くしたり驚いたり、いったい何を想定していたのかしら。他人には聞かれたくない大事な話がしたいから人気のない場所を教えてって言っただけなのに。

「本題に入らせてもらうわね。……サートゥルヌス、私はユーノーの月六月二日に死ぬの」
「…………え? いやいや、待って、早まらないで! っていうか絶対ヤダ‼」

 真っ青な顔で「自殺、ダメ、絶対」と片言で叫ぶとサートゥルヌスは私をぎゅうぎゅうと苦しいくらいの力で抱きしめた。あの、本当に苦しいからちょっと力を緩めて欲しい。

「トゥルス、ちょっと落ち着いて」
「落ち着けるわけない! モルタが自殺するなんて……そんな、そんなことになるくらいなら攫って仮死状態にして色々ヤってから俺が死ぬとき一緒に殺すーーー‼」
「落ち着いて! 違うの、自殺なんてしないから」
「モルタが死んだら俺も死ぬぅぅぅぅぅ」

 さすがサートゥルヌス、ぶれなくて安心するわ。でもこのままじゃ話にならないわね。

「私は死ぬつもりなんてない。むしろ生きたい。生きて、トゥルスとふたりでユーノーの月三日を迎えたいの!」

 ぐすぐすとぐずるサートゥルヌスを抱きしめ、子どもにするように優しく頭をなでる。すると少しずつ落ち着いてきたのか、ようやく話を聞いてもらえそうな状態になった。

「また恐慌状態になったら困るから、端的に結果から伝えるわね。私、巻き戻ったの」
「巻き戻った……って、え、どういうこと⁉」
「だから巻き戻ったの。ユーノーの月二日に死んで、つい先ほど目覚めたの。ちなみに巻き戻るのはこれで二回目。私、すでに二回死んでいるの」

 しばらく呆けていたサートゥルヌスだったけど、内容を理解したのか目が昏くよどんできた。

「ねえ、モルタ殺したのって……誰?」
「一度目はトゥルスに化けたアイアース。二度目はアブンダンティア様よ」
「よしわかった。今すぐその二人殺してくるね」
「だめだめ、待って! 話を最後まで聞いてからにして」
「わかった。最後まで聞いたら殺しに行くね」

 なんですぐそういう物騒な方向に思考がいくのかしら。私もあまり人のことは言えないけれど、ちゃんと殴るまでにとどめているのに。
 今にも飛び出していきそうなサートゥルヌスを宥めながら、知っていることを全て話した。するとサートゥルヌスは暫くの間難しそうな顔をしていたかと思うと、何かを諦めたようにため息を吐いた。

「王女にラウェルナの加護がついてるってことは、殺すのはまず無理だな」
「そうね。それにトゥルスが王女に近づくと、おそらく取り込まれてしまうわ。前回はそうだったの」
「前回の俺、まったく憶えてねぇけど情けねぇな! とはいえ、相手は神様だもんなぁ。さすがに気合でなんとかするってのはムチャだな」

 どうしたらいいのだろう。巻き戻ったものの対抗策が浮かばない。神話のようにヤーヌス神が全て解決してくださるのなら、なんの苦労もないのだけど。

「それとね、この巻き戻りなんだけど……たぶんこれ、そう何度も使えないと思う。私、最初に巻き戻ったときはヤーヌス二十日に目覚めたの。でも二回目は今日、フェブルウス二十八日。巻き戻るたび、ユーノー二日までの時間が短くなってる」
「目覚めるたび短く……そうか、要求される代償が段々大きくなっていくんだな」
「代償? トゥルス、あなたこの巻き戻りのこと何か知っているの?」

 私の問いにサートゥルヌスはあっさりとうなずいた。

「だぶんね、モルタのその巻き戻り……俺が原因だ」

 巻き戻りの謎の答えが唐突に降ってきた。

「俺ね、趣味で術式が失われた術の復元してるんだ。で、つい最近、ヤーヌス神の過去への扉を開くっていう術を復元したんだ」
「過去への扉……それが時間を巻き戻す術!」
「たぶんだけど、モルタが死んで絶望した俺がその術を使ったんだと思う。モルタがいなくなった世界なんていらないって」
「なるほど、トゥルスならやるわね。でも、なぜトゥルスはその術を自分に使わなかったの?」

 サートゥルヌスは「たぶん使ってる」と困ったようなな笑みを浮かべた。

「俺も巻き戻ってるんだと思う。でも、俺は何も憶えてないんだ」
「なぜかしら。私にはこんなにはっきりと記憶が残っているのに」
「術の代償だよ」

 一瞬だけ泣きそうな顔をしたサートゥルヌス。でもすぐにいつもの笑顔に戻って巻き戻りの術の説明を始めた。

「過去への扉を開く術、この術の代償は術者の命と記憶なんだ。だから、俺には前回の記憶が残らない。術の発動と共に消えちゃうから」
「命と記憶って……そんな! じゃあ、トゥルスは私のために二回も死んだの⁉」
「二回もモルタを死なせたんだよ。そんな俺が死ぬのなんて当然だろ。それにモルタのいない世界なんて俺にはなんの価値もない。喜んで命くらい差し出すよ。記憶は正直嫌だけど」
「当然なんかじゃない! トゥルスは自分の命を軽く見すぎ‼ 私にとってはあなたの命は私の命と同じくらい重いの。そんな簡単に捨てるようなこと……言わないでよ」

 サートゥルヌスは私を大事にし過ぎなの。お願いだから、私と同じくらい自分も大切にしてよ。じゃないと、いつかあっさりと消えてしまいそうで……怖い。

「ごめん。……あと、ありがとう。俺だってモルタとずっと一緒にいたい。だからそんな簡単にモルタ残して死なないよ。死なば諸共でいくから安心して」
「どこに安心できる要素があるかわからないけど、わかった。もし私ひとり残していったら、トゥルスのことなんて忘れて新しい恋に生きるから」
「ぜってぇ死なねぇ‼」

 マールスの月三月十五日。
 前回はこの日にサートゥルヌスとの婚約が解消された。けれど、今回は今のところ私たちの婚約は続いている。徹底的にアブンダンティア様を避けているサートゥルヌスも今のところは大丈夫そう。
 サートゥルヌスが思うようにならないからか、アブンダンティア様は私のところに暗殺者を次々と送り込んできているらしい。私は暗殺者を見たことはないけれど。
 おそらくサートゥルヌスとお父様が先回りして排除してくださっているのだと思う。

 でもそんな平穏な日々は、長くは続かなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

【完結】断罪された悪役令嬢は、全てを捨てる事にした

miniko
恋愛
悪役令嬢に生まれ変わったのだと気付いた時、私は既に王太子の婚約者になった後だった。 婚約回避は手遅れだったが、思いの外、彼と円満な関係を築く。 (ゲーム通りになるとは限らないのかも) ・・・とか思ってたら、学園入学後に状況は激変。 周囲に疎まれる様になり、まんまと卒業パーティーで断罪&婚約破棄のテンプレ展開。 馬鹿馬鹿しい。こんな国、こっちから捨ててやろう。 冤罪を晴らして、意気揚々と単身で出国しようとするのだが、ある人物に捕まって・・・。 強制力と言う名の運命に翻弄される私は、幸せになれるのか!? ※感想欄はネタバレあり/なし の振り分けをしていません。本編より先にお読みになる場合はご注意ください。

【完結】リクエストにお答えして、今から『悪役令嬢』です。

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
恋愛
「断罪……? いいえ、ただの事実確認ですよ。」 *** ただ求められるままに生きてきた私は、ある日王子との婚約解消と極刑を突きつけられる。 しかし王子から「お前は『悪』だ」と言われ、周りから冷たい視線に晒されて、私は気づいてしまったのだ。 ――あぁ、今私に求められているのは『悪役』なのだ、と。  今まで溜まっていた鬱憤も、ずっとしてきた我慢も。  それら全てを吐き出して私は今、「彼らが望む『悪役』」へと変貌する。  これは従順だった公爵令嬢が一転、異色の『悪役』として王族達を相手取り、様々な真実を紐解き果たす。  そんな復讐と解放と恋の物語。 ◇ ◆ ◇ ※カクヨムではさっぱり断罪版を、アルファポリスでは恋愛色強めで書いています。  さっぱり断罪が好み、または読み比べたいという方は、カクヨムへお越しください。  カクヨムへのリンクは画面下部に貼ってあります。 ※カクヨム版が『カクヨムWeb小説短編賞2020』中間選考作品に選ばれました。  選考結果如何では、こちらの作品を削除する可能性もありますので悪しからず。 ※表紙絵はフリー素材を拝借しました。

【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。

るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」  色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。  ……ほんとに屑だわ。 結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。 彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。 彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。

やり直し令嬢の備忘録

西藤島 みや
ファンタジー
レイノルズの悪魔、アイリス・マリアンナ・レイノルズは、皇太子クロードの婚約者レミを拐かし、暴漢に襲わせた罪で塔に幽閉され、呪詛を吐いて死んだ……しかし、その呪詛が余りに強かったのか、10年前へと再び蘇ってしまう。 これを好機に、今度こそレミを追い落とそうと誓うアイリスだが、前とはずいぶん違ってしまい…… 王道悪役令嬢もの、どこかで見たようなテンプレ展開です。ちょこちょこ過去アイリスの残酷描写があります。 また、外伝は、ざまあされたレミ嬢視点となりますので、お好みにならないかたは、ご注意のほど、お願いします。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

転生悪役令嬢は冒険者になればいいと気が付いた

よーこ
恋愛
物心ついた頃から前世の記憶持ちの悪役令嬢ベルティーア。 国の第一王子との婚約式の時、ここが乙女ゲームの世界だと気が付いた。 自分はメイン攻略対象にくっつく悪役令嬢キャラだった。 はい、詰んだ。 将来は貴族籍を剥奪されて国外追放決定です。 よし、だったら魔法があるこのファンタジーな世界を満喫しよう。 国外に追放されたら冒険者になって生きるぞヒャッホー!

公爵家次男はちょっと変わりモノ? ~ここは乙女ゲームの世界だから、デブなら婚約破棄されると思っていました~

松原 透
ファンタジー
異世界に転生した俺は、婚約破棄をされるため誰も成し得なかったデブに進化する。 なぜそんな事になったのか……目が覚めると、ローバン公爵家次男のアレスという少年の姿に変わっていた。 生まれ変わったことで、異世界を満喫していた俺は冒険者に憧れる。訓練中に、魔獣に襲われていたミーアを助けることになったが……。 しかし俺は、失敗をしてしまう。責任を取らされる形で、ミーアを婚約者として迎え入れることになった。その婚約者に奇妙な違和感を感じていた。 二人である場所へと行ったことで、この異世界が乙女ゲームだったことを理解した。 婚約破棄されるためのデブとなり、陰ながらミーアを守るため奮闘する日々が始まる……はずだった。 カクヨム様 小説家になろう様でも掲載してます。

処理中です...