11 / 13
許されない罪
しおりを挟むリーネは酷く落ち込んでいた。
「リーネの!ばか!!」
その理由は主人であるヴィクターである。いつもは涼しげに腹の読めない笑みを浮かべている男が、いまや半泣きでリーネを離さないとばかりに抱きしめているのだ。
(どうしよう…)
許嫁(仮どころか偽だとヴィクターは言っていた)や、フィンの件で決して良くなかった虫の居所が、リーネがヴィクターが留守の間床で寝ていたととある筋(セバスチャンだろうか)からバレてしまい、大目玉をまず食らってしまった。
「はぁ?!?!リーネ、床で寝てたの!?ありえない!!ちゃんと、寝食はすることって約束しただろう?」
「だって、さすがにご主人様も留守の間に奴隷の俺がべ、ベッドで寝るなんて…」
むしろそっちの方が怒らせてしまう…と、仁王立ちでリーネを見下ろすヴィクターに、怒気をいち早く感じで平伏したリーネはしょぼんとして告げる。
「ちょ、リーネ!!そんな立ってくれ!」
チラッと、顔をあげれば、「こういう時どういう顔したらいいの?」とでも言いたげなヴィクターと、飯はちゃんと食べていたのかを急遽アンに確認しているロイの姿があった。
「申し訳ございません」
「その言い方いやって言ったよね」
「ごめんなさい」
リーネが更に頭を下げれば、五条はこれ以上言っても無駄かと深いため息をついて、今日からは自分がいてもいなくても、必ずベッドで寝ることと約束させた。
「さあ、立って」
「ご、ご主人様…」
「ヴィクター…そう呼んでくれたら許してあげるかもね。様もなし」
「あの、それは、さすがに…」
「はあ…」
ヴィクターのため息にリーネはびくりと肩を揺らす。それをヴィクターは悲しげに見た後、セバスチャンに「来訪者が…」がと耳打ちされ、ロイにあとを任せてヴィクターは一旦部屋を出てしまった。
「忙しいんだな、ご主人様は」
せっかく久しぶりに会えたのに、直ぐに部屋を去ったヴィクターに、少し寂しげにリーネは呟く。
「ああ、あの女の件を片付けないといけないからな」
「?」
「許嫁って言ってた女だ。まったく、シェラード家の人間になったわけでもないのに、使用人を好きに使って、リーネを屋敷から追い出すなんてな…さすがにあの人もキレたんだろ」
ロイはなんともなげにそう言うと、さあ、身体が冷えてるから風呂に入れとリーネを浴場に押し込んだ。
「俺が頭洗ってやるよ。干し草、ついてる」
少し疲れた顔をしながら、ロイもふろ場にはいり、腕まくりをする。
「い、や、悪いって。ロイも帰ってきたばっかりなんだから…」
それか、早く休んでくれ!というリーネの言葉に、ロイは酷くガッカリした顔をする。
「これが楽しみで倍の仕事こなしてきたんだ。やらせろ」
「う、うん」
そんな顔されては、嫌とも言えず、リーネはすすめられるままバスタブに浸かる。
頭をもっと外に出せと言われ、縁に首をあずければ、慣れた様子でロイがリーネの髪を濡らす。
「熱くないか?」
「ん…きもちい」
「そっか」
ロイはリーネの晒された白い首をじっと見る。
(こんな無防備なのは俺にだけだよな)
そう思うと満足感、充実感が身体が満たす。その感覚は酷くロイを心地よくさせた。
こうして、ロイがリーネを風呂場で丁寧に洗い、温かいミルクを飲ませ、ベッドに寝かせている間に、ヴィクターは玄関で騒ぎ立てる来訪者のほうへと向かう。
「なぜです!!私たちの婚約は皇帝陛下も認められたもの!!」
メアリーの美しいと評判の顔が見にくくゆがむ。
「はあ…認めたというよりは、否定していないだけで、あの男は僕が誰と結婚をしたいと望もうが邪魔はしてこない。そういう契約だからだ」
「で、でも、私たちの一族と結びつきができれば…日の浅いシェラード家にも箔がつきますし」
食い下がるメアリーと慌てて駆けつけてきたその両親に、ヴィクターはぞっとするほど冷たい目を向ける。
「ひい」
「箔、ですかあ。箔ねえ。いったいその箔とやらが幾らになるといんだ?俺は俺の力でのし上がる。これからもだ…お前たち貴族様のごっこ遊びに付き合う筋合いはねえんだよ」
声色がさらに冷たくなり、乱暴な口調になると、メアリーたちはぞっとした目でヴィクターを見た。
「は、っはは、やはり名ばかりの伯爵様はすぐに化けの皮が剝がれるな」
「ほう」
「お、お前なんぞの力を借りなくとも、我ら歴史ある一族ならば!!」
「お、お父様」
ガタガタ震えながらも貴族である矜持が父親の下手な口を回らせる。それをメアリーが血の気の引いた顔で止める。
母親もまた、その細く骨ばった手で夫を止める。
「言いたいことはそれだけか。そういえば、お前たちにはつまらない額の借金があるようだな。しかもこの冬の領地では作物がほとんど実らなかった、とか」
「き、貴様あ」
「せめてもの恩情で、借金が返せる程度の手切れ金でも渡してやろうと思ったが…」
「あ、ああ」
父親が脂汗を浮かべながら、にやりと笑う。そう、結局どいつもこいつも金だけが目当てなのだ。あからさまな態度にヴィクターは内心舌打ちをする。
一呼吸置き、誰もからうっとりとされる得意の笑みを浮かべた。
「あ、ヴィクター様」
メアリーがどこか期待を込めた目で見るのを、しっかりと見返す。
馬鹿な女。
「残念。俺の一番大切なものを傷つけたんだ。その罪は、償ってもらわなければ、ね。
高貴な貴族様なら、その辺の道理はよくわかっているでしょう」
がくり。
「連れ出せ」
膝から崩れ落ちる彼らをしり目に、ヴィクターは屋敷へと戻っていくのだった。
0
お気に入りに追加
49
あなたにおすすめの小説
初恋はおしまい
佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。
高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。
※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。
今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。
キミと2回目の恋をしよう
なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。
彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。
彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。
「どこかに旅行だったの?」
傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。
彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。
彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが…
彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?
拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件
碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。
状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。
「これ…俺、なのか?」
何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。
《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て運命の相手を見つけるまでの物語である──。》
────────────
~お知らせ~
※第5話を少し修正しました。
※第6話を少し修正しました。
※第11話を少し修正しました。
※第19話を少し修正しました。
────────────
※感想、いいね大歓迎です!!
十二年付き合った彼氏を人気清純派アイドルに盗られて絶望してたら、幼馴染のポンコツ御曹司に溺愛されたので、奴らを見返してやりたいと思います
塔原 槇
BL
会社員、兎山俊太郎(とやま しゅんたろう)はある日、「やっぱり女の子が好きだわ」と言われ別れを切り出される。彼氏の売れないバンドマン、熊井雄介(くまい ゆうすけ)は人気上昇中の清純派アイドル、桃澤久留美(ももざわ くるみ)と付き合うのだと言う。ショックの中で俊太郎が出社すると、幼馴染の有栖川麗音(ありすがわ れおん)が中途採用で入社してきて……?
【完結】薄幸文官志望は嘘をつく
七咲陸
BL
サシャ=ジルヴァールは伯爵家の長男として産まれるが、紫の瞳のせいで両親に疎まれ、弟からも蔑まれる日々を送っていた。
忌々しい紫眼と言う両親に幼い頃からサシャに魔道具の眼鏡を強要する。認識阻害がかかったメガネをかけている間は、サシャの顔や瞳、髪色までまるで別人だった。
学園に入学しても、サシャはあらぬ噂をされてどこにも居場所がない毎日。そんな中でもサシャのことを好きだと言ってくれたクラークと言う茶色の瞳を持つ騎士学生に惹かれ、お付き合いをする事に。
しかし、クラークにキスをせがまれ恥ずかしくて逃げ出したサシャは、アーヴィン=イブリックという翠眼を持つ騎士学生にぶつかってしまい、メガネが外れてしまったーーー…
認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。
全17話
2/28 番外編を更新しました
記憶の欠けたオメガがヤンデレ溺愛王子に堕ちるまで
橘 木葉
BL
ある日事故で一部記憶がかけてしまったミシェル。
婚約者はとても優しいのに体は怖がっているのは何故だろう、、
不思議に思いながらも婚約者の溺愛に溺れていく。
---
記憶喪失を機に愛が重すぎて失敗した関係を作り直そうとする婚約者フェルナンドが奮闘!
次は行き過ぎないぞ!と意気込み、ヤンデレバレを対策。
---
記憶は戻りますが、パッピーエンドです!
⚠︎固定カプです
からっぽを満たせ
ゆきうさぎ
BL
両親を失ってから、叔父に引き取られていた柳要は、邪魔者として虐げられていた。
そんな要は大学に入るタイミングを機に叔父の家から出て一人暮らしを始めることで虐げられる日々から逃れることに成功する。
しかし、長く叔父一族から非人間的扱いを受けていたことで感情や感覚が鈍り、ただただ、生きるだけの日々を送る要……。
そんな時、バイト先のオーナーの友人、風間幸久に出会いーー
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる