24 / 28
24
しおりを挟む
ラパルマン王国には、聖女と呼ばれるひとがいる。彼女たちは神殿で毎日祈りを捧げ、あちこちに巡礼をして瘴気を浄化する。
聖女に選ばれるのは、清浄や治癒の魔法が使える少女。
セリア・カサードもその一人だった。
かつて大聖女と崇められた祖母のマレーナから力を受け継いでいたセリアは、聖女の最有力候補だった。
彼女のもとで、セリアは魔法の訓練や勉強に励んだ。次第に同世代の子どもと遊ぶ時間も無くなっていった。
しかし寂しく思うことは無かった。全ては、聖女となる日のためだった。
さらに、優れた力を王家に取り込むため、聖女の務めを終える頃に、同い年の王子と結婚することも決まっていた。
大恋愛の末、幼馴染と結ばれたマレーナと違い、思い人もないセリアはそれを責務と思って受け入れ、王子ともそれなりに親しい関係を築いていた。
ところが、ダフネが全てをぶち壊した。
ダフネは国中の尊敬を集める聖女となり、高貴な王子と結婚したいばかりに、ライバルだったセリアを次期聖女の座から引きずり下ろした。
証拠と証言をでっち上げ、王女のサファイヤの耳飾りを盗んだという濡れ衣を着せたのだ。
結局セリアの疑いは晴れたが、ごたごたの最中にまんまとダフネが新聖女に就任。王子とセリアの婚約は勝手に破棄され、ダフネとの縁談が進められていた。
たとえ王子と結婚できなくなろうが、構わない。
聖女になることだけが、セリアの生きる意味だった。
セリアは、全てを失ってしまった。自暴自棄になり、私物を壊して、我に返っては泣きながら修復魔法を使った。
荒れては塞ぎ込むセリアに留学を勧めてくれたのは、両親だった。家の名前に泥を塗った自分を厄介払いしたいのか、とも思ったが、どこにいても後ろ指を差される狭い島国から逃がそうとしたのだと、今なら分かる。
留学生活はなかなか楽しかった。外国語は教養として長年学んでいたので困らず、今まで勉強する機会の少なかったことを色々と学べた。
何よりも、普通の女の子のように、学校生活というものを満喫できたことが嬉しかった。
語りを止めると、セリアは手紙を拾い集め、静かに見つめた。するとハンナがしみじみと言った。
「――聖女って、本当にいたんですね」
「ふふ、そこから?」
「私たちからすれば御伽話のような存在ですよ。王子様とご婚約までされてたなんて」
「破談になった訳だけど……まあ、未練はないわ、全く。でもこちらの王子様の恋路は見届けたかったわね」
「そっ、それって」
どくん、とアンジェラの心臓が跳ねた。
「心配しないで、アンジェラ。聖女修行の裏でその手の物語を10年読み続けてきた私の目に狂いはないわ。気持ちを、きちんと言葉にして伝え合えれば、きっと上手くいく」
アンジェラは己の想いを隠していたつもりだったが、セリアには全てお見通しだった。一方ハンナは、え、えっ、と目を丸くしていた。少し気恥ずかしくて、アンジェラは咳払いをした。
「ありがとう。私も、頑張るわ」
「『お互い様』ね。改めて実感したけど、ダフネみたいな人ってどこにでもいるのね。負けないように――またダフネに聖女として会うと思うと、頭が痛いわ」
いつものように喋る間に、セリアは普段の調子に戻っていった。留学を途中で終えることを、早くも受け入れてしまっているようにも感じられる。ハンナがそう伝えてみると、セリアは答えた。
「もちろん、まだやり残したことはあるわ。でも、今話していた時に、チャンスがあるのだから、ずっと私が一番大事にしていたことに、また向き合いたいと思ったの。
ダフネの後始末をするのは腹立たしいけど、母国の人たちが大変な状況なのに、解決する力がある私が留学なんて続けていられないわ」
「後始末?」
「今回の瘴気は、ダフネが浄化しきれず一気に広がって、聖女が一人大怪我をしたらしいの。候補者と先代まで集めて、何とか抑えているんですって。大失態よ。なのに、あの人の地位はそのままらしいけど……大聖女の孫を呼び戻すため、神殿は空いた聖女の位を与えると言っているわ」
「そんな……」
最初の夢を諦めてから、ようやく掴んだ新たな幸せまで絶たれて、辛くないはずはない。それでも、人々のために覚悟を決め、前を向こうとしている。
ならば、応援するのが親友の役目だと、アンジェラとハンナも気持ちを固めた。
「なるべく早く帰国しなきゃ。先生と管理人さんに相談しないと」
「私たちも手伝うわ」
三人は頷き合った。
聖女に選ばれるのは、清浄や治癒の魔法が使える少女。
セリア・カサードもその一人だった。
かつて大聖女と崇められた祖母のマレーナから力を受け継いでいたセリアは、聖女の最有力候補だった。
彼女のもとで、セリアは魔法の訓練や勉強に励んだ。次第に同世代の子どもと遊ぶ時間も無くなっていった。
しかし寂しく思うことは無かった。全ては、聖女となる日のためだった。
さらに、優れた力を王家に取り込むため、聖女の務めを終える頃に、同い年の王子と結婚することも決まっていた。
大恋愛の末、幼馴染と結ばれたマレーナと違い、思い人もないセリアはそれを責務と思って受け入れ、王子ともそれなりに親しい関係を築いていた。
ところが、ダフネが全てをぶち壊した。
ダフネは国中の尊敬を集める聖女となり、高貴な王子と結婚したいばかりに、ライバルだったセリアを次期聖女の座から引きずり下ろした。
証拠と証言をでっち上げ、王女のサファイヤの耳飾りを盗んだという濡れ衣を着せたのだ。
結局セリアの疑いは晴れたが、ごたごたの最中にまんまとダフネが新聖女に就任。王子とセリアの婚約は勝手に破棄され、ダフネとの縁談が進められていた。
たとえ王子と結婚できなくなろうが、構わない。
聖女になることだけが、セリアの生きる意味だった。
セリアは、全てを失ってしまった。自暴自棄になり、私物を壊して、我に返っては泣きながら修復魔法を使った。
荒れては塞ぎ込むセリアに留学を勧めてくれたのは、両親だった。家の名前に泥を塗った自分を厄介払いしたいのか、とも思ったが、どこにいても後ろ指を差される狭い島国から逃がそうとしたのだと、今なら分かる。
留学生活はなかなか楽しかった。外国語は教養として長年学んでいたので困らず、今まで勉強する機会の少なかったことを色々と学べた。
何よりも、普通の女の子のように、学校生活というものを満喫できたことが嬉しかった。
語りを止めると、セリアは手紙を拾い集め、静かに見つめた。するとハンナがしみじみと言った。
「――聖女って、本当にいたんですね」
「ふふ、そこから?」
「私たちからすれば御伽話のような存在ですよ。王子様とご婚約までされてたなんて」
「破談になった訳だけど……まあ、未練はないわ、全く。でもこちらの王子様の恋路は見届けたかったわね」
「そっ、それって」
どくん、とアンジェラの心臓が跳ねた。
「心配しないで、アンジェラ。聖女修行の裏でその手の物語を10年読み続けてきた私の目に狂いはないわ。気持ちを、きちんと言葉にして伝え合えれば、きっと上手くいく」
アンジェラは己の想いを隠していたつもりだったが、セリアには全てお見通しだった。一方ハンナは、え、えっ、と目を丸くしていた。少し気恥ずかしくて、アンジェラは咳払いをした。
「ありがとう。私も、頑張るわ」
「『お互い様』ね。改めて実感したけど、ダフネみたいな人ってどこにでもいるのね。負けないように――またダフネに聖女として会うと思うと、頭が痛いわ」
いつものように喋る間に、セリアは普段の調子に戻っていった。留学を途中で終えることを、早くも受け入れてしまっているようにも感じられる。ハンナがそう伝えてみると、セリアは答えた。
「もちろん、まだやり残したことはあるわ。でも、今話していた時に、チャンスがあるのだから、ずっと私が一番大事にしていたことに、また向き合いたいと思ったの。
ダフネの後始末をするのは腹立たしいけど、母国の人たちが大変な状況なのに、解決する力がある私が留学なんて続けていられないわ」
「後始末?」
「今回の瘴気は、ダフネが浄化しきれず一気に広がって、聖女が一人大怪我をしたらしいの。候補者と先代まで集めて、何とか抑えているんですって。大失態よ。なのに、あの人の地位はそのままらしいけど……大聖女の孫を呼び戻すため、神殿は空いた聖女の位を与えると言っているわ」
「そんな……」
最初の夢を諦めてから、ようやく掴んだ新たな幸せまで絶たれて、辛くないはずはない。それでも、人々のために覚悟を決め、前を向こうとしている。
ならば、応援するのが親友の役目だと、アンジェラとハンナも気持ちを固めた。
「なるべく早く帰国しなきゃ。先生と管理人さんに相談しないと」
「私たちも手伝うわ」
三人は頷き合った。
8
あなたにおすすめの小説
身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜
しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」
魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。
鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。
(な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?)
実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。
レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。
「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」
冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。
一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。
「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」
これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。
『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています
六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。
しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。
「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
愛を騙るな
篠月珪霞
恋愛
「王妃よ、そなた一体何が不満だというのだ」
「………」
「贅を尽くした食事、ドレス、宝石、アクセサリー、部屋の調度も最高品質のもの。王妃という地位も用意した。およそ世の女性が望むものすべてを手に入れているというのに、何が不満だというのだ!」
王妃は表情を変えない。何を言っても宥めてもすかしても脅しても変わらない王妃に、苛立った王は声を荒げる。
「何とか言わぬか! 不敬だぞ!」
「……でしたら、牢に入れるなり、処罰するなりお好きに」
「い、いや、それはできぬ」
「何故? 陛下の望むままなさればよろしい」
「余は、そなたを愛しているのだ。愛するものにそのような仕打ち、到底考えられぬ」
途端、王妃の嘲る笑い声が響く。
「畜生にも劣る陛下が、愛を騙るなどおこがましいですわね」
婚約破棄が私を笑顔にした
夜月翠雨
恋愛
「カトリーヌ・シャロン! 本日をもって婚約を破棄する!」
学園の教室で婚約者であるフランシスの滑稽な姿にカトリーヌは笑いをこらえるので必死だった。
そこに聖女であるアメリアがやってくる。
フランシスの瞳は彼女に釘付けだった。
彼女と出会ったことでカトリーヌの運命は大きく変わってしまう。
短編を小分けにして投稿しています。よろしくお願いします。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる