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程なくして、ジャネットからの嫌がらせが始まった。
始めは、勉強ができるからってお高くとまっている、気に入らないといったことを聞こえよがしに言ってくるだけだったのが、次第にアンジェラの容姿や言動を面と向かって貶すようになった。
アンジェラが何か発言したり、時にはただ座って読書したりしているだけで、くすくすと笑い声が飛んでくる。いつ、どこでジャネット達が見ているか分からない。学校の中に、アンジェラが安心して過ごせる場所はほとんど無くなり、空いた時間は自室や図書館に籠りがちになった。
ある日、アンジェラはいつものようにルームメイト達に、一緒に授業に行こうと声をかけた。しかし、彼女達はなんとも言えないような表情で顔を見合わせた。
「ディライトさん、ミリーさんの婚約者をお茶に誘ったんですって?」
「成績のために、先生に個人的に『お願い』したっていう話もこの前聞きました」
「やめた方がいいわよ、そういうの」
誰がそんな事実無根の噂を流したのかは、訊かなくても分かった。それからというもの、アンジェラに話しかけようとする女子生徒はいなくなった。
ジャネットの流した噂は男子生徒にはあまり広がっていなかったようで、中にはこれまでと同じように接してくれる人もいた。しかし、彼らと少しでも親しくするとますますジャネット達の神経を逆撫でしてしまう。
アンジェラは心無い嘲りと孤独に耐えながら、2年生の残りの時期を過ごしたのだった。
明日からまたジャネット達とは同じ授業を受けることもあるだろうし、寮や大食堂では嫌でも顔を合わせることになる。不安は残る。
しかし、休暇が終わっても学院を辞めない決断をしたのは紛れもない、自分なのだ。
辛いことも沢山あったが、ここでの日々は決して苦しい思い出ばかりではなかった。王立学院の名にふさわしい、レベルの高い講義はどれも興味深いものばかりだし、試験や実習で自分の努力が認められるのは嬉しかった。
それに、クインス校に戻ってきたことで、今日は新たな友人にだって出会えたのだ。
「セリア」
小さな声で呼んでみる。しかし、彼女はもう眠ってしまったようだった。規則的な寝息がかすかに聞こえてくる。月が高く昇ったころ、ようやくアンジェラは眠りに落ちた。
「アンジェラ、起きて!朝だよ!」
鈴を鳴らすような声にぼんやりと目を開けると、ベッドの傍らに、先に目を覚ましたらしいセリアが座っていた。
アンジェラは朝には強い方で、誰かに起こされて起きることなど滅多にない。というより、最近は起こしてくれる人などいなかった。どうやら夜中に色々と考え込んでいたせいで、よく眠れていなかったようだ。いつの間に泣いていたのか、目の下に涙の跡までついていた。
とにかくベッドから身体を起こし、身支度に取り掛かることにする。
共用の洗面台で顔を洗い、制服に着替えるために部屋に戻ると、セリアが姿見に向かって髪を整えていた。
「ごめんね。もう少しだけ鏡を使わせて」
「私は構わないけど……」
セリアの緩く波打ったブロンドヘアーは、癖が直りにくい髪質のようだ。肩の上で短く切っている髪型は、アンジェラの目には新鮮だった。クインス校の女子の間では近頃、長い髪を巻くのが流行しているのだ。
「アンジェラの髪は真っ直ぐで綺麗よね」
「そんな。色も地味だし、上手く巻けないもの」
アンジェラは自分の栗色の髪がそれほど好きではなかった。
「私は羨ましいわ。毎朝大変なんだから。――はい、お待たせしました」
セリアはそう言って姿見の前を譲ってくれた。アンジェラはお礼を口にして、髪を丁寧に梳きはじめた。上半分を結い、髪留めで留める。そして鏡に向かって、おかしなところがないか確かめる。
(よし、大丈夫)
今日から、3年生の授業が始まる。
始めは、勉強ができるからってお高くとまっている、気に入らないといったことを聞こえよがしに言ってくるだけだったのが、次第にアンジェラの容姿や言動を面と向かって貶すようになった。
アンジェラが何か発言したり、時にはただ座って読書したりしているだけで、くすくすと笑い声が飛んでくる。いつ、どこでジャネット達が見ているか分からない。学校の中に、アンジェラが安心して過ごせる場所はほとんど無くなり、空いた時間は自室や図書館に籠りがちになった。
ある日、アンジェラはいつものようにルームメイト達に、一緒に授業に行こうと声をかけた。しかし、彼女達はなんとも言えないような表情で顔を見合わせた。
「ディライトさん、ミリーさんの婚約者をお茶に誘ったんですって?」
「成績のために、先生に個人的に『お願い』したっていう話もこの前聞きました」
「やめた方がいいわよ、そういうの」
誰がそんな事実無根の噂を流したのかは、訊かなくても分かった。それからというもの、アンジェラに話しかけようとする女子生徒はいなくなった。
ジャネットの流した噂は男子生徒にはあまり広がっていなかったようで、中にはこれまでと同じように接してくれる人もいた。しかし、彼らと少しでも親しくするとますますジャネット達の神経を逆撫でしてしまう。
アンジェラは心無い嘲りと孤独に耐えながら、2年生の残りの時期を過ごしたのだった。
明日からまたジャネット達とは同じ授業を受けることもあるだろうし、寮や大食堂では嫌でも顔を合わせることになる。不安は残る。
しかし、休暇が終わっても学院を辞めない決断をしたのは紛れもない、自分なのだ。
辛いことも沢山あったが、ここでの日々は決して苦しい思い出ばかりではなかった。王立学院の名にふさわしい、レベルの高い講義はどれも興味深いものばかりだし、試験や実習で自分の努力が認められるのは嬉しかった。
それに、クインス校に戻ってきたことで、今日は新たな友人にだって出会えたのだ。
「セリア」
小さな声で呼んでみる。しかし、彼女はもう眠ってしまったようだった。規則的な寝息がかすかに聞こえてくる。月が高く昇ったころ、ようやくアンジェラは眠りに落ちた。
「アンジェラ、起きて!朝だよ!」
鈴を鳴らすような声にぼんやりと目を開けると、ベッドの傍らに、先に目を覚ましたらしいセリアが座っていた。
アンジェラは朝には強い方で、誰かに起こされて起きることなど滅多にない。というより、最近は起こしてくれる人などいなかった。どうやら夜中に色々と考え込んでいたせいで、よく眠れていなかったようだ。いつの間に泣いていたのか、目の下に涙の跡までついていた。
とにかくベッドから身体を起こし、身支度に取り掛かることにする。
共用の洗面台で顔を洗い、制服に着替えるために部屋に戻ると、セリアが姿見に向かって髪を整えていた。
「ごめんね。もう少しだけ鏡を使わせて」
「私は構わないけど……」
セリアの緩く波打ったブロンドヘアーは、癖が直りにくい髪質のようだ。肩の上で短く切っている髪型は、アンジェラの目には新鮮だった。クインス校の女子の間では近頃、長い髪を巻くのが流行しているのだ。
「アンジェラの髪は真っ直ぐで綺麗よね」
「そんな。色も地味だし、上手く巻けないもの」
アンジェラは自分の栗色の髪がそれほど好きではなかった。
「私は羨ましいわ。毎朝大変なんだから。――はい、お待たせしました」
セリアはそう言って姿見の前を譲ってくれた。アンジェラはお礼を口にして、髪を丁寧に梳きはじめた。上半分を結い、髪留めで留める。そして鏡に向かって、おかしなところがないか確かめる。
(よし、大丈夫)
今日から、3年生の授業が始まる。
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