抱いて愛して ｰ婚約破棄するなら条件がありますｰ

婚約破棄の理由

1週間が過ぎた夜、アルトはエリスの部屋に来て、彼女の手を取って座らせた。彼の目には深い思いが込められていた。エリスは少し緊張しながらも、彼の話を聞く準備をした。

「エリス、君に話したいことがあるんだ。」アルトは静かに言った。

「何でしょうか、アルト様？」エリスは優しく尋ねた。

アルトは少し息をつき、話し始めた。「実は、婚約を破棄しようと考えた理由がいくつかあったんだ。そのことを君に隠していたことが心苦しい。」

エリスは驚きながらも、彼の言葉を黙って聞いた。

「まず、王子としての僕には多くの期待とプレッシャーがある。周囲からは、政治的に有利な結婚を求められていたんだ。父王や貴族たちは、他の国との同盟を強化するために、僕がより影響力のある相手と結婚することを望んでいた。君との婚約が、その期待に応えられないと感じていたんだ。」

エリスは理解を示すように頷いた。「政治的な圧力ですね。それは大変なことです。」

「それだけじゃないんだ。」アルトは続けた。「僕自身も、君との関係に自信が持てなかった。君を愛していると感じながらも、その愛が真実なのか、ただの慣れ親しんだ感情なのかを疑問に思っていた。僕の気持ちが本物かどうか確かめるために、距離を置こうと考えていたんだ。」

エリスは少し目を伏せたが、アルトの手をしっかりと握り返した。「あなたの気持ちが分からなかったのは辛かったけれど、今こうして話してくれることが嬉しいです。」

アルトは微笑み、続けた。「さらに、君が強く自立した女性であることが、僕にとっては魅力的でありながらも、君が僕を本当に必要としているのか疑問に感じさせたんだ。君の独立性が、僕に対する依存度を低く見せてしまった。」

エリスは静かに頷いた。「あなたに依存せずに、自分の足で立ちたいと思っていました。でも、それがあなたを不安にさせてしまったのなら、申し訳ないです。」

「いや、エリス。君の強さを尊敬している。僕が不安を感じたのは、僕の未熟さからだった。」アルトは彼女の目を見つめて言った。「そして、僕たちの間には誤解とコミュニケーションの欠如があった。僕は君の本当の気持ちを十分に理解していなかったし、君も僕の内心を知らなかった。だから、こうして毎晩君と過ごす中で、お互いの気持ちを再確認することができたんだ。」

エリスの目には涙が浮かんだが、彼女は微笑んだ。「アルト様、私もあなたのことをもっと理解したいと思っていました。あなたが私に本音を話してくれて、本当に嬉しいです。」

アルトはエリスをそっと抱きしめた。「エリス、君がいてくれて本当に良かった。君の存在が僕を変えてくれた。そして、婚約を破棄するなんてもう考えられない。君と一緒に未来を築きたい。」

「私も、アルト様と一緒に未来を歩んでいきたいです。」エリスはそう答え、彼の胸に顔を埋めた。

その夜、二人はお互いの気持ちを確かめ合い、これからの未来を共に歩む決意を新たにした。エリスの温かい微笑みとアルトの優しい言葉が、彼らの絆をさらに強くし、幸せな未来への一歩を踏み出したのだった。