上 下
193 / 582
第七楽章 県大会が始まる。

自由曲 星の旅

しおりを挟む
すぐさま息を整え楽器に溜まった水を出す。
そしてもう一度姿勢を正す。

栗本先生は全体の動きが落ち着くのを待った。そしてもういちど右手を上げフルートの小林と顔を合わせた。

前の席の小林の背中を見つめる。
その姿は思いを託された姿。
「頑張れ。」
ただ、それだけだ。

栗本先生が小林と息を合わせ曲が始まった。

綺麗なフルートのソロ。
ゆったりとしたフレーズ、コンクール会場を恐ろしく静かな空間の中。
1人吹き続ける。
星の旅。旅の始まりは小さな音。
一つの音を一つずつ繋げていく。
ため息が出るほど綺麗な音。夏合宿で一生懸命練習した日。
それがたったの数秒で終わってしまう。
美しく儚いそんな音が小林のフルートが奏でる。
観客席まで届けるように。

そして静寂を切り裂くように
高くどこまでも伸びていくよな
アルトサックスの音が入っていく。

会場でフルートとアルトサックスの2人が
ユニゾンで歌う。
ふと雨宮は思う。
もし、若菜がアメリカから来なかったら。
小林と合わなかったら。
この2人の演奏は聞けなかっただろう。
運命なのだろうか。
だけどそれが目の前で観客席よりも近い同じステージの上で。

怖いもの知らずの音が会場全体の
注目を集める。

「私を見ろ。」

「俺を見ろ。」

そんな自分を主張するような音が響いていく。

それに続き木管と金管とパーカッションがそれに続いていく。ゆっくり流れていた曲にリズムを刻むパーカッション。トランペットの高いファンファーレが響く。

その瞬間、ティンパニーの激しいロールが
静寂をを切り裂く。

ゆったりとしたメロディーから
一転して曲調が変わる。

雨宮と篠宮は2人はホルンで高く吠える。

それに続き他の楽器も続く。

フルートもクラリネットもそれに追い掛けるように続く。

不思議と指と動く。何回も練習したからだろうか。だが自分で動かしてない無意識にやれてるような。まるで自分を自分でコントロールしているようなそんな感覚に陥ってた。

「いい感じだ。」

周りを見ていないが全員の思いは一つ。

「いくぞ!」


激しさを増し栗本先生の指揮もアップテンポになる。メロディーをちから強く

そしてホルンの裏メロ。
何回も練習してやっと吹けるようになった。
吹きたかった裏メロ。練習していた日々を思い出す。

「よし。」

ふと横にいる篠宮先輩を見る。
目がたまたま合い篠宮先輩はとても笑顔だった。

そしてトロンボーンのグリッサンド。
懸命に追いかける。

チューバ、コントラバスも懸命に
下から支える。

この会場全てを巻き込みクレッシェンドして
栗本先生の指揮が振り上げられた。

曲が最後に向かう。
これで終わる。終わってしまう。

最後まで気を抜かない。全員楽器を栗本先生を見る。腹筋に力を入れて栗本先生の顔から汗が吹き出す。

「はぁはぁ。」

「はぁはぁ。」

栗本先生が指揮台から全員を起立させ
客席にお辞儀をする。

割れんばかりの拍手が聞こえた。

「あっもう終わっちゃった。」

「ただいまの演奏は北浜高校吹奏楽部の皆さんでした。」

アナウンスの声が聞こえた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

坊主女子:友情短編集

S.H.L
青春
短編集です

始業式で大胆なパンチラを披露する同級生

サドラ
大衆娯楽
今日から高校二年生!…なのだが、「僕」の視界に新しいクラスメイト、「石田さん」の美し過ぎる太ももが入ってきて…

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

タイは若いうちに行け

フロイライン
BL
修学旅行でタイを訪れた高校生の酒井翔太は、信じられないような災難に巻き込まれ、絶望の淵に叩き落とされる…

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

切り裂かれた髪、結ばれた絆

S.H.L
青春
高校の女子野球部のチームメートに嫉妬から髪を短く切られてしまう話

体育教師に目を付けられ、理不尽な体罰を受ける女の子

恩知らずなわんこ
現代文学
入学したばかりの女の子が体育の先生から理不尽な体罰をされてしまうお話です。

可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~

蒼田
青春
 人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。  目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。  しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。  事故から助けることで始まる活発少女との関係。  愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。  愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。  故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。 *本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。

処理中です...