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第5話 祈り
しおりを挟む手術室には、規則的な心電図の電子音と、人工呼吸器の音だけが無機質に響く。
部屋には手術台が2台並べられていて、そこに2人の身体が横たわる。2人とも仰々しいほどのチューブに繋がれていて、今はそれだけが彼らの生命線となっていた。
手術着を着た陽子が入室してくると、患者の頭側に待機していた高橋は立ち上がって頷いた。
「バイタル、全て安定しております……、陽子お嬢様。」
「はじめに提供者からの心臓摘出から行うわ。それから患者本人の開胸を行い、人工心肺に接続後、患者心臓の摘出と移植を行います。長時間の手術とかなりの出血が予想されます。」
「輸血用の血液も確保できております……。」
「OK、準備万端ね。」
陽子は患者の側に立つと、目を瞑って天を仰いだ。
「……主よ、救いたまえ。主よ、私を平和の器とならせてください。憎しみがあるところに愛を、争いがあるところに赦しを、分裂があるところに一致を、疑いのあるところに信仰を、誤りがあるところに真理を、絶望があるところに希望を、闇あるところに光を、悲しみあるところに喜びを……。」
たった2人(と、2人の患者)しかいない手術室に、陽子の静かな声が響く。
「主よ、慰められるよりも慰める者としてください。理解されるよりも理解する者に、愛されるよりも愛する者に。それは、私たちが、自ら与えることによって受け、許すことによって赦され、自分の体を捧げて死ぬことによって、とこしえの命を得ることができるからです。」
胸元の小さな十字架が、光に反射してきらりと輝いた。
「……はじめます。」
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