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第一部
第十三話 彼カノ
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5月末にあった中間テストも無事すみ、総体当日…
運動部の部員は開会式のある高校のグラウンドに各校現地集合となっていたので、翔太と2人一緒に行く事にした。翔太は今日、試合が無いので空手部のジャージ姿だ。私も、開会式はジャージで出席するので、2人揃って部活仕様のジャージ姿で並んで歩いていた。
翔太のお弁当箱は、無事に付き合い出した翌週の日曜に一緒に買いに行く事が出来た。
ウチで最初に食べた晩御飯の量から比べたら、お弁当の量なんて物足りないんじゃないか?ってくらいのサイズで、私の予想していた物より遥かに小さなお弁当箱を選んだ翔太。
月曜からお弁当作りを始めたけど、あっと言う間に中間テストが来てしまい、お弁当がうちで食べるランチに変わった。部活用のおにぎりも、試験前1週間の部活停止期間に早々に引っ掛かり、そちらもあまり作る機会がなかった。
総体の前には慌しく、中間テストの結果を踏まえた親同席の進路面談があった。ウチの高校から、防大に進学した生徒は今まで何人か居た(1人は、あの千賀一佐だと知ったのはこの後だったけど…)って、進路指導の担当の熊谷先生が言ってたって翔太が教えてくれたけど、防衛医科大学に進んだ人はいなかったらしい。翔太が事前に防衛医科大学の受験をする為に、理転する事を伝えて方がいいと言って、熊谷先生の所に行ったら、案の定驚かれた。でも、学年トップクラスの成績を誇る翔太がついて来てくれた事に加え、中間テストでの著しい成績の上昇(翔太のおかげです…)の甲斐もあった事で、無事に夏休み前から理転の為の準備のための講習の申し込みを渡された。理転するには、土日を活用して、文系コース者が3ヶ月分の遅れを一気に取り戻す理転に必要な講習を受けなければならないのだ。
担任との面談も無事に終わり、2学期から理転し防衛医科大学を志望校とする道が始まった。
バタバタと総体当日を迎えた訳だが、テニス部の方の試合スケジュールがキチキチで1日目はほぼ缶詰め状態になりそうなので、翔太のお弁当も別々に準備して来た。
ただ、お昼の時間は取れそうなので、時間をずらして一緒に食べようと約束した。
試合が始まって一番に感じた事は、翔太を相手に練習を何度か続けたせいか、相手の打球がよく見えて、スピードもゆっくりに感じ、打ち返し易い様な気がした事だった。それに、相手の癖が見つけやすくなった。翔太曰く、動体視力が鍛えられたんだろうって事だったけど、運良く2回戦までは、ストレート勝ちする事ができた。ベスト8の決まる第3試合は、去年負けた相手だったので、慎重になりすぎたのか少し押され気味だったけど、コートから見える場所に翔太の姿を見つけて、翔太に『ガンバレ!』って口パクで言われたら、頑張らないわけにはいかず、1セット取られたけど勝ち残る事ができた。3試合目の後、お昼休憩が取れたので翔太を探して応援席にお弁当を持って移動したら、翔太は仲の良い友達たちと一緒に芝生に座っていた。
「翔太?」
こそっと声をかければ、周りの友達も一斉に顔をこちらに向けたもんだから、ビックリした。
「優香、こっちおいで!」
自分の隣の芝生をポンポンと叩いて誘導する。
「みんなの邪魔にならない?女子は私だけみたいだし…。」
遠慮がちに聞くと、
「こいつらも、それぞれ彼女がボチボチ来てたから大丈夫。俺が、ここから動かないからって、ずっと俺の周りをうろちょろしてんの。優香と話しがしたいんだと…。」
芝生に座った私の膝の上に自分のジャージの上着をそっと掛けてきた。スコートから覗く脚は、他の男子の目に少しでも触れさせたくない!って事の表れらしい。
「私と話ししたいって、どういう事?フツーの女子高生ですけど…。」
「俺が、知るかよ。こいつらが、そう言うんだ。で、優香、弁当…」
「あ、うん。」
翔太の分のお弁当箱の入った保冷バックを渡した。受け取った翔太を友達が見守る感じだ。
そんな中でも、平気な顔をして保冷バックからお弁当箱を取り出し、いつもの様に手を合わせてからお弁当箱を開ける。
「これが、彼女が作った弁当か?」
1人の男友達が翔太に声をかけた。数回しか作っていないお弁当だけど、お弁当の時間の度に翔太に呼び出され、お天気が続いていたので屋上でプチデートを兼ねてお昼のランチタイムをしていたから、友達に彼女のお弁当を自慢できていなかった様だ…。
「うまそうだな…。」
「美味いよ。優香、料理めっちゃ上手いんだ。俺が初めて食ったのは晩飯に、炊き込みご飯とか作ってもらった時だったけど、短時間で5品くらい作ってくれてな…」
お弁当のおかずの卵焼きを口に運びながら翔太が自慢する。
次の試合まで、時間も限られてるから私もお弁当箱を出して手を合わせてから、食べ出した。
少しだけど、おやつ代わりにと思ってクッキーを焼いて来てたのを思い出して、翔太をチョイチョイと摘んで、
「みんなに、食べてもらって。そんなたくさん行き渡らないかもしれないけど…。」
とクッキーを入れていたタッパーを渡した。
「優香から、差し入れだ。ってか、お前らの方が、優香になんか差し入れしてやれよ!」
ブツクサ言いながらも、タッパーの蓋を開けてクッキーを振る舞う翔太。
あちこちから、
「うめぇ~!」「これ手作り?」「彼女欲しぃ~!」
とか、聞こえて来た。賑やかな集団の中でご飯を食べるのは、以外と楽しかった。
私と付き合い出して、ピタッと自分たちとつるむ時間が激減したので、それなら彼女毎一緒につるんでしまえば良いんじゃないか!と言う、結論に至った結果がこの状態だったらしい。
「ごめんね。二学期から、私が理転でクラスが変われば、今までの様に皆さんとお昼したりする様になると思うから、少しだけ辛抱して下さいね。」
と私が言えば、
「は?ヤローとつるむより、俺は優香といる方が優先だ!」
と言う、翔太。お弁当を食べ終わって私の膝にゴロンと頭を乗せて来た。
「ちょ、ちょっと翔太。もう少ししたら私また試合だから練習したり色々しなきゃいけないんだけど…。」
「少しだけ、いいだろ…。」
翔太の友達たちは、私たちのそんな姿をそっぽを向いたり、気づかないふりをして生暖かく見守ってくれている。
余計に、身の置き所がない雰囲気に、いたたまれなくなって来た。
「あ、そうだ、翔太コレ帰るまで預かってて…」
スコートのポケットに入れていた、ドックタグを取り出し膝を枕にして寝転がっている翔太に渡した。
2試合目の後に、チェーンがブチっと切れてしまったのだ。3試合目は、なんとかスコートのポケットに入れて動いて見たが、落としたらどうしようか?とか、考えたこともあってオサレ気味になったのは秘密なのだが、流石に準々決勝まで来ると少しでも集中できる環境にしておきたいから、あえて翔太に預けることを選んだ。
「チェーン切れちまったか…。仕方ないな…。」
翔太が膝から起き上がり、自分の首からドックタグを取り出し、首から外した。そして、ソレを迷う事なく私の首に掛けて来た。
「こっち、付けといて。一次的な交換な!」
って言って、私の胸には翔太のドックタグが揺れていた。
その後の試合では、お守りの翔太のドックタグのお陰もあって、何とか私は個人戦で準優勝を成し遂げることができた。決勝戦で優勝まで後一歩の所でスタミナが切れてしまった結果、優勝を逃してしまった。試合後のミーティングで県体でのリベンジを誓って、現地解散となった。
ジャージに着替えそれぞれ自宅に帰る子、友達と打ち上げに繰り出す子と様々な中、私は優勝を逃した悔しさを抱えていた事もあり、打ち上げに誘われたがおとなしく自宅に帰る事にした。
会場である総合運動公園のメインの入り口を出ようとしたら、
「優香…」
って、呼ばれたかと思うと急に腕を引っ張られ、ポスって、大きな体に抱きしめられた。
温かい体温、ふんわりと香るシトラス系の香り…
翔太だ…
「翔太…?」
「惜しかったな。後一息だったのに…。悔しいよなぁ~。」
私以上に、悔しそうな声が耳元から囁かれる
「悔しいけど、それよりも今は頑張れたことが嬉しいかな?コレのお陰もあったし…」
と、チェーンが千切れた私のドックタグと交換して私の元にいる、本来ならば翔太のドックタグを持ち上げて、元の持ち主へ返すため首から外し、
『明日、翔太が怪我なく最後まで活躍できます様に…』
願いを込めて、タグにキスを落としてから翔太の首に掛けた。
どちらからともなく、手を繋ぎ歩き出した私たち。帰り道で、
「チェーンの替えがあるからついでに交換しよう」
って、事になって私は翔太の部屋にお邪魔した。
疲れていた私は、翔太のベッドに座ってホッとしたせいかチェーンを交換している短い時間の間に、翔太の布団の上で眠ってしまったらしかった。
と言うのも、翔太が肩を揺らして起こしてくれたから気付いたワケで…。
「疲れてるみたいだな。今日は早く風呂入って、ゆっくり休めよ!」
って、ドックタグを首に掛けてくれながら翔太が言ってくれた。
隣の自宅へ帰ってから、速攻でお風呂にお湯をはりのんびりお風呂の中でくつろいでいたら、やっぱりまた少しウトウトしてたみたいで、お母さんが長風呂すぎるって心配して来てくれた。おかげで、湯冷めもする事無くお風呂から上がった私はご飯も程々に、夢の世界に落ちたのでした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
明けて翌日、総体2日目。
翔太の空手部は団体戦、個人戦共に試合がある。
今日は、試合のない私は一旦学校に集合。HRで出欠確認してから、個別に応援に別れて定時に現地解散となる。翔太達、試合組は、現地集合、現地解散なので、今日は一緒に行く事が出来ない。
集合時間が早い翔太を、2階から見送った。
「後で応援に行くから、負けないでよ!」
と声を掛けると、
「分かってる!それより、弁当頼んだよ!楽しみにしてるから」
って言って、後ろ手に手を振って行った。
翔太の後ろ姿を見送り、リビングに入れば朝食の準備をしているお母さんと、ソファーで新聞を読んでいるお父さんが居た。土曜日でも代わり映えの無いウチのリビング…。
「おはよう」の挨拶をしてから、キッチンに向かいお弁当に詰めるおかずを冷蔵庫内から物色する。
卵を2個出し、蒲鉾と刻みねぎで卵焼き、前もって冷凍しておいたミニカツ、ウィンナーにプチトマト、昨日の夕食はミートスパだったから残りを軽く炒めておかずに追加…。頭の中で、調理の順番を組み立てて、調理を開始した。お弁当箱には、今日はおかずだけを詰めて、ご飯はおにぎりにしよう!中に入れる具材は、シャケ、明太子、それにおかかにした。ホントは、ツナマヨも作りたかったけど、ツナマヨは傷む可能性があるから今日はやめといた。
翔太用には、大きめのおにぎりを握り、私の分は俵形のおにぎりにした。
お弁当を作っていると、お母さんが
「ご飯食べなさい。作るのは、お母さんがやっとくから。」
って、手伝ってくれたから、急いでダイニングテーブルに行きお父さんと向かい合わせで朝ごはんを食べた。今日の朝食は、私の試合がないからなのと、週末ということもあって洋食風の朝食だった。クロワッサンとスクランブルエッグ、ミートスパの残りを炒めたものが付け合わせに添えられていて、サラダも別皿で準備されていた。
しっかり食べて、洗い物を流しに持って行った。サッと、汚れを落としてから食洗機にお皿を入れてから、お母さんに手伝ってもらったおかずをお弁当箱に詰めた。
2人分のお弁当と水筒をリュックに納めて、一度学校に向かう準備を始めた。HRで出欠確認の為だけに行くのは、正直言ってメンドくさい。翔太の試合がある総合体育館は、一度戻らないといけない場所にある。家から会場に行く方が、断然早いのに…と思いながら、普段なら歩いて行く道のりだけど、今日は休みのお父さんが車で送ってくれるというので、遠慮なく送ってもらった。
今日の私は、試合はないので制服姿。いつもは、後ろできっちり括っている髪も解いた状態。今日ほど自由な状態で登下校できる日は他には体育祭と文化祭、卒業式くらいだろう。
学校の正門の近くで車から降ろしてもらい、お父さんにお礼を言って正門をくぐった。
HRに入り、出欠を確認したら即解散。モノの10分も学校内に居なかったと思う。
車で送ってもらった道を徒歩で戻り、途中の道を曲がり総合体育館を目指した。
運動部の部員は開会式のある高校のグラウンドに各校現地集合となっていたので、翔太と2人一緒に行く事にした。翔太は今日、試合が無いので空手部のジャージ姿だ。私も、開会式はジャージで出席するので、2人揃って部活仕様のジャージ姿で並んで歩いていた。
翔太のお弁当箱は、無事に付き合い出した翌週の日曜に一緒に買いに行く事が出来た。
ウチで最初に食べた晩御飯の量から比べたら、お弁当の量なんて物足りないんじゃないか?ってくらいのサイズで、私の予想していた物より遥かに小さなお弁当箱を選んだ翔太。
月曜からお弁当作りを始めたけど、あっと言う間に中間テストが来てしまい、お弁当がうちで食べるランチに変わった。部活用のおにぎりも、試験前1週間の部活停止期間に早々に引っ掛かり、そちらもあまり作る機会がなかった。
総体の前には慌しく、中間テストの結果を踏まえた親同席の進路面談があった。ウチの高校から、防大に進学した生徒は今まで何人か居た(1人は、あの千賀一佐だと知ったのはこの後だったけど…)って、進路指導の担当の熊谷先生が言ってたって翔太が教えてくれたけど、防衛医科大学に進んだ人はいなかったらしい。翔太が事前に防衛医科大学の受験をする為に、理転する事を伝えて方がいいと言って、熊谷先生の所に行ったら、案の定驚かれた。でも、学年トップクラスの成績を誇る翔太がついて来てくれた事に加え、中間テストでの著しい成績の上昇(翔太のおかげです…)の甲斐もあった事で、無事に夏休み前から理転の為の準備のための講習の申し込みを渡された。理転するには、土日を活用して、文系コース者が3ヶ月分の遅れを一気に取り戻す理転に必要な講習を受けなければならないのだ。
担任との面談も無事に終わり、2学期から理転し防衛医科大学を志望校とする道が始まった。
バタバタと総体当日を迎えた訳だが、テニス部の方の試合スケジュールがキチキチで1日目はほぼ缶詰め状態になりそうなので、翔太のお弁当も別々に準備して来た。
ただ、お昼の時間は取れそうなので、時間をずらして一緒に食べようと約束した。
試合が始まって一番に感じた事は、翔太を相手に練習を何度か続けたせいか、相手の打球がよく見えて、スピードもゆっくりに感じ、打ち返し易い様な気がした事だった。それに、相手の癖が見つけやすくなった。翔太曰く、動体視力が鍛えられたんだろうって事だったけど、運良く2回戦までは、ストレート勝ちする事ができた。ベスト8の決まる第3試合は、去年負けた相手だったので、慎重になりすぎたのか少し押され気味だったけど、コートから見える場所に翔太の姿を見つけて、翔太に『ガンバレ!』って口パクで言われたら、頑張らないわけにはいかず、1セット取られたけど勝ち残る事ができた。3試合目の後、お昼休憩が取れたので翔太を探して応援席にお弁当を持って移動したら、翔太は仲の良い友達たちと一緒に芝生に座っていた。
「翔太?」
こそっと声をかければ、周りの友達も一斉に顔をこちらに向けたもんだから、ビックリした。
「優香、こっちおいで!」
自分の隣の芝生をポンポンと叩いて誘導する。
「みんなの邪魔にならない?女子は私だけみたいだし…。」
遠慮がちに聞くと、
「こいつらも、それぞれ彼女がボチボチ来てたから大丈夫。俺が、ここから動かないからって、ずっと俺の周りをうろちょろしてんの。優香と話しがしたいんだと…。」
芝生に座った私の膝の上に自分のジャージの上着をそっと掛けてきた。スコートから覗く脚は、他の男子の目に少しでも触れさせたくない!って事の表れらしい。
「私と話ししたいって、どういう事?フツーの女子高生ですけど…。」
「俺が、知るかよ。こいつらが、そう言うんだ。で、優香、弁当…」
「あ、うん。」
翔太の分のお弁当箱の入った保冷バックを渡した。受け取った翔太を友達が見守る感じだ。
そんな中でも、平気な顔をして保冷バックからお弁当箱を取り出し、いつもの様に手を合わせてからお弁当箱を開ける。
「これが、彼女が作った弁当か?」
1人の男友達が翔太に声をかけた。数回しか作っていないお弁当だけど、お弁当の時間の度に翔太に呼び出され、お天気が続いていたので屋上でプチデートを兼ねてお昼のランチタイムをしていたから、友達に彼女のお弁当を自慢できていなかった様だ…。
「うまそうだな…。」
「美味いよ。優香、料理めっちゃ上手いんだ。俺が初めて食ったのは晩飯に、炊き込みご飯とか作ってもらった時だったけど、短時間で5品くらい作ってくれてな…」
お弁当のおかずの卵焼きを口に運びながら翔太が自慢する。
次の試合まで、時間も限られてるから私もお弁当箱を出して手を合わせてから、食べ出した。
少しだけど、おやつ代わりにと思ってクッキーを焼いて来てたのを思い出して、翔太をチョイチョイと摘んで、
「みんなに、食べてもらって。そんなたくさん行き渡らないかもしれないけど…。」
とクッキーを入れていたタッパーを渡した。
「優香から、差し入れだ。ってか、お前らの方が、優香になんか差し入れしてやれよ!」
ブツクサ言いながらも、タッパーの蓋を開けてクッキーを振る舞う翔太。
あちこちから、
「うめぇ~!」「これ手作り?」「彼女欲しぃ~!」
とか、聞こえて来た。賑やかな集団の中でご飯を食べるのは、以外と楽しかった。
私と付き合い出して、ピタッと自分たちとつるむ時間が激減したので、それなら彼女毎一緒につるんでしまえば良いんじゃないか!と言う、結論に至った結果がこの状態だったらしい。
「ごめんね。二学期から、私が理転でクラスが変われば、今までの様に皆さんとお昼したりする様になると思うから、少しだけ辛抱して下さいね。」
と私が言えば、
「は?ヤローとつるむより、俺は優香といる方が優先だ!」
と言う、翔太。お弁当を食べ終わって私の膝にゴロンと頭を乗せて来た。
「ちょ、ちょっと翔太。もう少ししたら私また試合だから練習したり色々しなきゃいけないんだけど…。」
「少しだけ、いいだろ…。」
翔太の友達たちは、私たちのそんな姿をそっぽを向いたり、気づかないふりをして生暖かく見守ってくれている。
余計に、身の置き所がない雰囲気に、いたたまれなくなって来た。
「あ、そうだ、翔太コレ帰るまで預かってて…」
スコートのポケットに入れていた、ドックタグを取り出し膝を枕にして寝転がっている翔太に渡した。
2試合目の後に、チェーンがブチっと切れてしまったのだ。3試合目は、なんとかスコートのポケットに入れて動いて見たが、落としたらどうしようか?とか、考えたこともあってオサレ気味になったのは秘密なのだが、流石に準々決勝まで来ると少しでも集中できる環境にしておきたいから、あえて翔太に預けることを選んだ。
「チェーン切れちまったか…。仕方ないな…。」
翔太が膝から起き上がり、自分の首からドックタグを取り出し、首から外した。そして、ソレを迷う事なく私の首に掛けて来た。
「こっち、付けといて。一次的な交換な!」
って言って、私の胸には翔太のドックタグが揺れていた。
その後の試合では、お守りの翔太のドックタグのお陰もあって、何とか私は個人戦で準優勝を成し遂げることができた。決勝戦で優勝まで後一歩の所でスタミナが切れてしまった結果、優勝を逃してしまった。試合後のミーティングで県体でのリベンジを誓って、現地解散となった。
ジャージに着替えそれぞれ自宅に帰る子、友達と打ち上げに繰り出す子と様々な中、私は優勝を逃した悔しさを抱えていた事もあり、打ち上げに誘われたがおとなしく自宅に帰る事にした。
会場である総合運動公園のメインの入り口を出ようとしたら、
「優香…」
って、呼ばれたかと思うと急に腕を引っ張られ、ポスって、大きな体に抱きしめられた。
温かい体温、ふんわりと香るシトラス系の香り…
翔太だ…
「翔太…?」
「惜しかったな。後一息だったのに…。悔しいよなぁ~。」
私以上に、悔しそうな声が耳元から囁かれる
「悔しいけど、それよりも今は頑張れたことが嬉しいかな?コレのお陰もあったし…」
と、チェーンが千切れた私のドックタグと交換して私の元にいる、本来ならば翔太のドックタグを持ち上げて、元の持ち主へ返すため首から外し、
『明日、翔太が怪我なく最後まで活躍できます様に…』
願いを込めて、タグにキスを落としてから翔太の首に掛けた。
どちらからともなく、手を繋ぎ歩き出した私たち。帰り道で、
「チェーンの替えがあるからついでに交換しよう」
って、事になって私は翔太の部屋にお邪魔した。
疲れていた私は、翔太のベッドに座ってホッとしたせいかチェーンを交換している短い時間の間に、翔太の布団の上で眠ってしまったらしかった。
と言うのも、翔太が肩を揺らして起こしてくれたから気付いたワケで…。
「疲れてるみたいだな。今日は早く風呂入って、ゆっくり休めよ!」
って、ドックタグを首に掛けてくれながら翔太が言ってくれた。
隣の自宅へ帰ってから、速攻でお風呂にお湯をはりのんびりお風呂の中でくつろいでいたら、やっぱりまた少しウトウトしてたみたいで、お母さんが長風呂すぎるって心配して来てくれた。おかげで、湯冷めもする事無くお風呂から上がった私はご飯も程々に、夢の世界に落ちたのでした。
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明けて翌日、総体2日目。
翔太の空手部は団体戦、個人戦共に試合がある。
今日は、試合のない私は一旦学校に集合。HRで出欠確認してから、個別に応援に別れて定時に現地解散となる。翔太達、試合組は、現地集合、現地解散なので、今日は一緒に行く事が出来ない。
集合時間が早い翔太を、2階から見送った。
「後で応援に行くから、負けないでよ!」
と声を掛けると、
「分かってる!それより、弁当頼んだよ!楽しみにしてるから」
って言って、後ろ手に手を振って行った。
翔太の後ろ姿を見送り、リビングに入れば朝食の準備をしているお母さんと、ソファーで新聞を読んでいるお父さんが居た。土曜日でも代わり映えの無いウチのリビング…。
「おはよう」の挨拶をしてから、キッチンに向かいお弁当に詰めるおかずを冷蔵庫内から物色する。
卵を2個出し、蒲鉾と刻みねぎで卵焼き、前もって冷凍しておいたミニカツ、ウィンナーにプチトマト、昨日の夕食はミートスパだったから残りを軽く炒めておかずに追加…。頭の中で、調理の順番を組み立てて、調理を開始した。お弁当箱には、今日はおかずだけを詰めて、ご飯はおにぎりにしよう!中に入れる具材は、シャケ、明太子、それにおかかにした。ホントは、ツナマヨも作りたかったけど、ツナマヨは傷む可能性があるから今日はやめといた。
翔太用には、大きめのおにぎりを握り、私の分は俵形のおにぎりにした。
お弁当を作っていると、お母さんが
「ご飯食べなさい。作るのは、お母さんがやっとくから。」
って、手伝ってくれたから、急いでダイニングテーブルに行きお父さんと向かい合わせで朝ごはんを食べた。今日の朝食は、私の試合がないからなのと、週末ということもあって洋食風の朝食だった。クロワッサンとスクランブルエッグ、ミートスパの残りを炒めたものが付け合わせに添えられていて、サラダも別皿で準備されていた。
しっかり食べて、洗い物を流しに持って行った。サッと、汚れを落としてから食洗機にお皿を入れてから、お母さんに手伝ってもらったおかずをお弁当箱に詰めた。
2人分のお弁当と水筒をリュックに納めて、一度学校に向かう準備を始めた。HRで出欠確認の為だけに行くのは、正直言ってメンドくさい。翔太の試合がある総合体育館は、一度戻らないといけない場所にある。家から会場に行く方が、断然早いのに…と思いながら、普段なら歩いて行く道のりだけど、今日は休みのお父さんが車で送ってくれるというので、遠慮なく送ってもらった。
今日の私は、試合はないので制服姿。いつもは、後ろできっちり括っている髪も解いた状態。今日ほど自由な状態で登下校できる日は他には体育祭と文化祭、卒業式くらいだろう。
学校の正門の近くで車から降ろしてもらい、お父さんにお礼を言って正門をくぐった。
HRに入り、出欠を確認したら即解散。モノの10分も学校内に居なかったと思う。
車で送ってもらった道を徒歩で戻り、途中の道を曲がり総合体育館を目指した。
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