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第一部

第十話 体力作りの一環

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階下に降り、宴会場と化したリビングに顔を出して、

「食べ過ぎたから、翔太と高架下のテニスコートまで行ってくるね。」

声をかけると、

「気をつけてねぇ~」
「翔太、ちゃんと優香をエスコートしろよ!」
「お土産よろしくぅ~!」

上から、翔太ママ、父親’Sちちおやーず、うちのお母さん…。
最後に言ったのは、多分甘いものの催促かぁ~。
高架下のテニスコートの近くに、お母さんお気に入りのケーキ屋さんがあるから、お母さんの場合、食後のデザートに…、って感覚だと思う。

昼間に一度家に帰っていた翔太は、レザーシューズからスニーカーに履き替えて来てた。

「本格的にするわけじゃないから、靴はスニーカーでもいっか。」

昼間履いていたハイカットのキャンバスシューズは閉まって、代わりに一番よく使っているお気に入りのスニーカーを取り出して履いた。
翔太と並んで玄関を出る。
並んで道を歩きながら、

「テニスコート行く前に、お母さんリクエストのケーキ買いに寄って良い?保冷剤多めにお願いしたら、持つでしょ。」
「『Le Lisル・リス』?あそこなら、ウチのお袋も好きだな。俺は、あそこのフルーツタルトが好きだな。」
「翔太は、フルーツの方なんだ。私は、イチゴタルトかモカロールかなぁ?」
「俺も、モカロールは好きだよ。」

夜だから人通りも車の通りも少ない。
高架下に近い道は大通りの側だからある程度人通りとかはある。昼間、買い物に出た時より薄暗い道を歩くので、少しだけ不安も入り乱れ翔太の腕にしっかり捕まったのは、私の中にも彼女のポジションが定着して来た証拠なのだろうか…?
翔太は、嫌がるそぶりもなく歩調を合わせて歩いてくれる。
高架下かもう直ぐ、といった所にお目当のお店『Le Lisル・リス』はある。
まだ、お店の明かりが点っている。
2人で店内に入り、ショーケースを覗けば、お互いの好物のタルトも、人気のモカロールも残っている。

「もう、閉店準備に入る時間なので、お値引きさせて頂きますよ。」

店内の商品を綺麗に陳列していた店員さんがこっそり伝えてくれた。
モカロールは残り4つ、タルトも2個づつ残っていた。お父さんの好きな、モンブランも残っている。お母さんのお気に入りの、チョコケーキもある!

「翔太のご両親は、何が好き?」
「ウチの親?お袋は、よくレアチーズを食ってるかな?親父は、ああ見えて何故かプリンアラモードが好きで、お袋が必ず買ってるかな?」

みんなの好みのものが残っていたので、モカロールを4つ、それにイチゴタルトとフルーツタルト、モンブラン、チョコケーキ、レアチーズ、プリンアラモードは1個づつ買った。
普段使いで使う財布はテニスコートに行くだけだからいらないと思って、持って出なかったので小銭を入れていた財布に入っていたお金だけでは足りない支払い金額だったので、スマホケースに入れてあったお父さん名義で作ってるクレジットカードの家族カードを使った。
保冷剤は、少し長めに2時間分お願いし、ケーキの入った箱を受け取った。

「結構重いだろ?持とうか?」

翔太が声をかけて来た。

「ううん。大丈夫。翔太は私を甘やかし過ぎだよ…。」
「そりゃ当たり前だろ?未来の奥さんを甘やかして何がいけないんだ?。」

疑問形だが、甘やかすことは当たり前だと言い切った翔太。
だから、そこが甘いんだってば…。

「翔太って、ホントぶれないよね?こうと決めたら、何が何でも有言実行するところとか…。その中でも、一番は戦闘機ファイターパイロットになる夢を現実にしようとしてる事が、一番すごいと思う。だって、小学校の卒業文集でも、中学の卒業寄せ書きでも書いてたでしょ?」
「それは、高校の卒アルの寄せ書きにも書くつもりだけどな!」
「そう言うとこ、ホントブレなくて、感心する。私なんかブレぶれだし。性格の優柔不断に現れてるなぁ~って思って思うの。」
「それは人それぞれだって。朝も言ったけど、俺の場合は単に小さい頃から戦闘機ファイターパイロットになれば優香を嫁さんに出来る、って言う淡い期待があったからブレなかったって感じ。今は、絶対、戦闘機ファイターパイロットにならなきゃ本当に優香を奥さんに出来ないって、追い詰められちゃてるから、正直ブレようがない…。それは、優香にも言い換えれるよ。順調に行けば俺が防大を卒業してからウィングマークを取れる頃に、優香はやっと防衛医科大学を卒業する頃になると思う。つまり、スタートラインが一緒になる可能性はある。それに両親’Sりょうしんずの前でアレだけの事した訳だし、優香も引くに引けなくなっただろ?完璧に、俺ら、ブレ様がなくなっちまってるんだよ…。」
「そうだね…。ダメだなぁ~。強くならなくっちゃいけないのに、後ろ向きで…。」
「そんな、強くならなくってもいいよ。俺の楽しみ取らないでよ…」
「翔太の楽しみ?」
「うん。優香を俺色って言うか、俺の事も絡めて色々考えて行ってもらえる様にするの。」
「俺色って…。どっぷり俺色に染まってると思うんだけど…。」
「ま、今は優香の練習に付き合って、運動後のスイーツを楽しみに体を動かすかな!」

高架下のテニスコートの入り口のフェンスを開けながら翔太が言った。

高架下のテニスコートは、誰でも使える様になってい流けど、今日は誰もいなかった。
隣に大きめの公園があるので、周囲は明るく夜中でもない限り程々の明かりが確保出来るので部活後とか、試合前には偶にここで納得行くまで練習する事も今まで何度かあった。
去年の県大会では1年生ながらベスト16に食い込んだけど、今年は他校がすごく伸びて来ていると言う話も聞く。去年以上の結果を残したいし、体力も卒業までのこの1年半でしっかり付けておきたい。ここに、足を運ぶ事が今まで以上に増えるんだろうな?って思いながら、ベンチにケーキの入った箱を置き、準備運動を始めた。アキレス腱もしっかり伸ばし、全身の筋肉もほぐす。

ラケットバックからお気に入りのラケットを取り出し、ガットの調整をする。テニスボールをポンポンって、何度かコート面に打ち付け感触を確認する。翔太も念入りに準備運動をしていつでも準備OK状態みたいだ。
コートに分かれて入り、軽くフラットサーブを打てば力強いフォアハンドストロークで翔太が返して来た。
手加減してくれてるけど、男子の打球はスピードも威力も全然違う。早いし、力強い。

「優香、もっと強く打っても、問題ないよ。」  

余裕な言葉を返してくる翔太に、ちょっとムッとした私。

「じゃ、遠慮なく!」

アングルショットで翔太に挑んだ。


当たり前だけど、息切れしたのは私の方で、結果、惨敗…。
何ポイントか取れたのは多分翔太なりの甘さな気もしないでも無い。だって、翔太のサーブはキレッキレで返すのがやっと、って感じだった。

「動体視力を鍛えるのに、丁度いいかも~!」

なんて、翔太が言う。

「翔太、これからも偶に練習に付き合ってもらっても良い?少林寺と空手で疲れてない時でいいから。後、受験勉強の邪魔にもならなければ…息抜き程度でいいから。」

翔太相手に練習したら、私も体力がつくし、男子相手だと女子に比べてスピード、威力共に段違いなのだから試合となった時に、相手の打球に対しての感じ方が絶対に楽に感じるハズだ。

「イイよ。お互い受験勉強の息抜きにもなるだろうし、俺にとっては何よりボールの軌道を見る事で動体視力も少しは養われると思うし…。少林寺や空手は、近距離から繰り出される物に対しての対応だし、距離感が違うもので養われる物もあるだろうからな。優香にとっても、運動になるだろうし男の俺の打球に慣れればスピードや威力の対して感覚が楽になると思うしな。Win-winだな。」

軽く息切れして、コートの上で座り込んでいた私に向かって翔太が手を出して来た。
翔太の手を掴んだら、グッと引っ張られて立ち上がらされた。
勢い余って、翔太の胸に飛び込んだ形になったけど、翔太はビクともしなく私を受け止めてくれた。

「大変な事がいっぱいあると思うけど、一緒に乗り越えて行こうな…優香。」

って、言ってギューっと抱きしめてくれたから、私も翔太の背中に手を回した。
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