Words of love 〜αとΩ番の誓い〜

浅葱

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新たな生活

カンファレンス

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奏先生に渡された無線機の電源を入れ、右の肩口のポケットに納め、仮眠室から出た。

「お待たせしました。」

と断りを入れれば、

「いや、出勤自体早かったしそんなに時間は掛かってないから気にするな。貰った薬、飲むだろ?」

とウォーターサーバーからグラスに冷水を入れて薬袋と共に渡してくれる理先生。

「ありがとうございます。」

と言いながら、薬袋とグラスを受け取った僕。
薬袋から指示されている薬を3錠取り出し、口に放り込む。
グラスの水で一気に流し込む。
薬の一部は唾液で簡単に溶ける様で、甘い味が口腔内に広がった。

「あっま…」

思わず口に出た。

「薬、甘いのか?」

と聞かれ、僕は、

「予想外の甘さでした…。」

と答えた。

「苦いよりはマシだろ…。いや、『良薬口に苦し』と言う諺もあるがな…」

と言われ、苦笑いするしかなかった。

「そうだ、カンファレンス前にこれを渡しておこう。」

と、言われ医療用のPHSとスマートホンを1台づつ渡された。
PHSには、医療系のドラマでもよく見かける赤いストラップが付けられていた。
アメリカ向こうでも使っていたし、使い慣れているといえばそうだが、何故スマホまで?

「スマホは、救命で現場に出た際無線以外に通信手段が無くなるからだ。場合によっては、公共交通機関を使って帰ってこなければならない事もあると奏も言っていた。部長職以上の者と救命スタッフのみ病院から支給されている。真琴先生は、救命との兼任だから支給対象となっているんだよ。それと、スマホの中のアプリに公共交通機関で使用できる専用のカード登録もされている。費用は自動で補充されるが、何かあった時のために幾らか現金を持ち歩いた方が良いと奏が言っていた。」

と教えてくれた。

「わかりました。ケースは自分で思う物を着けていいんでしょうか?」

と尋ねると、

「構わないよ。私も、ほらこうして使い勝手のいいケースを着けている。休日に私用の物と2台持ち歩くのは大変だけどね…」

とドクターコートのポケットからスマホを出して見せてくれた。
理先生のスマホは手帳タイプのケースに収まっていた。中を開いて、

「これだと、中のポケット部分にカードや幾らかの現金もいれれるからね。結構便利なんだ。さて、少し早いがカンファレンスに行こうか。」

とスマホを元に戻して、カンファレンスが行われる医局へ案内された。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

医局に理先生と共に入ると、一斉に向けられた目…。

「みんな揃っているな。では、カンファレンスを始めよう。」

理先生は、そんな目を気にする事無く歩みを進めた。僕も理先生に付いて歩みを進め、理先生の隣の空いていた席に座った。

カンファレンスは、救命のカンファレンスと大きな違いはなく、週末の患者変動数、外科手術後の患者の様子や特変(急変などの代わりのあった)患者の報告と進んでいった。
患者報告の際には、金曜日に僕が機内で診た患者の様子も伝えられた。
処置後の経過も順調な様だが、少し気になった点があった。
次の患者に移行しようとするタイミングで僕は、

「すみません、少しいいですか?」

と声を挟んだ。
報告をしていた先生がピクッとしていた。見かねた理先生が、

「七草先生、何か今の患者さんに問題でも?」

と助け船を出してくれた。

「カンファレンスの途中ですみません。本日より、心臓血管外科でお世話になる七草真琴と言います。その患者さんですが、酸素飽和度の値が低いのと尿量が少ないのが気になります。急性心不全を起こしかけている可能性が否定できないかと…。利尿剤の投与に関しては、どういった状況でしょうか?」

と尋ねれば、利尿剤の投与自体は行っていたが投与量が足りていなかった事がわかった。
適正な投与量を提示し、時間尿と比重などのチェックもしばらく続けて、安定すれば中止できることを伝えた。
報告していた先生は、聴きながらメモを取って何度も頭を下げた。

処置後の合併症が出はじめていただけなのだが、微細な数値変動なのでなかなか専門で扱っていないと気付かないことだろう…。

「処置や術後には予想外の合併症を発症する事もあります。僕は、機内から皆さんより長い時間その患者さんの様子を診ていたから気付けただけです。」

というと、理先生は頷いていた。

「カンファレンスでは、疑問に思った事を投げかけるのも大切だ。七草先生は、御自身で自己紹介をされてしまったが、改めて私から紹介しよう。本日付けで心臓血管外科に着任された七草真琴先生だ。先日の機内での急患を対応された。アメリカSt. George Hospitalのキャロライン教授の下で、心臓血管外科を専門として働かれていた。先生は、心臓血管外科分野の技術だけでなく救命領域の技術も引けを取らないくらい高い物を習得されているので、今回院長と救命からの要望もあり、救命と兼任をしてもらう事になっている。指導医は私が務めるため外科の医局にいる時間は少なくなると思う。医長をはじめとしたスタッフを信頼している任せるので、しっかり自分たちの責務を果たして欲しい。よろしく頼む。」

と言い切った理先生に、医局員は

「はい。」

と元気よく答えていた。

「それと、これは真琴先生からみんなに金曜のお礼と着任のご挨拶がわり…だそうだ。頂くと良い。」

と僕が渡していた大きな紙袋をテーブルの上にドンっと置いた。

「ありがとうございます。」「よろしくお願いします。」

と言った声があちらこちらから聞こえた。

「それぞれの自己紹介は、時間もないのでおいおい各々でするとして、他に何か報告は無いか?」

理先生が訪ねたが特に声が上がることはなかった。

「それでは、患者さんたちが待っている。それぞれ持ち場に戻ってくれ。カンファレンスは以上だ。」

カンファレンスを進行してくれていた先生が言えば、スタッフは救命と同じく蜘蛛の子を散らす勢いで医局を出て言った。
すると、カンファレンスを進行していた先生が側に来て、

「はじめまして、七草先生。私は司波部長、理先生の下で統括医長をさせていただいています成海雅也なるみまさやと言います。先程は、適切な御指摘有難うございました。私でも見逃す程の微細な患者さんの変化に気付かれるとは、七草先生は素晴らしい観察眼の持ち主ですね。今後ともよろしくお願いします。」

と頭を下げられた。僕は、

「こちらこそ、出過ぎた真似をしてしまった様で申し訳ありませんでした。七草真琴です。こちらこそよろしくお願いします。僕は、先ほども言いましたが、皆さんよりも長い時間患者さんを診ていたから気付けただけです。それに、ほんの少しだけ経験が加わっているだけです。」

と答えた。成海先生は、

「七草先生、先生の発言は出過ぎた真似ではありませんよ。患者さんの異常を早期に見つけたんですから。きっと、今頃さっきの報告をした彼は先生のアドバイス通りに処置や指示を出していると思います。僕もフォローに入るために病棟に行きますので、これで失礼します。」

と頭を下げて医局を出て行った。
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