【R18】きみを抱く理由

さくら蒼

文字の大きさ
上 下
76 / 81
番外編:疑われてもきみを抱く理由

しおりを挟む
 いつもと変わらない、忙しい一日が過ぎていった。
 仕事を終えた私のもとに有沢さんがやってくる。

「ちょっといい? 五分だけでいいから」
「構いませんが……」

 あんまり有沢さんらしくない言い方だった。
 この人はいつだってきっぱりはっきりものを言う。
 仕事に関係したことだとすれば、よほど人に聞かせたくない話なのだろう。
 そんなに秘密にしなければならないことと言えば、やはりアキくんに関わることに違いない。
 いい話か、悪い話か――。
 少しドキドキしながら有沢さんと空き部屋に向かった。
 先に入った有沢さんを追うようにして、後ろ手にドアを閉める。
 そうするともう私たち二人だけで、一気に緊張が増した。

「それで……お話っていうのは」
「……神宮寺さんのことなんだけど」
「あの人が、なにか?」

 有沢さんには早い段階ですべてを伝えている。
 私が悩んでいた頃に助言をしてくれたからというのもあるけれど、顔を合わせることが多い以上、どういう関係かをはっきりさせておいた方がのちのち困らないだろうという判断によるものが大きかった。

「はあ……。ちょっと言いにくいことなのよね」
「……言いにくいこと、ですか」
「…………最近、神宮司さんとうまくやってる?」
「……え」

 やはり、有沢さんらしくない。
 もっとびしっと突っ込んできてくれれば、私だってどう答えればいいかすぐにわかる。
 しかし、これではよくわからない。

(うまく……うまく……やれてる、よね……)

 住まいをあのマンションに移してからというもの、ほぼ毎日のように求められている。
 休みの日だって神宮寺さんの身体があいていればデートに行くし、そうでなくとも家で二人の時間をなるべく取るようにしている。
 そう考えてから、確かに最近少し忙しさから過ごす時間が短くなっていたのを思い出した。

「関係が悪化したとは思っていませんが、最近はお互い仕事に注力しているので、そういう意味ではうまくやれていないと言えるかもしれません」
「あー……うん、そうね。うん、真面目な回答をありがとう」
「……そういうことを聞いているんじゃない、とかでしたか?」
「んー……いや、そういうわけでもないんだけど」

 さすがに首を傾げる。
 あまりにも、らしくない。

「有沢さんらしくないです。聞きたいことがあるなら聞いてください。別に隠すこともないですし」
「そう……ね。うん……」
「職場だからプライベートの話はしない……なんて気にしてるわけじゃないですよね」

 アキくんが同じことをしたら止める。
 でも、有沢さんなら別に止めない。
 この人は頼れるかっこいい人であると同時に、とても女性的な人でもある。
 恋バナと聞けば必ず首を突っ込むし、積極的に聞き出そうと飲みに誘うのもザラ。
 かといって本当に不躾な質問はしてこないし、のろけもきっちり聞いてくれる。
 からっと気持ちのいい性格だから、私も安心して話せていたのだけれど。

「私、なにを言われても気にしませんよ?」
「……はあ」

 有沢さんが額を押さえて溜息を吐いた。
 そして、意を決したように言う。

「神宮寺さん、浮気してるわよ」
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~

吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。 結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。 何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

溺婚

明日葉
恋愛
 香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。  以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。  イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。 「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。  何がどうしてこうなった?  平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?

不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました

入海月子
恋愛
有本瑞希 仕事に燃える設計士 27歳 × 黒瀬諒 飄々として軽い一級建築士 35歳 女たらしと嫌厭していた黒瀬と一緒に働くことになった瑞希。 彼の言動は軽いけど、腕は確かで、真摯な仕事ぶりに惹かれていく。 ある日、同僚のミスが発覚して――。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

ネカフェ難民してたら鬼上司に拾われました

瀬崎由美
恋愛
穂香は、付き合って一年半の彼氏である栄悟と同棲中。でも、一緒に住んでいたマンションへと帰宅すると、家の中はほぼもぬけの殻。家具や家電と共に姿を消した栄悟とは連絡が取れない。彼が持っているはずの合鍵の行方も分からないから怖いと、ビジネスホテルやネットカフェを転々とする日々。そんな穂香の事情を知ったオーナーが自宅マンションの空いている部屋に居候することを提案してくる。一緒に住むうち、怖くて仕事に厳しい完璧イケメンで近寄りがたいと思っていたオーナーがド天然なのことを知った穂香。居候しながら彼のフォローをしていくうちに、その意外性に惹かれていく。

処理中です...