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番外編:今、きみを抱く理由
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――今、私は非常に面倒な状況にあった。
「ぜーんぜんやる気出ないんだけど」
「奇遇だな、俺もだ」
今をときめく人気アイドルのアキと、同じく人気フォトグラファーの神宮寺豊。
この二人の夢のコラボレーションがついに実現することとなった。
今日のために鬼のようなスケジュールを消化し、なんとか時間をすり合わせて貴重な時間を用意したというのに――。
「志保ちゃーん、もっとやりやすいカメラさんにしてー」
「もっと撮影し甲斐のある被写体にしてくれ。撮る気にならない」
「二人とも、文句はいいから仕事をしてください」
困ったことに、二人はいわゆる犬猿の仲だった。
(原因はまあ……わからなくもないんだけど……)
以前、私はアキくんに告白されたことがある。
その瞬間を撮影された上にリークされ、危ないところだったのは記憶に新しい。
きっと誰だって頷くだろう状況だったけれど、私はその告白をお断りした。
理由はここにいる豊さん。
回りくどい契約に縛られていた私は、あの瞬間に豊さんへの気持ちを自覚した。
その想いが無事に伝わり――しかも両想いだったらしい、だったら早く言ってほしかったと今でも思っている――私たちは正式に恋人同士、もとい婚約者となった。
ここまで言えば、誰だってアキくんと豊さんの関係を理解する。
そう、二人はいわゆる『恋敵』なのだった。
「いっそ、志保ちゃんと一緒にモデルやらせてくれない? それだったらやる気も出るし、神宮寺さんも撮ってくれるでしょ?」
「どうして君と志保が並んでいるところを撮らなきゃならないんだ」
「大丈夫大丈夫、際どい写真じゃないし?」
「そういう問題じゃない」
きっぱり言い切って、豊さんは顔をしかめる。
「いい加減、志保に手を出そうとするのはやめろ。どう頑張ったって君のものにはならないんだ」
「そういう余裕が気に入らないんですー。もしかしたらマリッジブルーになって、俺のところに逃げてきてくれるかもしれないじゃん?」
「ありえない」
「あ、これは危険信号出てるねぇ。男側って気付かないらしいからさ。奥さんになる人がどれだけ不安になるかってこと。神宮寺さん、ただでさえそういうの鈍そうだし、これはいけるかな」
「いけない」
「いける」
「いけない」
「いけるって」
「いい加減にしないと怒りますよ」
撮影のために取った時間は限られている。
いつまでこんなやり取りを続けるのか、ほとほと呆れてしまった。
「神宮寺さんのせいで怒られちゃった」
「人のせいにするな」
「まだ続けるなら、握手させてごめんなさいさせますからね」
「「絶対に嫌だ」」
二人の声が気持ちいいぐらい重なる。
その協調性をぜひ、仕事でも発揮してもらいたい。
「もう十五分も無駄にしました。巻きでお願いします」
「はーい」
「……仕方がないな」
渋々、といった様子で二人がそれぞれ自分の仕事に入る。
――たった一瞬で空気が変わった。
(…………すごい)
豊さんは、普段他の人々に言うようにアキくんへ指示を飛ばさなかった。
そうする必要がないというのは見ていてすぐにわかった。
アキくんはまるで豊さんの心が読めているかのように、『今欲しい瞬間』をその場に作り出す。
ただのアイドルだと言うには恐ろしい才能だった。
繰り返されるシャッター音を聞きながら、ふと気付く。
あの豊さんが微かに笑っていた。
(楽しそう)
そして、アキくんの表情も生き生きしていた。
自分の生み出したものを確実に形として捉えてもらえる、という安心感が、余裕のある空気ににじみ出る。
(最初からこうしてくれていればよかったのに)
とてもありがたいけれど、二人だけの世界になっているのはなんだか悔しい。
感動したり、悔しく思ったり、私の内心はちょっと穏やかではなかった。
「ぜーんぜんやる気出ないんだけど」
「奇遇だな、俺もだ」
今をときめく人気アイドルのアキと、同じく人気フォトグラファーの神宮寺豊。
この二人の夢のコラボレーションがついに実現することとなった。
今日のために鬼のようなスケジュールを消化し、なんとか時間をすり合わせて貴重な時間を用意したというのに――。
「志保ちゃーん、もっとやりやすいカメラさんにしてー」
「もっと撮影し甲斐のある被写体にしてくれ。撮る気にならない」
「二人とも、文句はいいから仕事をしてください」
困ったことに、二人はいわゆる犬猿の仲だった。
(原因はまあ……わからなくもないんだけど……)
以前、私はアキくんに告白されたことがある。
その瞬間を撮影された上にリークされ、危ないところだったのは記憶に新しい。
きっと誰だって頷くだろう状況だったけれど、私はその告白をお断りした。
理由はここにいる豊さん。
回りくどい契約に縛られていた私は、あの瞬間に豊さんへの気持ちを自覚した。
その想いが無事に伝わり――しかも両想いだったらしい、だったら早く言ってほしかったと今でも思っている――私たちは正式に恋人同士、もとい婚約者となった。
ここまで言えば、誰だってアキくんと豊さんの関係を理解する。
そう、二人はいわゆる『恋敵』なのだった。
「いっそ、志保ちゃんと一緒にモデルやらせてくれない? それだったらやる気も出るし、神宮寺さんも撮ってくれるでしょ?」
「どうして君と志保が並んでいるところを撮らなきゃならないんだ」
「大丈夫大丈夫、際どい写真じゃないし?」
「そういう問題じゃない」
きっぱり言い切って、豊さんは顔をしかめる。
「いい加減、志保に手を出そうとするのはやめろ。どう頑張ったって君のものにはならないんだ」
「そういう余裕が気に入らないんですー。もしかしたらマリッジブルーになって、俺のところに逃げてきてくれるかもしれないじゃん?」
「ありえない」
「あ、これは危険信号出てるねぇ。男側って気付かないらしいからさ。奥さんになる人がどれだけ不安になるかってこと。神宮寺さん、ただでさえそういうの鈍そうだし、これはいけるかな」
「いけない」
「いける」
「いけない」
「いけるって」
「いい加減にしないと怒りますよ」
撮影のために取った時間は限られている。
いつまでこんなやり取りを続けるのか、ほとほと呆れてしまった。
「神宮寺さんのせいで怒られちゃった」
「人のせいにするな」
「まだ続けるなら、握手させてごめんなさいさせますからね」
「「絶対に嫌だ」」
二人の声が気持ちいいぐらい重なる。
その協調性をぜひ、仕事でも発揮してもらいたい。
「もう十五分も無駄にしました。巻きでお願いします」
「はーい」
「……仕方がないな」
渋々、といった様子で二人がそれぞれ自分の仕事に入る。
――たった一瞬で空気が変わった。
(…………すごい)
豊さんは、普段他の人々に言うようにアキくんへ指示を飛ばさなかった。
そうする必要がないというのは見ていてすぐにわかった。
アキくんはまるで豊さんの心が読めているかのように、『今欲しい瞬間』をその場に作り出す。
ただのアイドルだと言うには恐ろしい才能だった。
繰り返されるシャッター音を聞きながら、ふと気付く。
あの豊さんが微かに笑っていた。
(楽しそう)
そして、アキくんの表情も生き生きしていた。
自分の生み出したものを確実に形として捉えてもらえる、という安心感が、余裕のある空気ににじみ出る。
(最初からこうしてくれていればよかったのに)
とてもありがたいけれど、二人だけの世界になっているのはなんだか悔しい。
感動したり、悔しく思ったり、私の内心はちょっと穏やかではなかった。
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