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きみを抱く理由
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「どうして最初に全部言ってくれなかったんですか? 私、好きになっちゃいけないんだと思ってたのに。我慢してたんですよ」
「なってくれてよかったんだが」
「だって、本物の恋人はいらないって言うから」
「…………そんなこと言ったか?」
「言いました。勘違いされたくないとも言いました」
「あー……。……まあ、どちらにせよ、素直に言ったところで断られていた気がする」
「そうですか?」
「普通に考えて気持ち悪くないか? 三年前から一目惚れして、もう一度会うためだけに生きてきたなんて」
「……そうやって聞くとストーカーみたいですね」
「だろう?」
また笑うと、抱き寄せられた。
その胸に顔を寄せて、されるがままになる。
「俺が縛られてきた百分の一でも、君を縛り付けたならいいと思っていた。さすがに三ヶ月で落とすのは難しいと思っていたしな」
「そこは自信ないんですか?」
「三ヶ月程度で人を好きになるものだとは思えない」
「自分は一目惚れしたのに?」
「…………確かに?」
ふふふ、と笑ってしまった。
「落とせないって思ってるのに、手はしっかり出したんですね」
「出すつもりはなかったんだ、一応」
「えっ」
あんなに求めてきたのに、と思い切り顔に出てしまったのだろう。
私を見た豊さんが苦笑しながら目を細める。
「俺との夜を想像して赤くなった君があまりにもかわいかったから、つい」
「だ、だからって」
「せめてキスぐらいで終わらせるつもりだったんだが。君も求めてきたし、俺ばかり悪いというわけでもないだろう」
なにも言えなくて顔が熱くなる。
「初めてだったのに、よく受け入れたな?」
「も……もともと……いいなって思ってたんです」
「…………は」
「仕事……してるとこ、素敵だなって……。助けた代わりに恋人になれって言われたときはひどい人だと思いましたけど……」
ああ、もう顔を見ていられないし、見られたくない。
絶対に見られないよう、豊さんの胸に顔を押し付ける。
「好きになるはずないと思ってたんです。だけど、いつの間にかすごく好きになって……本当に辛かったです」
「……謝った方がいいのか、俺は」
「謝ってください。好きって言ってもいいなら、一ヶ月前には言えていた気がします」
「すまなかった」
「……許します」
謝罪の言葉と一緒に、頭上へキスをひとつ。
顔を上げると額にも落とされた。
「今日も好きって言うだけ言ってお別れするつもりでした。玉砕しても、なにも言わないよりはいいと思って」
「先週、あんなに言っていたのにな」
「……あっ、あれは」
好き、と想いをあふれさせてしまった夜。
私を三年前から好きだったのだとしたら、この人はなにを感じたのだろう。
「今夜も聞かせてくれるのか?」
「……一緒にいていいなら言います。豊さんも聞かせてくださいね」
「好きだ」
「は、早いです」
今しか考えていないにもほどがある。
たった一言で顔が燃えているのかと思うぐらい熱を持った。
「他の人を好きなんだと思ってたのに」
「ずっと君一筋だ。伝えていたつもりだったんだが、やっぱり鈍いよな」
「そもそもの前提が悪いんです。三ヶ月だけの恋人だったんですよ。っていうか、その後本当にどうするつもりだったんですか?」
「考えていなかった」
「そんなことだろうと思いました」
悩んでいたのは私ばかりで、冷静そうに見えるこの人は深く考えずに生きていた。
脱力すると同時に、笑えてくる。
「この間もモデルに誘われたんですが、お断りしてよかったです。生涯最高の瞬間を撮られちゃいましたし、あれ以上の写真は一生撮られないと思います」
最初に迎えた朝でありながら、私の三ヶ月を凝縮させた瞬間だった。
豊さんは確かに私の『幸せ』な瞬間を切り取ったのだ。
「ふざけるな。あれ以上の写真なんていくらでも撮れる」
「そうですか?」
「昨日より今日の方が君を好きなんだから、三ヶ月前よりもいい写真を撮れるのは当たり前だろ」
(今日の方が好きって……。ここまではっきり言う人なのに、なんで今まで気付かなかったんだろうなぁ)
思えば、いつもこの人の言葉はまっすぐだった。
受け取る私の方に問題があったのだと思いかけたけれど、思い直しておく。
豊さんが一番悪い。たぶん。
「なってくれてよかったんだが」
「だって、本物の恋人はいらないって言うから」
「…………そんなこと言ったか?」
「言いました。勘違いされたくないとも言いました」
「あー……。……まあ、どちらにせよ、素直に言ったところで断られていた気がする」
「そうですか?」
「普通に考えて気持ち悪くないか? 三年前から一目惚れして、もう一度会うためだけに生きてきたなんて」
「……そうやって聞くとストーカーみたいですね」
「だろう?」
また笑うと、抱き寄せられた。
その胸に顔を寄せて、されるがままになる。
「俺が縛られてきた百分の一でも、君を縛り付けたならいいと思っていた。さすがに三ヶ月で落とすのは難しいと思っていたしな」
「そこは自信ないんですか?」
「三ヶ月程度で人を好きになるものだとは思えない」
「自分は一目惚れしたのに?」
「…………確かに?」
ふふふ、と笑ってしまった。
「落とせないって思ってるのに、手はしっかり出したんですね」
「出すつもりはなかったんだ、一応」
「えっ」
あんなに求めてきたのに、と思い切り顔に出てしまったのだろう。
私を見た豊さんが苦笑しながら目を細める。
「俺との夜を想像して赤くなった君があまりにもかわいかったから、つい」
「だ、だからって」
「せめてキスぐらいで終わらせるつもりだったんだが。君も求めてきたし、俺ばかり悪いというわけでもないだろう」
なにも言えなくて顔が熱くなる。
「初めてだったのに、よく受け入れたな?」
「も……もともと……いいなって思ってたんです」
「…………は」
「仕事……してるとこ、素敵だなって……。助けた代わりに恋人になれって言われたときはひどい人だと思いましたけど……」
ああ、もう顔を見ていられないし、見られたくない。
絶対に見られないよう、豊さんの胸に顔を押し付ける。
「好きになるはずないと思ってたんです。だけど、いつの間にかすごく好きになって……本当に辛かったです」
「……謝った方がいいのか、俺は」
「謝ってください。好きって言ってもいいなら、一ヶ月前には言えていた気がします」
「すまなかった」
「……許します」
謝罪の言葉と一緒に、頭上へキスをひとつ。
顔を上げると額にも落とされた。
「今日も好きって言うだけ言ってお別れするつもりでした。玉砕しても、なにも言わないよりはいいと思って」
「先週、あんなに言っていたのにな」
「……あっ、あれは」
好き、と想いをあふれさせてしまった夜。
私を三年前から好きだったのだとしたら、この人はなにを感じたのだろう。
「今夜も聞かせてくれるのか?」
「……一緒にいていいなら言います。豊さんも聞かせてくださいね」
「好きだ」
「は、早いです」
今しか考えていないにもほどがある。
たった一言で顔が燃えているのかと思うぐらい熱を持った。
「他の人を好きなんだと思ってたのに」
「ずっと君一筋だ。伝えていたつもりだったんだが、やっぱり鈍いよな」
「そもそもの前提が悪いんです。三ヶ月だけの恋人だったんですよ。っていうか、その後本当にどうするつもりだったんですか?」
「考えていなかった」
「そんなことだろうと思いました」
悩んでいたのは私ばかりで、冷静そうに見えるこの人は深く考えずに生きていた。
脱力すると同時に、笑えてくる。
「この間もモデルに誘われたんですが、お断りしてよかったです。生涯最高の瞬間を撮られちゃいましたし、あれ以上の写真は一生撮られないと思います」
最初に迎えた朝でありながら、私の三ヶ月を凝縮させた瞬間だった。
豊さんは確かに私の『幸せ』な瞬間を切り取ったのだ。
「ふざけるな。あれ以上の写真なんていくらでも撮れる」
「そうですか?」
「昨日より今日の方が君を好きなんだから、三ヶ月前よりもいい写真を撮れるのは当たり前だろ」
(今日の方が好きって……。ここまではっきり言う人なのに、なんで今まで気付かなかったんだろうなぁ)
思えば、いつもこの人の言葉はまっすぐだった。
受け取る私の方に問題があったのだと思いかけたけれど、思い直しておく。
豊さんが一番悪い。たぶん。
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