【R18】きみを抱く理由

さくら蒼

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当たって砕ける

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「濡れてる」
「言わないでください……」

 直接触れられないとひどくもどかしい。
 豊さんの背中に腕を回して、あと少し足りない快感を受け入れる。

「腰を動かしすぎだ」
「っ……焦らすから、です……」
「君のそういう顔が好きだからな」

 指で弄られながらキスをされる。

「切なげで息も荒くて。他のことなんか考えられない顔だ。もっとしてほしい、しか頭にないだろ?」
「そ、んなこと……」
「君の身体がそう言っているんだ」
「ん、あっ」

 ぐ、と強く指を押し付けられた。
 どっと身体の奥から熱があふれる。

「……撮ろうか」
「や……」
「好きだろう?」

 そんなことない、ともう一度言おうとしたのに、手を引かれて従ってしまった。
 まだ入ったことのない部屋へ導かれる。

「っあ」

 寝室へ入ると、広いベッドに押し倒された。
 豊さんはサイドテーブルにあったカメラを取ると、私に向けて構える。

「これ、すごく恥ずかしいんです。だから……」
「だから、感じるのか」
「ち、ちがっ……」

 シャッターを切る音にまで身体が反応する。
 これだけで熱くなるなんて、ほんの短い間にこの人の手でずいぶんと変えられてしまったものだ。

「撮らないで……」

 顔を隠したのに音が複数聞こえた。
 いっそここにあるのが、現場に持ち込むようなカメラだけならよかった。
 あんな大きくて重いカメラをこんな状況で構えるのは難しいだろう。
 どうしてよりによって使い勝手のよさそうな小型のものばかりなのか。
 前々から思っていたけれど、そういう趣味があるとしか思えない。

「やだ……」

 顔を隠しながら声を震わせる。
 シャッター音が聞こえなくなった代わりに、太ももを掴まれた。

「もっと慣らした方がいいか?」

 遠回しな聞き方だけど、わかっている。
 早く繋がりたい――と、そう言っているのだ。

「だい、じょうぶ……です……」

 豊さんが微かに笑った気がした。
 されたのはまだ、キスと少し触れられただけ。
 それなのにもう受け入れる準備ができてしまっている。
 そんな私を笑ったのだろう。

「笑わないでください……怒りますよ……」
「喜んでいるだけだ」
「どういう意味――ん、んん」

 ねじ込まれて唇を噛む。

「……志保、顔」

 軽快に抽挿を繰り返され、囁かれる。
 本当は見られてくなかったけれど、顔を覆っていた手をゆっくりどけた。
 喜んでいると言った通り、嬉しそうに見える。
 子供みたいな笑顔で責めないでほしい。
 感じてしまっている自分がいけない人間になった気がするから。

「んぁ……あっ……あっ、ぅ……」

 その顔が好きだ、と自分の嬌声に紛れて聞こえた気がした。
 深い場所をとんとんと細かく突かれ、物足りないと思っていた身体を支配されていく。

(気持ちいい……)

 泣きたくなるくらい、本当に満たされていた。
 来週まで会えないとなれば、こんな時間は今日で最後かもしれない。
 そう思うと、あまりにも切なかった。

「豊さん……もっと……」
「……ん。ここか?」
「あっ……あっ……」

 幾度も抱かれて覚えられた弱い場所を的確に責められる。
 自分の柔らかい部分が豊さんの硬くなったものを包み込んでいた。
 離したくない、このまま繋がっていたいと、触れ合うその部分から気持ちが伝わってしまいそうで怖い。

「…………っ」

 切ないと思えば思うほど身体も心も求めてしまう。
 このぬくもりを刻むだけ後が辛いのに、その背中に腕を回す。

「待っ……てくれ」

 豊さんがゆるゆる首を振って私との密着を拒む。
 そして、一度は横に置いたカメラをまた手に取った。

「あ……やっ……」

 より深い場所をぐっとえぐられる。
 悲鳴に似た声がパシャリという音と混ざり合った。

「だ、め……だめ……」

 こんなに乱れたところを見られたくない。残されたくない。
 今は気付かなくても後で写真を見たらわかってしまう。
 私がどんなに切なく求めているか、きっと全部顔に出ているから。

「ん……や、ら……ぁっ……」

 抵抗しなければと思うけれど、身体が自由にならなかった。
 もっとたくさん、深いところで感じていたい。
 時間の許す限りずっと。

「……っ、志保」

 熱心にシャッターを切っていたかと思えば、大事なカメラを放り投げるようにして置く。
 空いた手は私と繋がった。
 指を絡め、手のひらを重ねる。

「いいならそう言ってくれ」
「……い、い……です、気持ちいい……あっ……」
「どのぐらい?」
「わ、からな……んっ……あぁっ……」

 引かない快感が私を溺れさせようとしてくる。
 いっそ息ができなくなってしまえば、この胸の痛みも感じなくなるだろう。

「すご、く……すごく気持ちいいです……」

 私を穿つそれが大きさを増す。
 中を圧迫され、反射的に声を出していた。

「――――すき」

 舌ったらずな、小さな女の子かと思うようなつたない声。
 一度こぼれるともう止まらない。

「好き……。……っ、好き……なんです……」

 こんなときに言うつもりなんてなかった。
 ただ盛り上がって言っているだけだと思ってくれればいいけれど――。

「俺の方が、もっと」
「――っ、んんっ!」

 律動の速さが増した。
 一番最後の瞬間を迎えるために、私を高みへ連れて行く。

「あっ……あっ……ゆた……ゆたかさ……ぁっ……」

 あふれてしまった気持ちへの返答を待たず、一気に上り詰めた。
 握った手にぎゅっと力が入り、ややあって脱力する。
 呼吸さえ止まった私に二度三度打ち付けた後、豊さんも押し殺した息を吐いた。
 息を整える間、抱き合ってひとつになる。

(……好き)

 ほろ、と涙がこぼれた。

(好き……あなたが好きです……)

 顔を見られないように心の中で告げる。
 身体だけが求めているのではなく、私のすべてがこの人を求めている。
 伝えられないそれを伝えるように、ただ、抱き締めた。
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