【R18】きみを抱く理由

さくら蒼

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当たって砕ける

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「そんなに喜ぶなら、もっと早く連れてくればよかった。今日まで思いつかなかったんだ。家というほど、ここで過ごす時間が長いわけでもないしな」
「そうなんですね」
「寝るための場所でしかないんだ。ホテルに泊まるのも多いし」
「お邪魔できて嬉しいです。本当に恋人っぽくて」
「本当にもなにも恋人なんだが」

 抱き締められたまま夜景を見つめると、胸があたたかい想いで満たされる。
 今までに何度、どれだけの女性がこの夜景を見せてもらったのだろう。
 ちりちり胸は疼いたけれど、思ったほど痛くはない。
 たとえ百人がここに来ていようと、豊さんには想い続けている人がいる。私も含めた誰も本命ではないのだと思えば、まだ悲しくない。

「……来週は日曜日しか会えない」
「え……?」

 急な言葉に振り返る。

「日曜日って……月末、ですよね。じゃあその日にお別れですか……?」
「そうなるな。……すまない、次の現場が海外なんだ」
「それなら会うのは難しいですね」

(少しどころじゃなく残念だけど)

 恋人として過ごす最後の週だから、平日の夜にでももう少し時間を取るのかと思っていた。
 寂しさが募ると同時に、本来の目的を思い出す。

「ということは、今日かその日に撮影するんですね。今までコンクール用の写真を撮っていないですし」
「…………あー」
「……念のために聞いておきますけど、これまでの写真はコンクールに出しませんよね」

 私が撮られてきた写真はいずれもベッドの上でのもの。
 あんな写真を世間に出されたら、もう外を歩けない。

「ものがよければ出すかもな」
「怒りますよ」
「怒った顔も撮っておくか」
「幸せな瞬間を撮るって言ってたのに」

 言い返すと笑われた。
 頬を撫でられてぎくりとする。

「今夜も撮りたいな。記念に」
「……自宅に招いた記念?」
「そういうことにしておく」

 指が輪郭を伝って顎に到達する。
 おとがいを軽く持ち上げられ、目が合った。

「綺麗に撮ってくださいね」
「君はいつでも綺麗だ」

 どき、と震えた心ごとすくうように口付けられる。
 背中を大きな窓に押し付けられ、繰り返し何度も。
 柔らかな感触には慣れたつもりだったのに、やっぱり胸がざわざわした。
 どうせキスするなら、もっと残酷に、強引に奪ってほしい。
 優しく触れられるから私だって嬉しくなってしまう。

「今日……終わったら、お別れまであと一回しか会えないんですよね……?」
「仕事でなら会える」
「恋人としては会えませんよ」

 当然のことを言ったつもりが、驚いた顔をされる。
 別れた後も今と同じように接するつもりだったのだろうか。もしもそうなら、やっぱりとても罪深い人である。

「……セフレにはなりませんから」
「そんなつもりは」
「やりかねないから先に言っているんです」
「そこまで遊び人に見られていたとは知らなかったな」
「慣れすぎているからです。過去にいたんじゃないかって思うぐらい」
「いるわけないだろ。なにに慣れていると思ったか知らないが」
「だって、慣れてなかったらあんなに……私をどきどきさせられないはずですよ」

 最初の夜のことは今でも信じられない。
 求めて、求められて、乱れてしまった。

「……初めてだったのに」

 あの日のことを責めると、豊さんの目が軽く見開かれた。
 驚きに満ちたその顔は、すぐにくっとゆがめられる。

「どうして今言うんだ」
「今しかないですもん」
「そう感じていたと知っていたら、今日まで申し訳ないと思わずにいられたのに」
「思っていたんですか?」
「かなり」

(それはどうして?)

 聞こうとしたら唇を塞がれた。
 そう。こういう荒いキスでいい。
 と思ったけれど、これはこれでやっぱりだめだった。
 こんなに求めてくれているのかと勘違いして、結局嬉しくなる。

「……っ、ん、ふ」

 肩口を掴んでなんとか呼吸する。
 舌が絡むと気持ちいい。唇を甘噛みされるのも気持ちいい。
 手を繋ぐともっともっと幸せな気持ちになる。

「……ぁ」

 足の間に膝を入れられた。
 そこに手が伸びてきたのを感じ、ふる、と首を横に振る。

「シャワー……」
「後でいい」

 そう言われると抵抗できなかった。
 スカートの中に潜り込んだ指が下着の上から敏感な場所を擦りあげる。
 キスだけで――いや、ここに来るだけで期待した身体は、とっくに反応を見せていた。
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