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当たって砕ける
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「そんなに喜ぶなら、もっと早く連れてくればよかった。今日まで思いつかなかったんだ。家というほど、ここで過ごす時間が長いわけでもないしな」
「そうなんですね」
「寝るための場所でしかないんだ。ホテルに泊まるのも多いし」
「お邪魔できて嬉しいです。本当に恋人っぽくて」
「本当にもなにも恋人なんだが」
抱き締められたまま夜景を見つめると、胸があたたかい想いで満たされる。
今までに何度、どれだけの女性がこの夜景を見せてもらったのだろう。
ちりちり胸は疼いたけれど、思ったほど痛くはない。
たとえ百人がここに来ていようと、豊さんには想い続けている人がいる。私も含めた誰も本命ではないのだと思えば、まだ悲しくない。
「……来週は日曜日しか会えない」
「え……?」
急な言葉に振り返る。
「日曜日って……月末、ですよね。じゃあその日にお別れですか……?」
「そうなるな。……すまない、次の現場が海外なんだ」
「それなら会うのは難しいですね」
(少しどころじゃなく残念だけど)
恋人として過ごす最後の週だから、平日の夜にでももう少し時間を取るのかと思っていた。
寂しさが募ると同時に、本来の目的を思い出す。
「ということは、今日かその日に撮影するんですね。今までコンクール用の写真を撮っていないですし」
「…………あー」
「……念のために聞いておきますけど、これまでの写真はコンクールに出しませんよね」
私が撮られてきた写真はいずれもベッドの上でのもの。
あんな写真を世間に出されたら、もう外を歩けない。
「ものがよければ出すかもな」
「怒りますよ」
「怒った顔も撮っておくか」
「幸せな瞬間を撮るって言ってたのに」
言い返すと笑われた。
頬を撫でられてぎくりとする。
「今夜も撮りたいな。記念に」
「……自宅に招いた記念?」
「そういうことにしておく」
指が輪郭を伝って顎に到達する。
おとがいを軽く持ち上げられ、目が合った。
「綺麗に撮ってくださいね」
「君はいつでも綺麗だ」
どき、と震えた心ごとすくうように口付けられる。
背中を大きな窓に押し付けられ、繰り返し何度も。
柔らかな感触には慣れたつもりだったのに、やっぱり胸がざわざわした。
どうせキスするなら、もっと残酷に、強引に奪ってほしい。
優しく触れられるから私だって嬉しくなってしまう。
「今日……終わったら、お別れまであと一回しか会えないんですよね……?」
「仕事でなら会える」
「恋人としては会えませんよ」
当然のことを言ったつもりが、驚いた顔をされる。
別れた後も今と同じように接するつもりだったのだろうか。もしもそうなら、やっぱりとても罪深い人である。
「……セフレにはなりませんから」
「そんなつもりは」
「やりかねないから先に言っているんです」
「そこまで遊び人に見られていたとは知らなかったな」
「慣れすぎているからです。過去にいたんじゃないかって思うぐらい」
「いるわけないだろ。なにに慣れていると思ったか知らないが」
「だって、慣れてなかったらあんなに……私をどきどきさせられないはずですよ」
最初の夜のことは今でも信じられない。
求めて、求められて、乱れてしまった。
「……初めてだったのに」
あの日のことを責めると、豊さんの目が軽く見開かれた。
驚きに満ちたその顔は、すぐにくっとゆがめられる。
「どうして今言うんだ」
「今しかないですもん」
「そう感じていたと知っていたら、今日まで申し訳ないと思わずにいられたのに」
「思っていたんですか?」
「かなり」
(それはどうして?)
聞こうとしたら唇を塞がれた。
そう。こういう荒いキスでいい。
と思ったけれど、これはこれでやっぱりだめだった。
こんなに求めてくれているのかと勘違いして、結局嬉しくなる。
「……っ、ん、ふ」
肩口を掴んでなんとか呼吸する。
舌が絡むと気持ちいい。唇を甘噛みされるのも気持ちいい。
手を繋ぐともっともっと幸せな気持ちになる。
「……ぁ」
足の間に膝を入れられた。
そこに手が伸びてきたのを感じ、ふる、と首を横に振る。
「シャワー……」
「後でいい」
そう言われると抵抗できなかった。
スカートの中に潜り込んだ指が下着の上から敏感な場所を擦りあげる。
キスだけで――いや、ここに来るだけで期待した身体は、とっくに反応を見せていた。
「そうなんですね」
「寝るための場所でしかないんだ。ホテルに泊まるのも多いし」
「お邪魔できて嬉しいです。本当に恋人っぽくて」
「本当にもなにも恋人なんだが」
抱き締められたまま夜景を見つめると、胸があたたかい想いで満たされる。
今までに何度、どれだけの女性がこの夜景を見せてもらったのだろう。
ちりちり胸は疼いたけれど、思ったほど痛くはない。
たとえ百人がここに来ていようと、豊さんには想い続けている人がいる。私も含めた誰も本命ではないのだと思えば、まだ悲しくない。
「……来週は日曜日しか会えない」
「え……?」
急な言葉に振り返る。
「日曜日って……月末、ですよね。じゃあその日にお別れですか……?」
「そうなるな。……すまない、次の現場が海外なんだ」
「それなら会うのは難しいですね」
(少しどころじゃなく残念だけど)
恋人として過ごす最後の週だから、平日の夜にでももう少し時間を取るのかと思っていた。
寂しさが募ると同時に、本来の目的を思い出す。
「ということは、今日かその日に撮影するんですね。今までコンクール用の写真を撮っていないですし」
「…………あー」
「……念のために聞いておきますけど、これまでの写真はコンクールに出しませんよね」
私が撮られてきた写真はいずれもベッドの上でのもの。
あんな写真を世間に出されたら、もう外を歩けない。
「ものがよければ出すかもな」
「怒りますよ」
「怒った顔も撮っておくか」
「幸せな瞬間を撮るって言ってたのに」
言い返すと笑われた。
頬を撫でられてぎくりとする。
「今夜も撮りたいな。記念に」
「……自宅に招いた記念?」
「そういうことにしておく」
指が輪郭を伝って顎に到達する。
おとがいを軽く持ち上げられ、目が合った。
「綺麗に撮ってくださいね」
「君はいつでも綺麗だ」
どき、と震えた心ごとすくうように口付けられる。
背中を大きな窓に押し付けられ、繰り返し何度も。
柔らかな感触には慣れたつもりだったのに、やっぱり胸がざわざわした。
どうせキスするなら、もっと残酷に、強引に奪ってほしい。
優しく触れられるから私だって嬉しくなってしまう。
「今日……終わったら、お別れまであと一回しか会えないんですよね……?」
「仕事でなら会える」
「恋人としては会えませんよ」
当然のことを言ったつもりが、驚いた顔をされる。
別れた後も今と同じように接するつもりだったのだろうか。もしもそうなら、やっぱりとても罪深い人である。
「……セフレにはなりませんから」
「そんなつもりは」
「やりかねないから先に言っているんです」
「そこまで遊び人に見られていたとは知らなかったな」
「慣れすぎているからです。過去にいたんじゃないかって思うぐらい」
「いるわけないだろ。なにに慣れていると思ったか知らないが」
「だって、慣れてなかったらあんなに……私をどきどきさせられないはずですよ」
最初の夜のことは今でも信じられない。
求めて、求められて、乱れてしまった。
「……初めてだったのに」
あの日のことを責めると、豊さんの目が軽く見開かれた。
驚きに満ちたその顔は、すぐにくっとゆがめられる。
「どうして今言うんだ」
「今しかないですもん」
「そう感じていたと知っていたら、今日まで申し訳ないと思わずにいられたのに」
「思っていたんですか?」
「かなり」
(それはどうして?)
聞こうとしたら唇を塞がれた。
そう。こういう荒いキスでいい。
と思ったけれど、これはこれでやっぱりだめだった。
こんなに求めてくれているのかと勘違いして、結局嬉しくなる。
「……っ、ん、ふ」
肩口を掴んでなんとか呼吸する。
舌が絡むと気持ちいい。唇を甘噛みされるのも気持ちいい。
手を繋ぐともっともっと幸せな気持ちになる。
「……ぁ」
足の間に膝を入れられた。
そこに手が伸びてきたのを感じ、ふる、と首を横に振る。
「シャワー……」
「後でいい」
そう言われると抵抗できなかった。
スカートの中に潜り込んだ指が下着の上から敏感な場所を擦りあげる。
キスだけで――いや、ここに来るだけで期待した身体は、とっくに反応を見せていた。
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