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当たって砕ける
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「う……」
「結論を出すのが早いってことは、諦めるのも早いってことでしょ? 実際、もう諦めちゃってるじゃない。なんにもしてないのに。もう少しあがいてみようとは思わないの?」
「でも……」
「好きな人の印象にも残らないまま退場するなんて悔しくない? 私だったら好きな女がどうしたって乗り込んで、キスのひとつでもお見舞いするわよ」
「……強気すぎます」
有沢さんらしいけれど、私には真似できない。
自分からキスをしたことはある。ただ、そこに想いを乗せないよう気を付けるのでいっぱいいっぱいだった。
「告白して傷付くのは……嫌です」
「……そうね。誰だって傷付きたくないわね」
「振られた後、顔をあわせたくないです。なんにもなかったように接せられるくらいなら、実家に帰って引きこもります……」
「それは私が困るのよ。まだまだ一緒に仕事したいんだから」
泣きそうになった私をぽんぽんと撫でてくれる。
なんて頼れる姉御だろうと有沢さんの存在に感謝した。
「また改めて言おうと思ってたんだけどね。この間のアキのあれ、いい意味で知名度アップに繋がったのよ。急遽アルバムを作らないかって話が出てて」
「そんな……話が……?」
「安本さんにも伝えてあるわよ。でもあの子、やりきれる自信がないからあなたに回してほしいって言ってるの」
「安本さんだってできます。優秀ですから」
「アキのかじ取りをうまくやれるのは一人しかいない、ってことでしょうね」
そういう意味ならわかる気はした。
自分の能力というより、単純に担当する人物との相性の問題なのだ。
それで考えれば、私はアキくんと相性がいい、ということになる。
「ね。まだやることが残ってるの。だから実家に帰らないで。押しかけるわよ」
「や、やめてください。両親が気絶します……」
「うふふ、嫌ならおとなしく私の手足として動くことね」
強すぎる、と声には出さず呟く。
下手をすれば社長よりも発言権を持っているのではないだろうか。
「……っ、わかりました」
涙がにじんでいた目元を拭い、気合いを入れるためにカクテルを飲もうとする。
さっき一気に飲み干したのを忘れていたせいで、氷が唇にぶつかった。
熱くなっていた頭が冷える。
「私、頑張ります。恋愛はともかく仕事で……!」
「そ。期待してるわ」
「はい!」
「まあ、恋愛も応援してるから。ぱぱっと玉砕してきなさい」
「……そうですね」
(それでいいのかもしれない)
話したことで気持ちが軽くなったのは確かだった。
豊さんとの未来はない。
でも、肌を重ねる程度にはなんらかの気持ちがあるはず。
好きになってもらえることはないとしても、私という存在を思い出に残すことはできる。
好きな人がいるからといって、自分の気持ちを伝えない理由にはならないのだ。
そう、自分を納得させる。
「そうそう。アルバムを出すにあたって他にもいろいろやっていきたいのよ。写真集なんていいかと思うんだけど、どうかしら?」
わかってて言っているんじゃないかと思うぐらい、ピンポイントな話だった。
吹っ切れる前ならダメージを受けていたかもしれない。
今もなにも感じていないとは言わないけれど。
「いいと思います。アキくんならなにを振っても喜んでやってくれますよ」
「ならよかったわ。やっぱり撮ってもらうとしたら――」
「私は神宮寺さんを推薦します」
はっきり、途中で気持ちが引いてしまわないよう言い切る。
「話題性も充分ですし、アキくんもいつか撮ってもらいたいと言っていました。話なら通せると思います」
「神宮寺さんって、今をときめくあの人よね? 知り合いだったの?」
「以前、スタジオでお会いしたことがあるんです。そのときからご縁があって」
「そう。じゃあ話は早そうね。スケジュールを抑えるのも大変でしょうし、なるべく早く通しておいて」
「はい」
恋愛は玉砕しに行く。
どうせ仕事で顔をあわせてしまうなら、いっそ完璧な仕事を共に作り上げたい。
そうすればこの気持ちもいつか昇華されるだろうし、傷が癒えた頃には笑い話にできるだろう。
「頑張ります」
心からの気持ちを込めてそう伝える。
好きな人と偽物の恋人でいられるのは来週でおしまい。
今度こそ気持ちのいい別れを目指すつもりだった。
「結論を出すのが早いってことは、諦めるのも早いってことでしょ? 実際、もう諦めちゃってるじゃない。なんにもしてないのに。もう少しあがいてみようとは思わないの?」
「でも……」
「好きな人の印象にも残らないまま退場するなんて悔しくない? 私だったら好きな女がどうしたって乗り込んで、キスのひとつでもお見舞いするわよ」
「……強気すぎます」
有沢さんらしいけれど、私には真似できない。
自分からキスをしたことはある。ただ、そこに想いを乗せないよう気を付けるのでいっぱいいっぱいだった。
「告白して傷付くのは……嫌です」
「……そうね。誰だって傷付きたくないわね」
「振られた後、顔をあわせたくないです。なんにもなかったように接せられるくらいなら、実家に帰って引きこもります……」
「それは私が困るのよ。まだまだ一緒に仕事したいんだから」
泣きそうになった私をぽんぽんと撫でてくれる。
なんて頼れる姉御だろうと有沢さんの存在に感謝した。
「また改めて言おうと思ってたんだけどね。この間のアキのあれ、いい意味で知名度アップに繋がったのよ。急遽アルバムを作らないかって話が出てて」
「そんな……話が……?」
「安本さんにも伝えてあるわよ。でもあの子、やりきれる自信がないからあなたに回してほしいって言ってるの」
「安本さんだってできます。優秀ですから」
「アキのかじ取りをうまくやれるのは一人しかいない、ってことでしょうね」
そういう意味ならわかる気はした。
自分の能力というより、単純に担当する人物との相性の問題なのだ。
それで考えれば、私はアキくんと相性がいい、ということになる。
「ね。まだやることが残ってるの。だから実家に帰らないで。押しかけるわよ」
「や、やめてください。両親が気絶します……」
「うふふ、嫌ならおとなしく私の手足として動くことね」
強すぎる、と声には出さず呟く。
下手をすれば社長よりも発言権を持っているのではないだろうか。
「……っ、わかりました」
涙がにじんでいた目元を拭い、気合いを入れるためにカクテルを飲もうとする。
さっき一気に飲み干したのを忘れていたせいで、氷が唇にぶつかった。
熱くなっていた頭が冷える。
「私、頑張ります。恋愛はともかく仕事で……!」
「そ。期待してるわ」
「はい!」
「まあ、恋愛も応援してるから。ぱぱっと玉砕してきなさい」
「……そうですね」
(それでいいのかもしれない)
話したことで気持ちが軽くなったのは確かだった。
豊さんとの未来はない。
でも、肌を重ねる程度にはなんらかの気持ちがあるはず。
好きになってもらえることはないとしても、私という存在を思い出に残すことはできる。
好きな人がいるからといって、自分の気持ちを伝えない理由にはならないのだ。
そう、自分を納得させる。
「そうそう。アルバムを出すにあたって他にもいろいろやっていきたいのよ。写真集なんていいかと思うんだけど、どうかしら?」
わかってて言っているんじゃないかと思うぐらい、ピンポイントな話だった。
吹っ切れる前ならダメージを受けていたかもしれない。
今もなにも感じていないとは言わないけれど。
「いいと思います。アキくんならなにを振っても喜んでやってくれますよ」
「ならよかったわ。やっぱり撮ってもらうとしたら――」
「私は神宮寺さんを推薦します」
はっきり、途中で気持ちが引いてしまわないよう言い切る。
「話題性も充分ですし、アキくんもいつか撮ってもらいたいと言っていました。話なら通せると思います」
「神宮寺さんって、今をときめくあの人よね? 知り合いだったの?」
「以前、スタジオでお会いしたことがあるんです。そのときからご縁があって」
「そう。じゃあ話は早そうね。スケジュールを抑えるのも大変でしょうし、なるべく早く通しておいて」
「はい」
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どうせ仕事で顔をあわせてしまうなら、いっそ完璧な仕事を共に作り上げたい。
そうすればこの気持ちもいつか昇華されるだろうし、傷が癒えた頃には笑い話にできるだろう。
「頑張ります」
心からの気持ちを込めてそう伝える。
好きな人と偽物の恋人でいられるのは来週でおしまい。
今度こそ気持ちのいい別れを目指すつもりだった。
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