49 / 81
当たって砕ける
4
しおりを挟む
「う……」
「結論を出すのが早いってことは、諦めるのも早いってことでしょ? 実際、もう諦めちゃってるじゃない。なんにもしてないのに。もう少しあがいてみようとは思わないの?」
「でも……」
「好きな人の印象にも残らないまま退場するなんて悔しくない? 私だったら好きな女がどうしたって乗り込んで、キスのひとつでもお見舞いするわよ」
「……強気すぎます」
有沢さんらしいけれど、私には真似できない。
自分からキスをしたことはある。ただ、そこに想いを乗せないよう気を付けるのでいっぱいいっぱいだった。
「告白して傷付くのは……嫌です」
「……そうね。誰だって傷付きたくないわね」
「振られた後、顔をあわせたくないです。なんにもなかったように接せられるくらいなら、実家に帰って引きこもります……」
「それは私が困るのよ。まだまだ一緒に仕事したいんだから」
泣きそうになった私をぽんぽんと撫でてくれる。
なんて頼れる姉御だろうと有沢さんの存在に感謝した。
「また改めて言おうと思ってたんだけどね。この間のアキのあれ、いい意味で知名度アップに繋がったのよ。急遽アルバムを作らないかって話が出てて」
「そんな……話が……?」
「安本さんにも伝えてあるわよ。でもあの子、やりきれる自信がないからあなたに回してほしいって言ってるの」
「安本さんだってできます。優秀ですから」
「アキのかじ取りをうまくやれるのは一人しかいない、ってことでしょうね」
そういう意味ならわかる気はした。
自分の能力というより、単純に担当する人物との相性の問題なのだ。
それで考えれば、私はアキくんと相性がいい、ということになる。
「ね。まだやることが残ってるの。だから実家に帰らないで。押しかけるわよ」
「や、やめてください。両親が気絶します……」
「うふふ、嫌ならおとなしく私の手足として動くことね」
強すぎる、と声には出さず呟く。
下手をすれば社長よりも発言権を持っているのではないだろうか。
「……っ、わかりました」
涙がにじんでいた目元を拭い、気合いを入れるためにカクテルを飲もうとする。
さっき一気に飲み干したのを忘れていたせいで、氷が唇にぶつかった。
熱くなっていた頭が冷える。
「私、頑張ります。恋愛はともかく仕事で……!」
「そ。期待してるわ」
「はい!」
「まあ、恋愛も応援してるから。ぱぱっと玉砕してきなさい」
「……そうですね」
(それでいいのかもしれない)
話したことで気持ちが軽くなったのは確かだった。
豊さんとの未来はない。
でも、肌を重ねる程度にはなんらかの気持ちがあるはず。
好きになってもらえることはないとしても、私という存在を思い出に残すことはできる。
好きな人がいるからといって、自分の気持ちを伝えない理由にはならないのだ。
そう、自分を納得させる。
「そうそう。アルバムを出すにあたって他にもいろいろやっていきたいのよ。写真集なんていいかと思うんだけど、どうかしら?」
わかってて言っているんじゃないかと思うぐらい、ピンポイントな話だった。
吹っ切れる前ならダメージを受けていたかもしれない。
今もなにも感じていないとは言わないけれど。
「いいと思います。アキくんならなにを振っても喜んでやってくれますよ」
「ならよかったわ。やっぱり撮ってもらうとしたら――」
「私は神宮寺さんを推薦します」
はっきり、途中で気持ちが引いてしまわないよう言い切る。
「話題性も充分ですし、アキくんもいつか撮ってもらいたいと言っていました。話なら通せると思います」
「神宮寺さんって、今をときめくあの人よね? 知り合いだったの?」
「以前、スタジオでお会いしたことがあるんです。そのときからご縁があって」
「そう。じゃあ話は早そうね。スケジュールを抑えるのも大変でしょうし、なるべく早く通しておいて」
「はい」
恋愛は玉砕しに行く。
どうせ仕事で顔をあわせてしまうなら、いっそ完璧な仕事を共に作り上げたい。
そうすればこの気持ちもいつか昇華されるだろうし、傷が癒えた頃には笑い話にできるだろう。
「頑張ります」
心からの気持ちを込めてそう伝える。
好きな人と偽物の恋人でいられるのは来週でおしまい。
今度こそ気持ちのいい別れを目指すつもりだった。
「結論を出すのが早いってことは、諦めるのも早いってことでしょ? 実際、もう諦めちゃってるじゃない。なんにもしてないのに。もう少しあがいてみようとは思わないの?」
「でも……」
「好きな人の印象にも残らないまま退場するなんて悔しくない? 私だったら好きな女がどうしたって乗り込んで、キスのひとつでもお見舞いするわよ」
「……強気すぎます」
有沢さんらしいけれど、私には真似できない。
自分からキスをしたことはある。ただ、そこに想いを乗せないよう気を付けるのでいっぱいいっぱいだった。
「告白して傷付くのは……嫌です」
「……そうね。誰だって傷付きたくないわね」
「振られた後、顔をあわせたくないです。なんにもなかったように接せられるくらいなら、実家に帰って引きこもります……」
「それは私が困るのよ。まだまだ一緒に仕事したいんだから」
泣きそうになった私をぽんぽんと撫でてくれる。
なんて頼れる姉御だろうと有沢さんの存在に感謝した。
「また改めて言おうと思ってたんだけどね。この間のアキのあれ、いい意味で知名度アップに繋がったのよ。急遽アルバムを作らないかって話が出てて」
「そんな……話が……?」
「安本さんにも伝えてあるわよ。でもあの子、やりきれる自信がないからあなたに回してほしいって言ってるの」
「安本さんだってできます。優秀ですから」
「アキのかじ取りをうまくやれるのは一人しかいない、ってことでしょうね」
そういう意味ならわかる気はした。
自分の能力というより、単純に担当する人物との相性の問題なのだ。
それで考えれば、私はアキくんと相性がいい、ということになる。
「ね。まだやることが残ってるの。だから実家に帰らないで。押しかけるわよ」
「や、やめてください。両親が気絶します……」
「うふふ、嫌ならおとなしく私の手足として動くことね」
強すぎる、と声には出さず呟く。
下手をすれば社長よりも発言権を持っているのではないだろうか。
「……っ、わかりました」
涙がにじんでいた目元を拭い、気合いを入れるためにカクテルを飲もうとする。
さっき一気に飲み干したのを忘れていたせいで、氷が唇にぶつかった。
熱くなっていた頭が冷える。
「私、頑張ります。恋愛はともかく仕事で……!」
「そ。期待してるわ」
「はい!」
「まあ、恋愛も応援してるから。ぱぱっと玉砕してきなさい」
「……そうですね」
(それでいいのかもしれない)
話したことで気持ちが軽くなったのは確かだった。
豊さんとの未来はない。
でも、肌を重ねる程度にはなんらかの気持ちがあるはず。
好きになってもらえることはないとしても、私という存在を思い出に残すことはできる。
好きな人がいるからといって、自分の気持ちを伝えない理由にはならないのだ。
そう、自分を納得させる。
「そうそう。アルバムを出すにあたって他にもいろいろやっていきたいのよ。写真集なんていいかと思うんだけど、どうかしら?」
わかってて言っているんじゃないかと思うぐらい、ピンポイントな話だった。
吹っ切れる前ならダメージを受けていたかもしれない。
今もなにも感じていないとは言わないけれど。
「いいと思います。アキくんならなにを振っても喜んでやってくれますよ」
「ならよかったわ。やっぱり撮ってもらうとしたら――」
「私は神宮寺さんを推薦します」
はっきり、途中で気持ちが引いてしまわないよう言い切る。
「話題性も充分ですし、アキくんもいつか撮ってもらいたいと言っていました。話なら通せると思います」
「神宮寺さんって、今をときめくあの人よね? 知り合いだったの?」
「以前、スタジオでお会いしたことがあるんです。そのときからご縁があって」
「そう。じゃあ話は早そうね。スケジュールを抑えるのも大変でしょうし、なるべく早く通しておいて」
「はい」
恋愛は玉砕しに行く。
どうせ仕事で顔をあわせてしまうなら、いっそ完璧な仕事を共に作り上げたい。
そうすればこの気持ちもいつか昇華されるだろうし、傷が癒えた頃には笑い話にできるだろう。
「頑張ります」
心からの気持ちを込めてそう伝える。
好きな人と偽物の恋人でいられるのは来週でおしまい。
今度こそ気持ちのいい別れを目指すつもりだった。
0
お気に入りに追加
1,347
あなたにおすすめの小説
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。


社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
冷徹上司の、甘い秘密。
青花美来
恋愛
うちの冷徹上司は、何故か私にだけ甘い。
「頼む。……この事は誰にも言わないでくれ」
「別に誰も気にしませんよ?」
「いや俺が気にする」
ひょんなことから、課長の秘密を知ってしまいました。
※同作品の全年齢対象のものを他サイト様にて公開、完結しております。

一夜の過ちで懐妊したら、溺愛が始まりました。
青花美来
恋愛
あの日、バーで出会ったのは勤務先の会社の副社長だった。
その肩書きに恐れをなして逃げた朝。
もう関わらない。そう決めたのに。
それから一ヶ月後。
「鮎原さん、ですよね?」
「……鮎原さん。お腹の赤ちゃん、産んでくれませんか」
「僕と、結婚してくれませんか」
あの一夜から、溺愛が始まりました。

愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。
星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。
グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。
それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。
しかし。ある日。
シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。
聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。
ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。
──……私は、ただの邪魔者だったの?
衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる