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当たって砕ける
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しおりを挟むその後、私はひたすら仕事に精を出した。
今は誰か特定の人の担当というより、いろんな人のサポートを任されている。
当然アキくん一人を見ていたときよりも情報が多くて、目が回りそうだった。
それでもこなせたのは他のことを考えていたくなかったからと、有沢さんによるスパルタ教育のおかげだろう。
ようやく息をついたのはお昼をかなり過ぎてからだった。
遅めの昼食を外で済ませ、午後の予定を頭の中で組み立てながら事務所に戻る。
その途中、建物の陰に向かう影を二つ見てしまった。
(あれ……アキくんと、もう一人は……)
以前、豊さんが撮影していたモデルの美亜に似ている。
どうにも様子がおかしいような気がして、そちらへ足を向けた。
「……マジ?」
「うん。もしアキくんの周りでもそういう話を聞いたら……」
(……なんの話?)
盗み聞きするのは気が引けた。
わざと足音を立てて近付き、二人の前に顔を出す。
「あ、いたいた。アキくん、安本さんがちょっとって」
「え? さっき休憩ーって解散したばっかなんだけど?」
「伝え忘れたことがあったみたい。来てくれる?」
なるべく上手に嘘をついて、アキくんが話していた相手を確認する。
やはり、美亜さんだった。
やや頬が赤くなっているのが気になる。
「そっかー……。美亜ちゃん、ごめん。また後で」
「ううん、この後も頑張ってね」
「すみません、美亜さん」
他の事務所に所属している彼女がなぜ――という疑問を隠し切れないまま頭を下げ、アキくんを連れて中へ入る。
廊下をしばらく歩いてから振り返ると、アキくんが肩をすくめていた。
「志保ちゃん、嘘つくの下手って言われたことない?」
「……嘘ってわかってくれてるなら説明の手間が省けて助かるよ」
「もしかして嫉妬しちゃった? 俺、美亜ちゃんとはなにもないから安心して」
「なにかあってもなくてもいいけど、ああやって人目につくところでは二人っきりっていうのは危ないよ。どこで誰が見ているかわからないんだから」
「……確かに、ちょっと場所を考えるべきだったかもね」
(……ん?)
アキくんなら適当に茶化すか、もしくは反論してくるかと思っていた。
あっさり納得されて拍子抜けする。
「本当に気を付けてね。この間は相手が私だったからどうにかなったけど、美亜さんは他の事務所の人なんだから」
「うん、わかった。……志保ちゃんも気を付けてよ」
「私?」
「今、めちゃくちゃ胸糞悪い話聞いちゃってさー」
(それは美亜さんから……?)
いつもへらへらしているアキくんが険しい顔をしている。
「……大丈夫? なにかあった?」
「んーん。俺はたぶんない。ありえない」
「……?」
「心配してくれてありがとね。志保ちゃんも困ったことあったら、いつでも俺に言ってちょーだい」
「冗談が言えるなら大丈夫そうだね」
「冗談じゃないって! 真剣! 恋愛相談とかいつでもほんとウェルカムだから!」
「アキくんってたまに表現が古い気がする。私より若いのに……」
「ひどっ!」
大げさに落ち込んだ様子を見せたことにほっとする。
なにかあったのには間違いないけれど、すぐ切り替えられるなら私が口を出すことではないだろう。
本当に厳しいことならアキくんの方から言ってくれるはず。そう信じて、もう触れないでおくことにした。
「恋愛相談されたーい」
「したくなーい」
「あはは、ノリいいね」
「つられちゃうの。アキくんならいいかなって」
「嬉しいよ。かっちり敬語使われてたときよりずっといい。また惚れそう」
「……笑えないよ?」
「例の人と順調ならおとなしく引いてあげるけどね」
また豊さんのことを話題に出されて、ぐ、と詰まってしまった。
しまったと思ったけれどもう遅い。
「あ、順調じゃないんだ」
どうしてこうも鋭いのか。
溜息を吐いて、一応周りを確認する。
朝もしたように牽制しようとすると、アキくんがにやりと笑った。
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