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当たって砕ける
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しおりを挟む翌週の月曜日。
まだ振り切れてはいない痛みを抱えて、すべて忘れた風を装う。
「志保ちゃーん、おはよ」
「おはよう、アキくん」
担当を離れてもアキくんは今まで通りに接してくれていた。
別にやましいことはないのだから、こちらとしてもありがたい。
告白されたことを考えると少し気になりはするけれど、アキくん本人から近付いてくるなら拒むのはおかしいだろう。
「今日ねぇ、収録なんだ」
「知ってる。一応スケジュール確認してるしね。なにかあったとき、すぐにサポートできた方がいいでしょ?」
「え、ほんと? やば、俺に一途じゃん」
「そんなこと言ってないで、自分でも少しはどうにかしたら? 安本さん、困ってたよ」
今のアキくんの担当である安本さんは、私より二つ下――つまりアキくんと同い年の頑張り屋さんだった。
マネージャーとしての腕に心配はない。ただ、相手がアキくんということもあって、有沢さんに何度か泣きついているという話が耳に入っている。
「あんまり迷惑かけちゃだめだよ」
「志保ちゃんが戻ってくるまでやらかすかも」
「そうしたら二度とアキくんの担当はやらないよ」
「えー、やだ」
「じゃあ、安本さんに迷惑かけないで」
「……はーい」
ぶーぶー文句を言うところはやはり子供っぽくて弟に見える。
週刊誌にリークされたときの一連の対応と、今の印象は重ならなかった。
(策士っぽくないのに。腹黒ってやつ……?)
一部の人にはその姿を知られただろうに、どこへ行っても元通りのキャラを演じ続けているのはさすがと言わざるをえない。
「そういえばさ、どうなの? 例の人と」
(……忘れようとしてたのに)
声を潜めて聞いてきたアキくんを軽く睨む。
「プライベートの話はしません」
「もういいと思うんだけどな」
「……どうなっていようと、アキくんとは付き合えないよ」
「先に牽制しないでもらえるかなー」
ぱっとアキくんが離れる。
なにかと思ったら、向こうから安本さんが来るところだった。
「相模さん、お疲れ様です」
「お疲れ様です。……今、アキくんに厳しく言い聞かせてたところだから、なにかあったらいつでも相談に来てね」
「はい! ありがとうございます……!」
首が取れるのではと心配になるくらい勢いよく頭を下げられる。
それを見て、アキくんがけらけら笑った。
「やすもっちゃん、志保ちゃんが引いてる」
「ええっ」
「引いてない引いてない。アキくんの言うことは適当に聞き流さないと」
「は、はい」
(からかいたくなるタイプっていうのはとてもよくわかる)
小柄な安本さんを見ながらこっそり考える。
応援したいと思いながら、やっぱりアキくんの担当は自分がやりたいとも思った。
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