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まさか初デートなんて
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しおりを挟む購入した荷物を預けた後は少し散策することになった。
「なんと言うか、ものすごく健全なデートをしている気がします」
「まるで今までが不健全だったみたいだな」
「不健全だと思いますよ?」
「……そうか?」
「今まで誰かとお付き合いしたことはないんですか? 週末に会って過ごすだけ……って、ちょっとよろしくないと思います」
「……わかった、覚えておこう」
前半の問いは華麗にスルーされる。
たぶん経験は多いだろう。でも、実際にそうだと本人の口から聞くのはだいぶ抵抗がある。
(この人にも好きだと思った人がいたのかな)
少なくとも今はいないと思いたい。
私にこんな関係を提案するぐらいだし、いい雰囲気になっている相手というのもいないだろう。
「君こそ今までに付き合いはないのか?」
「……え」
そこには触れないで終わるかと思いきや、逆に質問されてしまう。
「私は……。……笑わないでくださいね。学生のときが最後です」
「あー……そういえば『初めて』だったな」
「…………なんの話をしているんですか、外で」
「うん?」
デリカシーがなさすぎると睨みつけておく。
おそらく本人は自分の失言に気付いていない。
「どういう奴と付き合ったんだ」
「そんなの、聞いてどうするんですか?」
「単純に興味がある。君の好みだとかそういうものに」
「別に……好みなんてありませんでしたよ」
歩きながらぽつぽつと語ったのは、学生時代の恋愛とも呼べない恋愛のこと。
「周りがみんな恋人の話をしているから、私もしなくちゃいけないのかなって焦っていたんです。じゃないと乗り遅れると思って。だから、たまたまちょうどいいタイミングで告白してきた人にオーケーして……」
「割と、最低だな」
「向こうも同じように焦ってたからいいんです。夏祭りに一緒に行く相手が欲しかったんだったかな」
「君と付き合うなら、夏祭りを口実にすればいいわけか」
「誰とでも付き合うような言い方はやめてくれます? 私だってちゃんと選びますよ、今は」
「へえ」
自分で突っ込んできたくせに、大して興味なさそうな返答をされる。
久し振りに鼻で笑ったところを見た。
「そのときは自然消滅で、大学を卒業してからはさっぱり。お誘いはなくもなかったんですが、仕事を優先したくてお断りし続けていたんです」
「合コンには行くのにな」
「まだ根に持ってるんですか?」
「これからも断り続けるのか、それともどこかで手を打つのか気になっているだけだ。まさかあの記事通りあいつと付き合うわけじゃないだろう?」
「アキくんですか? ありえませんよ」
「……そうか」
この人の「そうか」はどういう意味のものなのかわからない。
メールでわからなかったのは仕方がないとして、目の前にいてもどんな感情を乗せての言葉か伝わってこないのは問題だろう。
なにかしら、含みを持たせているように見えるからなおさら。
「あ……そういえば」
「なんだ?」
「学生時代のことで思い出しました。高校のとき、いい人がいて。あの人と付き合っておけば、今ももう少し変われたのかもしれません」
「へえ」
「私が緑化委員で、彼が写真部だったんです。花壇の写真をよく撮りに来る人だったんですよね」
「そいつのなにがよかったんだ」
「……写真を撮るところ……?」
今の今まで忘れていた淡い青春の記憶がよみがえる。
私は緑化委員として花壇の整備をしたり、花に水をやったりしていた。
そこにときどき来ていた写真部の彼は、花を撮るのが好きだったらしい。いつか賞を取れたらいいと話した気がする。
(私、あのときからカメラマンが好きだったのかも)
あれを恋と呼ぶには確信がない。ただ、ひたむきな横顔に思うところがなかったとは言い切れなかった。
その頃のことも忘れ、私はまたファインダーを覗く横顔に惹かれてしまった。
「君の好みの幅は広いんだな。普通、顔やら性格を好みとして挙げるところじゃないのか?」
「昔のことであんまり覚えていないんです。でも、カメラを構えたところは素敵だったなと思って」
「誰でもいいんじゃないか」
「そんなことないです」
――今はあなたしか。
言えない言葉を飲み込んだ。
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