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まさか初デートなんて
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しおりを挟む最初に向かったのは私がよく身に着けている服のブランドショップ。
そろそろ新しいものをと思っていただけに、このデートはちょうどよかった。
休みの日を利用したようだけれど、こういうのも一応デートコースとしては定番だろう。
「こっちの服とこっちの服、どっちが似合うと思いますか?」
「どっちもかわいい。二つとも似合うと思うぞ」
「……わからないから適当に言ってるんじゃないですよね」
「まさか俺のセンスを疑うのか? 今までどれだけのモデルを見て、衣装も含めた小道具に文句を付けてきたと思ってる?」
「そんなに文句ばっかり言ってきたんですか」
「まともに褒めたのは今くらいだな」
「……ふーん」
ものすごく子供っぽい返しをしてしまった。
うっかりにやけた顔を隠したくて、ハンガーを持ったまま背を向ける。
(こんなに人をいい気にさせるのが上手いなら、文句を付けるより褒めた方がスムーズに仕事を進められるんじゃないの?)
一着しか買う予定はなかったのに、褒められて調子に乗った結果どちらも購入を決める。
別れた後、この服を見て胸を痛めるかもしれない。
でも、楽しいひと時を共有できた思い出をひとつでも多く残しておきたかった。
「他には? アウターならアレがいい」
「今、買った服には合わないと思いますが……?」
「普段着ている白い服には合う。薄いレース模様の入ったやつがあるだろ」
「よく見てますね?」
「君を見るときは大抵アレだったからな。気に入っているのか?」
「はい。去年、アキくんの担当になったお祝いで買ったんです。結構いいお値段だったんですけど、背伸びしたくて」
「去年のものをまだ着ているのか」
「物持ちがいいって言ってもらえると嬉しいですね」
「別に文句を言ったわけじゃない」
「そう聞こえなかったから牽制しておいたんです」
「意外と遠慮がないよな、君は」
「豊さんにだけは言われたくないです」
笑ったタイミングがかぶる。
打てば響くように返ってくる会話のやり取りも心地がいい。
「天才フォトグラファーにファッションチェックされるなんて滅多にないですし、アレも買ってきますね」
「嫌味にしか聞こえないんだが」
苦笑され、持っていたカゴを取り上げられる。
中にはこれまでに選んだ服と、さっき購入を決めた服が入っていた。
「他にないなら外で待っていてくれ」
「えっ、でも」
「デートなのに財布を出すつもりでいたのか? 俺がいるのに?」
「もちろんです。そこまでしてもらう義理はありませんから」
「説得する時間がめんどくさい。いいから出てろ」
しっし、と追い払うように手で示される。
立ち尽くした私を横目に、豊さんはあのアウターをカゴに入れてレジへ向かってしまった。
(別にいいのにな)
本心からそう思う反面、そんな風に扱ってくれて嬉しいと思う気持ちもある。
二ヶ月前の私には恋人のこの字もなかっただけに、ちょっとしたことがずいぶんと沁みた。
(誤解しないようにって、普通に無理)
申し訳なさと感謝を胸に外へ出る。
わざわざプレゼント用に包んでもらっているのを見てしまい、また顔が緩んだ。
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