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まさか初デートなんて
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しおりを挟む約束の日までは飛ぶように過ぎた。
アキくんの件を流した例の週刊誌が別の俳優のスキャンダルを流して話題になったり、来週有沢さんとバーに行く約束をしたり、なにもなかったというわけではなかったけれど。
そうして今日、私は当日を迎えている。
(少し早めに出たけど……)
待ち合わせ場所はいつもと違う駅。
大きな駅ということもあって、出会うのに時間がある可能性を考えた。
だから早く出たのだけれど、少し早すぎたらしい。
約束の時間まではあと十五分もある――のに。
「……早いですね?」
「早めに出た方がいいと思ってな」
もう、待っていた。
(むしろ遅れてくるぐらいだと思ってた、なんて言ったら怒られそう)
「なにを笑っているんだ?」
「いえ、なんでもないです」
プライベートで昼間から会うのは新鮮だった。
あまり普段と変わらないように見えるけれど、いつも持っているカメラがないことに違和感を覚える。
「なんだかんだ言ってカメラは持ってくるんだと思っていました。つい撮りたくなったりするのかなって」
「重いだろ」
「確かにそうですね」
「手が空かないしな」
「え?」
不思議に思った瞬間、片方の手を握られる。
「手……」
「こういうものじゃないのか」
ただ繋ぐだけではなく恋人繋ぎへ変えられた。
わざわざ軽く持ち上げて恋人アピールを見せつけてくる。
「嫌ならやめておくが」
「あ、いえ。びっくりして……」
(今日は驚くことが多いな)
手を繋ぐところまでしてくれるとは思っていなかった。
想像していたよりはもっと恋人としての一日を期待していいのかもしれない。
「ああ、それとルールを決めないか」
「ルール? どんな?」
「今日は苗字で呼ぶな」
「……豊さん?」
「…………ああ」
やや返答に時間があった。
お互い、こういう場でのそれには慣れていない。
呼び合うのはいつも、気持ちが盛り上がったときのベッドの上だった。
「変な感じですね」
「どこが」
「……全部、でしょうか」
「失礼だな」
肩をすくめた豊さんが子供のように笑った。
胸の奥でまた小さな音がして、握られていた手に力が入る。
「志保」
「は、い」
「……なんだ、その反応は?」
「いきなり呼ばれるとびっくりします」
「君はなんにでも驚くな」
(驚かせてくる人がいるからじゃないでしょうか)
つい、同じ反応ばかり返してしまう。
それ以外にどんな反応をしているかと言えば、私の中ではひたすら好きの気持ちを重ねているだけなのだから、明かしようがない。
「で、今日の予定はメールで言ってたアレだけでいいのか?」
「あ……はい。そうですね。新しい服を見たくて」
「それだけだと時間が余りそうだ。他には?」
「……何時までお付き合いしてくれる予定なんですか?」
「君の気が済むまで」
顔を見ていなければ突き放されたのかと思ったかもしれない。
恋人らしくないと言った私を黙らせるためのデートだから、そう言わなくなるまで付き合う――と。
でも、ちゃんと豊さんの顔を見てしまっていたから、思わない。
この人は心から、私が満足するまで付き合おうと言ってくれている。
(意外となんでも顔に出る人なんだな……)
笑ったところを見たことがないとか、いつも気難しい顔をしているとか、そんな風に言われているけれど、この二ヶ月で表情を変える瞬間をよく見ている気がする。
近寄りがたい人だからわからなかった。
仕事中の姿をそっと見つめるだけの日々では、きっと気付けなかったに違いない。
「とりあえず、お昼ぐらいまでは一緒にいたいです」
「いいな、その言い方は。義務を感じさせなくて」
「義務だと思っているのは豊さんの方じゃないんですか?」
「まさか。この一週間、今日を楽しみにやってきたのに」
(それが本当だったら嬉しい)
改めてきゅっと手を握られる。
なんとなく見つめ合ってから、ほぼ同時に目を逸らした。
二人一緒に歩き出し、人混みに紛れる。
今は雑踏よりも自分の鼓動の方がうるさかった。
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