【R18】きみを抱く理由

さくら蒼

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わからないからもどかしい

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「やんっ……あっ……あ、う……あ、あぁっ……あっ……!」

 指で届くぎりぎり深い奥を擦られ、同時に唇で強く吸い上げられた瞬間、視界が真っ白になる。
 一瞬意識が飛んでしまった。
 ぎゅうぎゅうと指を締め付けた後、一気に全身が弛緩する。

「っは……あ……ぅ……」

 口を閉じる力も今はない。
 ぐったりしたまま豊さんに視線を向けると、自身の濡れた指に口付けているのが見えた。

「そ、んなの……舐めないでください……」
「だったらこんなに濡らすんじゃない」

 そうしたのは他でもない豊さんなのに、どうして私が叱られたのかわからなかった。
 けれど、どうでもいいこんなやり取りがたまらなく愛おしい。

「私……本当にもう無理です……疲れました……」
「明日が休みでよかったな。じゃなかったら、一日中使い物にならなかっただろう」
「……豊さんはどうなんですか」
「どうだろうな。君が現場にいなければ大丈夫じゃないか?」
「私が現場にいることと関係あります?」
「ある。啼いてすがってきたのを思い出して、またしたくなるからな」

 囁きひとつで身体が痺れる。
 心なんてとっくに麻痺していた。

「あの……写真は撮らなくてよかったんですか……?」
「うん?」
「前……いつも撮ってたから……。今日はいいのかと思って……」
「……撮られたかったのか?」
「ち、違います。もうコンクールまであと少しですよね? なのに、それらしいところを撮られた覚えがないから」
「少なくとも今の君は撮れないな。きわどすぎる」

 つ、と首筋から胸元をなぞられる。
 この人の目に映った私は、写真に残せないほどきわどい顔をしているのか。

「俺も他人に見せたくない」

 余計な一言を言わないでほしいと訴える前に、汗ばんだ額へ口付けられた。

「……他に俺に見せていない君の姿はあるのか? だとしたら、教えてくれ。全部見たい」
「そんなことを言われても……」

 くすぐったさを覚えながら甘えさせてもらう。

「そもそも仕事中か、仕事の後のご飯か、こういうときしか接点がないです」
「…………確かにそうだな」
「だから見せていない私の方が多いかと……?」
「今言ったものから考えると、プライベートの姿はまったく知らないな」
「私もあなたのプライべートを知らないと思います。雑誌では何度か読みましたけど」
「インタビューの話か? あんなもの、信じるな」

 狭いソファに豊さんが横たわる。
 私を腕の中に閉じ込めて。

「あんまり考えていなかったんだが」
「はい」
「……これは恋人というより、セフレなんじゃないのか」

(え、今?)

 本気で驚いて、穴が開くほど見つめてしまう。

「私……そういう割り切り方をされているんだと思っていました」
「いや?」

(……嘘でしょ)

 恋人という名目で自分の欲を解消する。
 だからこの人は毎週私を求めていたのだと思っていたけれど、この様子ではたぶんなにも考えていなかったに違いない。

(本気で恋人扱いしているつもりが、これ?)

 絶句、としか言いようがない。

「もしかして、私が思ってるより天然だったりします?」
「は?」
「そう考えないと、あまりにも意味がわからなくて」
「ずいぶんな言いようだな。俺をなんだと思っているんだ」

 自覚がないらしいのを見て笑ってしまう。
 求められるのをあんなに悲しく思っていたのに、今は気持ちが軽い。
 いろいろと吹っ切れたのもあるだろうけれど、目を背けながら抱かれるよりはこっちの方がずっとよかった。

「……わかった。そこまで言うならこうしよう。来週はデートだ。他の予定は入れるなよ」
「別の予定があるかもしれないって思わないんですね」
「キャンセルしろ」
「……横暴です」

 デートと聞いただけで心が弾む。
 そんな、普通の恋人らしいことをするなんて予想していなかった。

(どうせ今月で終わるんだから、楽しんだ方がいい)

 合コンをきっかけに変わった想いを隠し、豊さんの胸にすり寄る。

「どこへ行くつもりなんですか?」
「君の行きたいところでいい。特にないなら俺の方で考える」
「じゃあ……うーん……。……あ、これって撮影のためですよね」
「なんでそうなる」
「そこでコンクールの写真も撮るのかなって」
「天然は君の方だろう。今、恋人らしいことをする、で話がまとまったんじゃないのか?」
「いえ、でも」
「俺は純粋にデートがしたい。撮影のことは考えるな」

 どくんと大きく心臓が動いた後、一気に速くなっていく。

(純粋にデートしたい、だって)

 好きな人にそう言われて喜ばない人間はいないだろう。
 たとえ報われなくても、今だけの関係でも、嬉しいものは嬉しい。
 そのことにやっと気付けた。

「来週までに考えておいてくれ。基本的には君の希望通りにする」
「……ありがとうございます」

 嬉しいです、というのは心の中で付け加える。

「遠慮はしなくていいからな」
「……はい」

(……ああ。……好きだなぁ)

 なにもかもがこの人への想いを募らせる材料になる。
 悲しいことは考えない。
 いくらでも好きになって、綺麗に別れの日を迎えよう――。
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