40 / 81
わからないからもどかしい
8
しおりを挟む
「やんっ……あっ……あ、う……あ、あぁっ……あっ……!」
指で届くぎりぎり深い奥を擦られ、同時に唇で強く吸い上げられた瞬間、視界が真っ白になる。
一瞬意識が飛んでしまった。
ぎゅうぎゅうと指を締め付けた後、一気に全身が弛緩する。
「っは……あ……ぅ……」
口を閉じる力も今はない。
ぐったりしたまま豊さんに視線を向けると、自身の濡れた指に口付けているのが見えた。
「そ、んなの……舐めないでください……」
「だったらこんなに濡らすんじゃない」
そうしたのは他でもない豊さんなのに、どうして私が叱られたのかわからなかった。
けれど、どうでもいいこんなやり取りがたまらなく愛おしい。
「私……本当にもう無理です……疲れました……」
「明日が休みでよかったな。じゃなかったら、一日中使い物にならなかっただろう」
「……豊さんはどうなんですか」
「どうだろうな。君が現場にいなければ大丈夫じゃないか?」
「私が現場にいることと関係あります?」
「ある。啼いてすがってきたのを思い出して、またしたくなるからな」
囁きひとつで身体が痺れる。
心なんてとっくに麻痺していた。
「あの……写真は撮らなくてよかったんですか……?」
「うん?」
「前……いつも撮ってたから……。今日はいいのかと思って……」
「……撮られたかったのか?」
「ち、違います。もうコンクールまであと少しですよね? なのに、それらしいところを撮られた覚えがないから」
「少なくとも今の君は撮れないな。きわどすぎる」
つ、と首筋から胸元をなぞられる。
この人の目に映った私は、写真に残せないほどきわどい顔をしているのか。
「俺も他人に見せたくない」
余計な一言を言わないでほしいと訴える前に、汗ばんだ額へ口付けられた。
「……他に俺に見せていない君の姿はあるのか? だとしたら、教えてくれ。全部見たい」
「そんなことを言われても……」
くすぐったさを覚えながら甘えさせてもらう。
「そもそも仕事中か、仕事の後のご飯か、こういうときしか接点がないです」
「…………確かにそうだな」
「だから見せていない私の方が多いかと……?」
「今言ったものから考えると、プライベートの姿はまったく知らないな」
「私もあなたのプライべートを知らないと思います。雑誌では何度か読みましたけど」
「インタビューの話か? あんなもの、信じるな」
狭いソファに豊さんが横たわる。
私を腕の中に閉じ込めて。
「あんまり考えていなかったんだが」
「はい」
「……これは恋人というより、セフレなんじゃないのか」
(え、今?)
本気で驚いて、穴が開くほど見つめてしまう。
「私……そういう割り切り方をされているんだと思っていました」
「いや?」
(……嘘でしょ)
恋人という名目で自分の欲を解消する。
だからこの人は毎週私を求めていたのだと思っていたけれど、この様子ではたぶんなにも考えていなかったに違いない。
(本気で恋人扱いしているつもりが、これ?)
絶句、としか言いようがない。
「もしかして、私が思ってるより天然だったりします?」
「は?」
「そう考えないと、あまりにも意味がわからなくて」
「ずいぶんな言いようだな。俺をなんだと思っているんだ」
自覚がないらしいのを見て笑ってしまう。
求められるのをあんなに悲しく思っていたのに、今は気持ちが軽い。
いろいろと吹っ切れたのもあるだろうけれど、目を背けながら抱かれるよりはこっちの方がずっとよかった。
「……わかった。そこまで言うならこうしよう。来週はデートだ。他の予定は入れるなよ」
「別の予定があるかもしれないって思わないんですね」
「キャンセルしろ」
「……横暴です」
デートと聞いただけで心が弾む。
そんな、普通の恋人らしいことをするなんて予想していなかった。
(どうせ今月で終わるんだから、楽しんだ方がいい)
合コンをきっかけに変わった想いを隠し、豊さんの胸にすり寄る。
「どこへ行くつもりなんですか?」
「君の行きたいところでいい。特にないなら俺の方で考える」
「じゃあ……うーん……。……あ、これって撮影のためですよね」
「なんでそうなる」
「そこでコンクールの写真も撮るのかなって」
「天然は君の方だろう。今、恋人らしいことをする、で話がまとまったんじゃないのか?」
「いえ、でも」
「俺は純粋にデートがしたい。撮影のことは考えるな」
どくんと大きく心臓が動いた後、一気に速くなっていく。
(純粋にデートしたい、だって)
好きな人にそう言われて喜ばない人間はいないだろう。
たとえ報われなくても、今だけの関係でも、嬉しいものは嬉しい。
そのことにやっと気付けた。
「来週までに考えておいてくれ。基本的には君の希望通りにする」
「……ありがとうございます」
嬉しいです、というのは心の中で付け加える。
「遠慮はしなくていいからな」
「……はい」
(……ああ。……好きだなぁ)
なにもかもがこの人への想いを募らせる材料になる。
悲しいことは考えない。
いくらでも好きになって、綺麗に別れの日を迎えよう――。
指で届くぎりぎり深い奥を擦られ、同時に唇で強く吸い上げられた瞬間、視界が真っ白になる。
一瞬意識が飛んでしまった。
ぎゅうぎゅうと指を締め付けた後、一気に全身が弛緩する。
「っは……あ……ぅ……」
口を閉じる力も今はない。
ぐったりしたまま豊さんに視線を向けると、自身の濡れた指に口付けているのが見えた。
「そ、んなの……舐めないでください……」
「だったらこんなに濡らすんじゃない」
そうしたのは他でもない豊さんなのに、どうして私が叱られたのかわからなかった。
けれど、どうでもいいこんなやり取りがたまらなく愛おしい。
「私……本当にもう無理です……疲れました……」
「明日が休みでよかったな。じゃなかったら、一日中使い物にならなかっただろう」
「……豊さんはどうなんですか」
「どうだろうな。君が現場にいなければ大丈夫じゃないか?」
「私が現場にいることと関係あります?」
「ある。啼いてすがってきたのを思い出して、またしたくなるからな」
囁きひとつで身体が痺れる。
心なんてとっくに麻痺していた。
「あの……写真は撮らなくてよかったんですか……?」
「うん?」
「前……いつも撮ってたから……。今日はいいのかと思って……」
「……撮られたかったのか?」
「ち、違います。もうコンクールまであと少しですよね? なのに、それらしいところを撮られた覚えがないから」
「少なくとも今の君は撮れないな。きわどすぎる」
つ、と首筋から胸元をなぞられる。
この人の目に映った私は、写真に残せないほどきわどい顔をしているのか。
「俺も他人に見せたくない」
余計な一言を言わないでほしいと訴える前に、汗ばんだ額へ口付けられた。
「……他に俺に見せていない君の姿はあるのか? だとしたら、教えてくれ。全部見たい」
「そんなことを言われても……」
くすぐったさを覚えながら甘えさせてもらう。
「そもそも仕事中か、仕事の後のご飯か、こういうときしか接点がないです」
「…………確かにそうだな」
「だから見せていない私の方が多いかと……?」
「今言ったものから考えると、プライベートの姿はまったく知らないな」
「私もあなたのプライべートを知らないと思います。雑誌では何度か読みましたけど」
「インタビューの話か? あんなもの、信じるな」
狭いソファに豊さんが横たわる。
私を腕の中に閉じ込めて。
「あんまり考えていなかったんだが」
「はい」
「……これは恋人というより、セフレなんじゃないのか」
(え、今?)
本気で驚いて、穴が開くほど見つめてしまう。
「私……そういう割り切り方をされているんだと思っていました」
「いや?」
(……嘘でしょ)
恋人という名目で自分の欲を解消する。
だからこの人は毎週私を求めていたのだと思っていたけれど、この様子ではたぶんなにも考えていなかったに違いない。
(本気で恋人扱いしているつもりが、これ?)
絶句、としか言いようがない。
「もしかして、私が思ってるより天然だったりします?」
「は?」
「そう考えないと、あまりにも意味がわからなくて」
「ずいぶんな言いようだな。俺をなんだと思っているんだ」
自覚がないらしいのを見て笑ってしまう。
求められるのをあんなに悲しく思っていたのに、今は気持ちが軽い。
いろいろと吹っ切れたのもあるだろうけれど、目を背けながら抱かれるよりはこっちの方がずっとよかった。
「……わかった。そこまで言うならこうしよう。来週はデートだ。他の予定は入れるなよ」
「別の予定があるかもしれないって思わないんですね」
「キャンセルしろ」
「……横暴です」
デートと聞いただけで心が弾む。
そんな、普通の恋人らしいことをするなんて予想していなかった。
(どうせ今月で終わるんだから、楽しんだ方がいい)
合コンをきっかけに変わった想いを隠し、豊さんの胸にすり寄る。
「どこへ行くつもりなんですか?」
「君の行きたいところでいい。特にないなら俺の方で考える」
「じゃあ……うーん……。……あ、これって撮影のためですよね」
「なんでそうなる」
「そこでコンクールの写真も撮るのかなって」
「天然は君の方だろう。今、恋人らしいことをする、で話がまとまったんじゃないのか?」
「いえ、でも」
「俺は純粋にデートがしたい。撮影のことは考えるな」
どくんと大きく心臓が動いた後、一気に速くなっていく。
(純粋にデートしたい、だって)
好きな人にそう言われて喜ばない人間はいないだろう。
たとえ報われなくても、今だけの関係でも、嬉しいものは嬉しい。
そのことにやっと気付けた。
「来週までに考えておいてくれ。基本的には君の希望通りにする」
「……ありがとうございます」
嬉しいです、というのは心の中で付け加える。
「遠慮はしなくていいからな」
「……はい」
(……ああ。……好きだなぁ)
なにもかもがこの人への想いを募らせる材料になる。
悲しいことは考えない。
いくらでも好きになって、綺麗に別れの日を迎えよう――。
0
お気に入りに追加
1,347
あなたにおすすめの小説
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
粗暴で優しい幼馴染彼氏はおっとり系彼女を好きすぎる
春音優月
恋愛
おっとりふわふわ大学生の一色のどかは、中学生の時から付き合っている幼馴染彼氏の黒瀬逸希と同棲中。態度や口は荒っぽい逸希だけど、のどかへの愛は大きすぎるほど。
幸せいっぱいなはずなのに、逸希から一度も「好き」と言われてないことに気がついてしまって……?
幼馴染大学生の糖度高めなショートストーリー。
2024.03.06
イラスト:雪緒さま
ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~
ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。
2021/3/10
しおりを挟んでくださっている皆様へ。
こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。
しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗)
楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。
申しわけありません。
新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。
修正していないのと、若かりし頃の作品のため、
甘めに見てくださいm(__)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる