【R18】きみを抱く理由

さくら蒼

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わからないからもどかしい

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「仮にも恋人がいるのに、合コンの参加連絡なんてするか?」
「それは……だって、恋人だけど恋人じゃないです」
「俺は」

 一瞬、神宮寺さんが言葉を切る。
 そして押し殺した声で囁いた。

「……俺は、君を恋人として縛り付けたつもりだったんだ」

 ぴい、と間の抜けた音がした。
 お湯が沸いたらしい。

「だからまさか他の男を探すとは思わなくて。……混乱した」
「……知らない、です。そんなの……」

 私の考えがわからないと言ったけれど、まったく同じ言葉を返したい。
 この人の考えていることの方がよっぽどわからないのだから。

「…………帰ってきてくれてよかった」

 心の底から安心したような声が私の胸を刺し貫く。
 あのメールを送ってからずっと混乱して、悩んでいたのだろうか。
 私が合コンに行って、そのまま見知らぬ誰かと夜を過ごすとでも思ったのだろうか。
 朝帰りになれば今夜は帰ってこない。
 その可能性を考えながらも、そうはならないと信じたくて家の前で待っていたのだろうか――。

(本当にわからない)

 震える胸の内を隠し、振り返る。
 そのまま神宮寺さんの腕に身体を預けると、抱き締め直された。

(嫉妬させてみたかった。でも、これは……)

 ――まるで本当に恋をされているようで。
 なにもかもがわからず、眩暈がする。
 胸いっぱいに吸い込んだ好きな人の香りも、私を狂わせていた。

「私、あなたのことが全然わからないです」
「俺も君のことがまったくわからない」

 見つめ合って、数秒。

(――私を好きだと思ってくれているんですか)

 心の中で問うても、答えなどあるはずがない。
 だからといって口には出せない問いかけだった。
 否定されたら、残り三週間すらなくなってしまう。

(私は、好き)

 好きになるつもりはなかったのに、転がり落ちてしまった。
 自分の敗北を苦く感じながら背伸びをする。
 肩に手を添え、唇を重ねた。

「今週は会えないんだと思っていました」
「……会えてよかったな」
「…………はい」

 嫌いだと吐いた唇から、本心がこぼれていく。

「よかったです」

 もう一度噛み締めると、くっと神宮寺さんの顔がゆがんだ。
 やっとこの人の表情を引き出せたのが嬉しくて、次いで落ちてきたキスを受け入れる。
 求め合って、ソファになだれ込んだ。
 最初に身体を重ねたあの日のように――。

「志保」
「……豊、さん」

 今はそう呼びたくて自分に名前を許す。
 嬉しいならもうそれでいい。
 情事のときに気持ちを隠せなくなるのは、たぶん、私の弱点だ。

「……あなたの好きにしてください」

 震える声でねだると、言い切る前にキスをされた。
 すぐに深まったキスは私の願いへの答えのようで。
 ――あとはもう、言葉なんていらなかった。
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