36 / 81
わからないからもどかしい
4
しおりを挟む
「……急すぎませんか?」
吹き出しそうになって、慌てて口をおしぼりで隠す。
「これまでの流れでどうしてそうなったのか、全然理解できないです」
「なんかうまくやれそうな気がして」
そんなまさか、と言おうとしたけれど、舌が喉に張り付いていた。
伊東さんがなにを感じてそう思ったかはわからない。酔っ払いのたわごとかもしれなかったけれど、胸に来る言葉ではあった。
神宮寺さんに焦がれている、という点を考えれば、確かに気は合うだろう。
「自分のしたことをもう一度よく考えてからお誘いしてくださいね」
「あ、やっぱまだ週刊誌のこと怒ってる?」
「まだもなにも、許さないと言ったはずですよ」
「そうだっけ? 全然覚えてない」
「改めてもう一回言ったら覚えてくれますかね」
「そんな全力で拒否しなくてもいいのにー」
笑って、伊東さんはテーブルに肘をつく。
そして私を見た。
「本気じゃないよ。こんなとこで本気の告白なんかできないし」
「わかってます。私だって本気だと思ってませんよ」
「相模さんってなんか、押せばいける感あるんだよなー……」
ぐ、と言葉に詰まった。
パパラッチなんてやめて探偵にでもなった方がいいのでは、と思うほど、人の本質を見抜く能力に優れている。
「言われない? 押しに弱いとか、いつも流されてるねー、みたいな」
「……言われません」
(自分では悲しくなるぐらい理解してますけど)
押しに強かったら、最初の夜から神宮寺さんに身をゆだねていない。
そもそも三ヶ月間の恋人自体引き受けていない。たとえどんな理由があるにせよ。
思えば、高橋に声をかけられたときも「仕方がない」と受け入れかけていた気がする。
「ここでキスでもしたら、ころっと持ち帰れそう」
「試してみますか?」
「……拳を握り締めながら言うの、怖すぎるからやめてくれない?」
もちろん、伊東さんはそんな愚かなチャレンジをしなかった。
さすがの私もさせるつもりはない。
「あーあ、今日はいい感じの子を探しに来たのにな。思ったより仕事っぽい飲み会になっちゃったよ」
「純粋に合コンを楽しみに来ていたんですか?」
「そもそも相模さんが来るって知らないし。自己紹介のときに顔見て、この人アレじゃんって思ったぐらい」
「……ああ、確かに。そうですよね。急な参加でしたし」
「くそー、せめて今夜だけでも楽しめる相手がいたらよかったのにー」
「お遊びなんて最低です」
「本気のお遊びならどう? 相模さん、乗ってくれる?」
「絶対嫌です」
お遊びなら――私だけ本気になってしまったお遊びなら、もう乗ってしまっている。
「二軒目付き合ってくれたりは?」
「今日は早く帰るつもりなので」
「……もしかして俺のこと嫌い?」
「したことは許しませんけど、正直、そこまで嫌いじゃないです。憎めないタイプって言われませんか?」
「初めて言われた。惚れそう」
「やめてください。怒りますよ」
冗談を笑って返したとき、ゲームをしていた六人がわっと声を上げた。
お楽しみが一段落したらしい。
「俺たちも混ざろっか」
「そうですね」
週刊誌に写真を売り込むようなひどい人だけど、この業界でもがく仲間に違いはない。
神宮寺さんという存在に共通点を持っているのもあって、やっぱりどうしても憎めなかった。
吹き出しそうになって、慌てて口をおしぼりで隠す。
「これまでの流れでどうしてそうなったのか、全然理解できないです」
「なんかうまくやれそうな気がして」
そんなまさか、と言おうとしたけれど、舌が喉に張り付いていた。
伊東さんがなにを感じてそう思ったかはわからない。酔っ払いのたわごとかもしれなかったけれど、胸に来る言葉ではあった。
神宮寺さんに焦がれている、という点を考えれば、確かに気は合うだろう。
「自分のしたことをもう一度よく考えてからお誘いしてくださいね」
「あ、やっぱまだ週刊誌のこと怒ってる?」
「まだもなにも、許さないと言ったはずですよ」
「そうだっけ? 全然覚えてない」
「改めてもう一回言ったら覚えてくれますかね」
「そんな全力で拒否しなくてもいいのにー」
笑って、伊東さんはテーブルに肘をつく。
そして私を見た。
「本気じゃないよ。こんなとこで本気の告白なんかできないし」
「わかってます。私だって本気だと思ってませんよ」
「相模さんってなんか、押せばいける感あるんだよなー……」
ぐ、と言葉に詰まった。
パパラッチなんてやめて探偵にでもなった方がいいのでは、と思うほど、人の本質を見抜く能力に優れている。
「言われない? 押しに弱いとか、いつも流されてるねー、みたいな」
「……言われません」
(自分では悲しくなるぐらい理解してますけど)
押しに強かったら、最初の夜から神宮寺さんに身をゆだねていない。
そもそも三ヶ月間の恋人自体引き受けていない。たとえどんな理由があるにせよ。
思えば、高橋に声をかけられたときも「仕方がない」と受け入れかけていた気がする。
「ここでキスでもしたら、ころっと持ち帰れそう」
「試してみますか?」
「……拳を握り締めながら言うの、怖すぎるからやめてくれない?」
もちろん、伊東さんはそんな愚かなチャレンジをしなかった。
さすがの私もさせるつもりはない。
「あーあ、今日はいい感じの子を探しに来たのにな。思ったより仕事っぽい飲み会になっちゃったよ」
「純粋に合コンを楽しみに来ていたんですか?」
「そもそも相模さんが来るって知らないし。自己紹介のときに顔見て、この人アレじゃんって思ったぐらい」
「……ああ、確かに。そうですよね。急な参加でしたし」
「くそー、せめて今夜だけでも楽しめる相手がいたらよかったのにー」
「お遊びなんて最低です」
「本気のお遊びならどう? 相模さん、乗ってくれる?」
「絶対嫌です」
お遊びなら――私だけ本気になってしまったお遊びなら、もう乗ってしまっている。
「二軒目付き合ってくれたりは?」
「今日は早く帰るつもりなので」
「……もしかして俺のこと嫌い?」
「したことは許しませんけど、正直、そこまで嫌いじゃないです。憎めないタイプって言われませんか?」
「初めて言われた。惚れそう」
「やめてください。怒りますよ」
冗談を笑って返したとき、ゲームをしていた六人がわっと声を上げた。
お楽しみが一段落したらしい。
「俺たちも混ざろっか」
「そうですね」
週刊誌に写真を売り込むようなひどい人だけど、この業界でもがく仲間に違いはない。
神宮寺さんという存在に共通点を持っているのもあって、やっぱりどうしても憎めなかった。
0
お気に入りに追加
1,347
あなたにおすすめの小説

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜
雪井しい
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。
【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】
☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆
※ベリーズカフェでも掲載中
※推敲、校正前のものです。ご注意下さい
ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~
菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。
だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。
車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。
あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。

決して飼いならされたりしませんが~年下御曹司の恋人(仮)になります~
北館由麻
恋愛
アラサーOLの笑佳は敬愛する上司のもとで着々とキャリアを積んでいた。
ある日、本社からやって来たイケメン年下御曹司、響也が支社長代理となり、彼の仕事をサポートすることになったが、ひょんなことから笑佳は彼に弱みを握られ、頼みをきくと約束してしまう。
それは彼の恋人(仮)になること――!?
クズ男との恋愛に懲りた過去から、もう恋をしないと決めていた笑佳に年下御曹司の恋人(仮)は務まるのか……。
そして契約彼女を夜な夜な甘やかす年下御曹司の思惑とは……!?
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる