【R18】きみを抱く理由

さくら蒼

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わからないからもどかしい

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「……急すぎませんか?」

 吹き出しそうになって、慌てて口をおしぼりで隠す。

「これまでの流れでどうしてそうなったのか、全然理解できないです」
「なんかうまくやれそうな気がして」

 そんなまさか、と言おうとしたけれど、舌が喉に張り付いていた。
 伊東さんがなにを感じてそう思ったかはわからない。酔っ払いのたわごとかもしれなかったけれど、胸に来る言葉ではあった。
 神宮寺さんに焦がれている、という点を考えれば、確かに気は合うだろう。

「自分のしたことをもう一度よく考えてからお誘いしてくださいね」
「あ、やっぱまだ週刊誌のこと怒ってる?」
「まだもなにも、許さないと言ったはずですよ」
「そうだっけ? 全然覚えてない」
「改めてもう一回言ったら覚えてくれますかね」
「そんな全力で拒否しなくてもいいのにー」

 笑って、伊東さんはテーブルに肘をつく。
 そして私を見た。

「本気じゃないよ。こんなとこで本気の告白なんかできないし」
「わかってます。私だって本気だと思ってませんよ」
「相模さんってなんか、押せばいける感あるんだよなー……」

 ぐ、と言葉に詰まった。
 パパラッチなんてやめて探偵にでもなった方がいいのでは、と思うほど、人の本質を見抜く能力に優れている。

「言われない? 押しに弱いとか、いつも流されてるねー、みたいな」
「……言われません」

(自分では悲しくなるぐらい理解してますけど)

 押しに強かったら、最初の夜から神宮寺さんに身をゆだねていない。
 そもそも三ヶ月間の恋人自体引き受けていない。たとえどんな理由があるにせよ。
 思えば、高橋に声をかけられたときも「仕方がない」と受け入れかけていた気がする。

「ここでキスでもしたら、ころっと持ち帰れそう」
「試してみますか?」
「……拳を握り締めながら言うの、怖すぎるからやめてくれない?」

 もちろん、伊東さんはそんな愚かなチャレンジをしなかった。
 さすがの私もさせるつもりはない。

「あーあ、今日はいい感じの子を探しに来たのにな。思ったより仕事っぽい飲み会になっちゃったよ」
「純粋に合コンを楽しみに来ていたんですか?」
「そもそも相模さんが来るって知らないし。自己紹介のときに顔見て、この人アレじゃんって思ったぐらい」
「……ああ、確かに。そうですよね。急な参加でしたし」
「くそー、せめて今夜だけでも楽しめる相手がいたらよかったのにー」
「お遊びなんて最低です」
「本気のお遊びならどう? 相模さん、乗ってくれる?」
「絶対嫌です」

 お遊びなら――私だけ本気になってしまったお遊びなら、もう乗ってしまっている。

「二軒目付き合ってくれたりは?」
「今日は早く帰るつもりなので」
「……もしかして俺のこと嫌い?」
「したことは許しませんけど、正直、そこまで嫌いじゃないです。憎めないタイプって言われませんか?」
「初めて言われた。惚れそう」
「やめてください。怒りますよ」

 冗談を笑って返したとき、ゲームをしていた六人がわっと声を上げた。
 お楽しみが一段落したらしい。

「俺たちも混ざろっか」
「そうですね」

 週刊誌に写真を売り込むようなひどい人だけど、この業界でもがく仲間に違いはない。
 神宮寺さんという存在に共通点を持っているのもあって、やっぱりどうしても憎めなかった。
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