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わからないからもどかしい
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しおりを挟む言っていた通り、幹事に紹介された後は有沢さんと別れた。
合コンの人数はまあこんなものと言ったところだろう。
私を含めた八人は、全員がなにかしら近い業種で働いているらしかった。
だからか、アルコールのおかげで口が軽くなると、聞き覚えのあるプロデューサーやアイドルの名前がちらほら出始める。
「この間も高橋に声かけられてー」
「あ、やっぱその噂ほんとだったんだ?」
(他にも被害者が……。まあ、いるよね……)
私はと言うと、急に参加したこともあっていまいち輪に入れずにいた。
端の方でちびちびサワーを飲んでいると、隣に初めて見る男性が座ってくる。
「有沢さんの代わりに参加したんだっけ? よろしく」
「よろしくお願いします」
気さくそうな人だった。
乾杯の後に行われた自己紹介で、『伊東裕也(いとうゆうや)』と名乗っていた人だ。
好きなものはこういった飲み会、好みのタイプはお互いのペースを尊重できるある意味割り切った人。そして、神宮寺さんと同じフォトグラファー。
「相模さんはマネージャーやってるんだよね。モデルとかアイドルにくっついて回るの、大変じゃない?」
「そうですね。臨機応変な対応を求められることもありますし、楽な仕事ではないと思います。でも、やりがいのある素敵なお仕事ですよ」
「……想像以上に真面目な答えが返ってきて、どう反応しようか悩んでるんだけど」
「え?」
「こういうときって愚痴ったりするものじゃない? なんかあったら聞かせてよ」
(初対面なのに突っ込んでくるなぁ……)
気が緩みやすい席だし、同業者しかいないともなれば口も軽くなる。同じ悩みや不満を抱いていることもあるだろう。となれば、伊東さんの言う通り、ここで愚痴を言う方が普通なのかもしれない。
けれど、別に不満という不満を今の仕事にも担当している――今は元、と付けるべきかもしれない――アキくんにも感じたことはなかった。
多少頭を抱えることはあっても、だ。
「これと言って困っていることはないんです。面白い話ができなくてすみません」
「いいって、謝らなくても! こういうところからしか話を広げられない俺のがごめんなさーい」
ノリがアキくんに近い。そのおかげで、馴れ馴れしさを感じても変に緊張せずに済んだ。
「でもさ、そういう意味じゃない『大変』もあるんじゃないの?」
「どういう意味でしょう?」
「ほら、担当してる子に惚れちゃったり。っていうかこの業界多いよね。こっそりマネージャーと付き合ってる子」
ぎくりとしたのは週刊誌に撮られたあの写真のせい。
知らない振りをして敢えて私に話題を振ったのか、それとも単なる考え過ぎなのか。こんな場にまで仕事熱心な前者がいないことを願う。
「少なくとも私の周りでは聞きませんよ。アイドルたちも私たちも人間ですし、お付き合いしている人がいないとはいませんが」
「本当に?」
「……なにか言いたいことでもあるんですか?」
あまりに突っ込まれて警戒する。
この感覚はやはり前者だったのではないだろうか。
「俺ね、この間ある写真撮ってさ」
「…………」
「君と、アキくんの写真ね」
締めあげずに済んだのは、ここが他の人もいる場だったからだろう。
かっと頭は熱くなったけれど、ぎりぎりで抑え込む。
「あなたがあれを週刊誌に売り込んだんですか」
「まあ、そうだね。だから相模さんが来たとき、よっしゃ! って思った。……けど」
じ、と見つめられる。
落ち着かない気分になりながら睨み返した。
「うっかり秘密の恋人と楽しんで問題になるタイプには見えないんだよなぁ」
「…………」
「ああいうことするのって、もっと頭の軽いタイプなんだよ。それこそ、話を振ったらすぐ喋っちゃうような感じの。相模さんはあんまりそういう人に見えない」
「だから、なんですか。あなたのおかげでアキくんがどれだけ――」
「俺も仕事だし」
無罪を主張するその白々しさが憎い。
仕事なら金になる瞬間を見逃さないのは当然のことだとしても、当事者としては到底許せるものではなかった。
「どうして私に話しかけてきたんですか? 他にネタがないか聞くため?」
「それ半分、実物と話してみたかったのが半分ってとこ。……ほんとはアキくんの方から責めたかったんだよ。けどあの子、スキャンダルのかわし方がうますぎるじゃん。普通あんな写真撮られたらもっと騒ぎになるよ。新人の子ならなおさら。でも、そうはならなかった」
「あなたのような人に潰されるような人じゃありませんから」
「だから、仕事でやっただけ。潰したいとか考えてないんだって」
「これで誰かの人生が潰れたとしても同じことを言えるんですか?」
「言えるよ。そういう覚悟がないとできない仕事だからさ」
「……私はあなたのしたことを許しません」
「…………やっぱ、相模さんって変わってる」
これだけ怒っているのに、伊東さんはへらへら笑っていた。
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