33 / 81
わからないからもどかしい
1
しおりを挟むあの日以来、もともと多くなかった連絡は更に減った。
どうせあとひと月で終わるのだから、今更気にすることでもないだろう。
そう思っても、ことあるごとに頭の片隅をよぎる。
そうして残りわずかな日々はあっという間に過ぎていった。
やってきた次の週末、当然のように連絡が来ない。
「…………はぁ」
(あんな態度を取ったんだし、待ってるって思われる方がおかしいけどね)
意味もなく携帯を見ては通知がないことにショックを受ける。
そもそも連絡があるなら着信音が鳴るか、バイブレーションで振動するのに、気付かなかっただけかもしれないと何度も何度も確認してしまった。
いつもなら仕事が終わればすぐ帰り支度を始める。
けれど、今日だけは自分でもわかるほど動きが緩慢だった。
「あら、まだ残ってたの?」
「有沢さん……」
多忙な有沢さんは今、仕事を終えたのだろう。
疲れた顔をしている。
「アキくんの調子はどうですか?」
「あなたがいないとスケジュールがわからなくなるって駄々をこねていたわよ」
「……甘やかしすぎていました、よね」
「最初に担当する相手を特別視するのは誰だって同じよ。私もそうだったもの」
長い付き合いの中、実はあまり過去の話を聞いたことがない。
このまま突っ込んで聞いてもいいものか、一瞬感じた寂しげな空気を読んでおくべきか悩んでいると、携帯の着信音が聞こえた。
(もしかして……!)
すぐに自分の携帯を見てみたけれど、あいにく鳴ったのは私ではなく有沢さんの携帯だった。
「――もしもし? こんな時間になにか用?」
ここで会釈して帰るか、電話が終わるのを待つか若干悩む。
その数秒の迷いが思いがけない展開を呼んだ。
「あなた、この後空いてる?」
「え? ああ……ええと、はい。特に予定はありません」
「合コンのお誘いが来てるんだけど、どう?」
「合コン?」
「そ、合コン。業界の人間ばっかり集まってるんですって。私はちょっと出られないんだけど、もしよかったら行かない?」
「……いきなり私が行っていいものなんですか?」
「合コンなんて知らない人間だらけだからいいのよ。……そうね、別にここで恋人を作らなくてもいいじゃない? この間のアキとの噂を払拭するために、とか、そんな感じで理由を付けちゃいなさい」
やけにぐいぐい来られていぶかしんでしまう。
「あの、なんだか行かせたいように思えるんですが」
「だって最近、顔が暗いんだもの」
意外とよく見られている事実にぎょっとした。
「運がよければ素敵な相手をゲット。そうじゃなくても気分転換になるでしょ。……ってことで、参加連絡しておくわよ」
「あっ、ちょ、ちょっと待ってください……!」
止めたけれど遅かった。
ちょっと待って、と言う頃にはもう、私が参加することを電話の向こう側に伝えていたから。
しかも間の悪いことに、そのタイミングで携帯にメールが届く。
完全に隙を突いた形で届いたこともあって、神宮寺という名前が視界に入った瞬間、心臓が止まりそうになった。
メールの本文は端的で、今夜はどうするかとだけ書いてある。
電話じゃないのかと少しがっかりしたけれど、先日の気まずさがまだ残っていることを考え、私が断りやすいようにしてくれたのかもしれないと好意的に捉えておいた。
(合コンのことは言っておいた方がいい?)
好きな相手がいるなら教えろと迫るような人だ。
ここで黙っておくのは得策ではないだろう。
それに、と自分自身に微かな嫌悪感を覚えながらメールを打つ。
(嫉妬してくれたらいいな、なんて)
結局、アキくんとの記事を見て嫉妬したのかどうか、はっきりとはわからないままだった。
あれが嫉妬だったのか確認したい気持ちがある――というのは半分正しくて、半分正しくない。
純粋にまた「自分だけのものだ」という態度を見たかった。
だって私はあの人のことが好きだから。
合コンに行くのだとメールを送信すると、返信を事前に用意していたのかと思うほどの速度で返ってくる。
やっぱりそこにはたった一言。
――そうか。
(これ……どう解釈すればいいの)
経験の少ない私にはあまりにも難易度が高すぎた。
返答に困っていると、ちょうど有沢さんの電話が終わる。
「店まで連れて行ってあげるわ。最後まで一緒にいられたらよかったんだけど、ごめんなさいね」
「いえ、こちらこそありがとうございます」
メールを返す前に外へ出ることになる。
どう返すべきかわからなかったのもあって、そのまま返答せずに終わってしまった。
0
お気に入りに追加
1,347
あなたにおすすめの小説

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜
雪井しい
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。
【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】
☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆
※ベリーズカフェでも掲載中
※推敲、校正前のものです。ご注意下さい
ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~
菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。
だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。
車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。
あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
世界くんの想うツボ〜年下御曹司との甘い恋の攻防戦〜
遊野煌
恋愛
衛生陶器を扱うTONTON株式会社で見積課課長として勤務している今年35歳の源梅子(みなもとうめこ)は、五年前のトラウマから恋愛に臆病になっていた。そんなある日、梅子は新入社員として見積課に配属されたTONTON株式会社の御曹司、御堂世界(みどうせかい)と出会い、ひょんなことから三ヶ月間の契約交際をすることに。
キラキラネームにキラキラとした見た目で更に会社の御曹司である世界は、自由奔放な性格と振る舞いで完璧主義の梅子のペースを乱していく。
──あ、それツボっすね。
甘くて、ちょっぴり意地悪な年下男子に振り回されて噛みつかれて恋に落ちちゃう物語。
恋に臆病なバリキャリvsキラキラ年下御曹司
恋の軍配はどちらに?
※画像はフリー素材です。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる