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わからないからもどかしい
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しおりを挟むあの日以来、もともと多くなかった連絡は更に減った。
どうせあとひと月で終わるのだから、今更気にすることでもないだろう。
そう思っても、ことあるごとに頭の片隅をよぎる。
そうして残りわずかな日々はあっという間に過ぎていった。
やってきた次の週末、当然のように連絡が来ない。
「…………はぁ」
(あんな態度を取ったんだし、待ってるって思われる方がおかしいけどね)
意味もなく携帯を見ては通知がないことにショックを受ける。
そもそも連絡があるなら着信音が鳴るか、バイブレーションで振動するのに、気付かなかっただけかもしれないと何度も何度も確認してしまった。
いつもなら仕事が終わればすぐ帰り支度を始める。
けれど、今日だけは自分でもわかるほど動きが緩慢だった。
「あら、まだ残ってたの?」
「有沢さん……」
多忙な有沢さんは今、仕事を終えたのだろう。
疲れた顔をしている。
「アキくんの調子はどうですか?」
「あなたがいないとスケジュールがわからなくなるって駄々をこねていたわよ」
「……甘やかしすぎていました、よね」
「最初に担当する相手を特別視するのは誰だって同じよ。私もそうだったもの」
長い付き合いの中、実はあまり過去の話を聞いたことがない。
このまま突っ込んで聞いてもいいものか、一瞬感じた寂しげな空気を読んでおくべきか悩んでいると、携帯の着信音が聞こえた。
(もしかして……!)
すぐに自分の携帯を見てみたけれど、あいにく鳴ったのは私ではなく有沢さんの携帯だった。
「――もしもし? こんな時間になにか用?」
ここで会釈して帰るか、電話が終わるのを待つか若干悩む。
その数秒の迷いが思いがけない展開を呼んだ。
「あなた、この後空いてる?」
「え? ああ……ええと、はい。特に予定はありません」
「合コンのお誘いが来てるんだけど、どう?」
「合コン?」
「そ、合コン。業界の人間ばっかり集まってるんですって。私はちょっと出られないんだけど、もしよかったら行かない?」
「……いきなり私が行っていいものなんですか?」
「合コンなんて知らない人間だらけだからいいのよ。……そうね、別にここで恋人を作らなくてもいいじゃない? この間のアキとの噂を払拭するために、とか、そんな感じで理由を付けちゃいなさい」
やけにぐいぐい来られていぶかしんでしまう。
「あの、なんだか行かせたいように思えるんですが」
「だって最近、顔が暗いんだもの」
意外とよく見られている事実にぎょっとした。
「運がよければ素敵な相手をゲット。そうじゃなくても気分転換になるでしょ。……ってことで、参加連絡しておくわよ」
「あっ、ちょ、ちょっと待ってください……!」
止めたけれど遅かった。
ちょっと待って、と言う頃にはもう、私が参加することを電話の向こう側に伝えていたから。
しかも間の悪いことに、そのタイミングで携帯にメールが届く。
完全に隙を突いた形で届いたこともあって、神宮寺という名前が視界に入った瞬間、心臓が止まりそうになった。
メールの本文は端的で、今夜はどうするかとだけ書いてある。
電話じゃないのかと少しがっかりしたけれど、先日の気まずさがまだ残っていることを考え、私が断りやすいようにしてくれたのかもしれないと好意的に捉えておいた。
(合コンのことは言っておいた方がいい?)
好きな相手がいるなら教えろと迫るような人だ。
ここで黙っておくのは得策ではないだろう。
それに、と自分自身に微かな嫌悪感を覚えながらメールを打つ。
(嫉妬してくれたらいいな、なんて)
結局、アキくんとの記事を見て嫉妬したのかどうか、はっきりとはわからないままだった。
あれが嫉妬だったのか確認したい気持ちがある――というのは半分正しくて、半分正しくない。
純粋にまた「自分だけのものだ」という態度を見たかった。
だって私はあの人のことが好きだから。
合コンに行くのだとメールを送信すると、返信を事前に用意していたのかと思うほどの速度で返ってくる。
やっぱりそこにはたった一言。
――そうか。
(これ……どう解釈すればいいの)
経験の少ない私にはあまりにも難易度が高すぎた。
返答に困っていると、ちょうど有沢さんの電話が終わる。
「店まで連れて行ってあげるわ。最後まで一緒にいられたらよかったんだけど、ごめんなさいね」
「いえ、こちらこそありがとうございます」
メールを返す前に外へ出ることになる。
どう返すべきかわからなかったのもあって、そのまま返答せずに終わってしまった。
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