31 / 81
なんのための独占欲?
3
しおりを挟む「……っ、神宮寺さん!」
会うなり、神宮寺さんは私の腕を掴んでホテルに向かった。
言葉数がいつもより少なくて、表情も険しい。
あの記事のせいだというのは火を見るより明らかだった。
「待っ――」
部屋のドアを開いて引きずり込まれる。
その瞬間、どん、と壁に背中を押し付けられた。
「んん、ん――っ」
むさぼるように唇を奪われ、早々に舌を絡められる。
じっくり快感を刻み付けるような普段のやり方とはずいぶん違っていた。
ひどく余裕がなくて、少し怖い。
こうまでされるほどの理由を見つけられないまま、神宮寺さんの肩口を掴んだ。
落ち着いて、と距離を取ろうとして失敗する。
呼吸しようと必死になっている間、カチャリと鍵を閉める音がした。
もう、この部屋から私を逃がすつもりはないということだろう。
キスだけでは足りなかったのか、スカートをまくり上げられた。
久々に触れられたせいで、既に身体が熱く潤んでいる。
「っ……ぅ」
下着をずらされ、やや乱暴に指を入れられた。
いつもは一本ずつ増やしていっていたのに、いきなり二本から。
不自由な体勢と快感に喘ぎながらすがり、ぐちゃぐちゃと繰り返される水音を聞く。
「……っは、あ……っん、んっ……あっ……」
神宮寺さんの首に腕を回して啼くうちに、自然と腰が動いていた。
いつだってこの人の与える快楽には逆らえない。なにも知らなかった最初の夜からずっとそう。
ただ――なにも言ってくれないのが怖かった。
ここまでの道中、険しい顔をしていたから余計に。
「じん、ぐ……じ……さん……」
「どこまで許したんだ」
「え……」
「……っ、クソ」
荒く指を引き抜かれ、がくんと崩れ落ちそうになる。
そんな私を支えると、神宮寺さんはまっすぐ部屋の奥へ向かった。
その先に待っていたのは浴室。
二人で入るにはやや狭いそこに私を放り込むと、容赦なくシャワーの水を浴びせてきた。
「冷たっ……」
神宮寺さんは自分自身も冷たい水を浴びながら、私を鏡に向かって押し付ける。
「君がそんな顔を見せるのは俺だけだろ」
(そんな顔って、どんな)
つい最近、似たようなことを聞いた覚えがある。
今は聞けなかった。
鏡に手を突かされ、その状態で――貫かれたから。
「んん、ぅ……っ」
くぐもった声が浴室に反響した。
ずん、と規則正しく突き上げられる。
「っふ、あっ……あっ、ああっ……」
目の前に広がる鏡が、私に『どんな顔』かを見せつけてくる。
自分でも知らない女の顔が視界を埋めていた。
だらしなく緩んだ口に、涙で潤んだ瞳。頬は紅潮して、上昇した体温の高さをこれでもかと示している。
つ、と自分の唇から唾液が伝っていった。
頭上から降り注ぐシャワーの水が排水溝へと流していく。
最初は冷たいと思ったのに、もう冷たさを感じない。
それどころか、火照った身体に気持ちいいぐらいで。
「あう、あっ、あっ……んんっ……い、ぅ……っ」
腰を掴まれ、何度も最奥を突かれる。
じゅぷ、と聞こえてくる音が淫靡だった。
耳を塞ぎたいけれど、鏡に手を突いていないとその場に崩れ落ちてしまう。
膝にまったく力が入っていなかった。
神宮寺さんが腰を掴んで支えてくれるから、なんとか立てている。
ただ、本人にそんなつもりは一切ない。
腰を掴んでいるのは私を支えるためじゃなく、より深く、一番甘く濡れた声をあげてしまう場所をえぐるため。
現に私の弱い場所ばかり責め立てて、頭の中までどろどろに溶かそうとしてくる。
もう許して、と細く声が漏れた。
かすれた喘ぎがこぼれただけで、言葉にならない。
助けを求めようと鏡越しに神宮寺さんを見て、ぞくぞくと一気に身体の熱が増した。
(そんな顔、で……)
快感に溺れる一歩手前の、あと少しを押し殺した苦しげな表情。
私と同じく神宮寺さんの頬も紅潮していた。
噛み締めた唇の間から漏れる吐息は私の耳にも届いている。
こうまで切羽詰まった顔は見たことがなかった。
「じん……ぐうじ、さん……」
荒い息を吐きながら呼ぶと、濡れた髪を乱して首を振られる。
「豊、だ」
「っ……」
好きだと気付いてしまったからなのだろうか。
その名前の響きだけで泣きたくなる。
「ゆた、か」
いつからそう呼んでみたかったのか自分でもわからない。
でも、呼べたことが嬉しくて、つぅ、と涙が頬を濡らしていく。
「豊……豊さん……っ……」
「――っ、く」
息ができなくなるほど、私を責める豊さんの大きさが増す。
より激しく中を圧迫して、隙間なく私を満たしていった。
「う……あっ……ああっ……!」
鏡についた手に豊さんが手を重ねてくる。
指が甘えるように絡んできた。
愛おしさで壊れそうになる。
「君が、全部許していい、のは……俺、だけだ」
感情を極限まで押し殺した声が鼓膜から私の中へ浸み込んでいく。
「――誰にも渡さない」
びくん、とお腹の中が一気に収縮する。
名前を許されて――特別を許されて、本当に泣きたかった。
初めての快感を教えられたあの夜より、好きな人に抱かれていると理解してしまった今の方がずっと気持ちいい。
「豊さ……わた、し……も、う……っ……」
「……っ」
「っ、うあ」
後ろから顎を掴まれ、前を向かされる。
鏡に映った私は先ほどと変わらず、だらしない顔をしていた。
目を背けようとすると豊さんの声が響く。
「誰に抱かれて、誰にイかされるのか、ちゃんと見ていろ」
ぞく、と震えるような快感が痺れとなって走っていく。
私を抱いているのは豊さん。
限界まで追い詰めているのも――。
「あっ……あっ……い、あっ……い、く……あ、ああっ……!」
繋がった手をきつく握りしめてしまった。
びくびく、と激しく身体が痙攣し、膝どころか全身の力が抜けていく。
「は……っ、く……」
遅れて豊さんが息を呑んだ。
散々、私をいたぶって責めたものが勢いよく引き抜かれる。
ぱたた、と足元にこぼれた体液はシャワーの水に流されてすぐ消えていった。
豊さんは背後から私を抱き締めて、鏡から見えないよう顔を隠してしまう。
しばらく、お互いの荒い息とシャワーの音だけが静寂を乱していた。
0
お気に入りに追加
1,347
あなたにおすすめの小説

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜
雪井しい
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。
【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】
☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆
※ベリーズカフェでも掲載中
※推敲、校正前のものです。ご注意下さい
ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~
菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。
だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。
車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。
あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。

決して飼いならされたりしませんが~年下御曹司の恋人(仮)になります~
北館由麻
恋愛
アラサーOLの笑佳は敬愛する上司のもとで着々とキャリアを積んでいた。
ある日、本社からやって来たイケメン年下御曹司、響也が支社長代理となり、彼の仕事をサポートすることになったが、ひょんなことから笑佳は彼に弱みを握られ、頼みをきくと約束してしまう。
それは彼の恋人(仮)になること――!?
クズ男との恋愛に懲りた過去から、もう恋をしないと決めていた笑佳に年下御曹司の恋人(仮)は務まるのか……。
そして契約彼女を夜な夜な甘やかす年下御曹司の思惑とは……!?
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる