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なんのための独占欲?
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しおりを挟む無事にロケが終わって早々、有沢さんに呼び出された私は頭が真っ白になっていた。
「……これ、あなたよね?」
「……おそらくそう……です」
テーブルに広げられていたのは、ゴシップネタを面白おかしく騒ぎ立てる週刊誌だった。
嘘だろうと本当だろうと話題になるなら容赦なく記載するその雑誌に載っていたのは、あの離島での写真。
そこにはひと気のない海辺で私を抱き締めるアキくんが映っていた。
横にはでかでかと『人気アイドル、一般人女性と秘密の恋愛?』とある。
(あのときの……どうして)
「顔は見えてないけど、見る人が見ればわかるわ。どうしてこんなことになっているの?」
「……順を追って説明いたします」
厳しい視線に息が止まりそうだった。
けれど、私もアキくんもうかつだっただけで思われているような関係ではない。
「この日、機材トラブルで半日ほど自由時間ができました。息抜きのためにアキくんについて、この砂浜に行ったのは……事実です」
「……それで?」
「アキくんの……相談に乗りました」
完全な嘘ではない。
有沢さんにならすべてを話しても問題はなさそうだったけれど、アキくんのプライバシーにも関わる以上、ぼかした方がいいだろう。
「相談、ね」
「……彼にも関係があるので、私からはこれ以上言えません。が、察していただけると嬉しいです」
「まったく。あなたじゃなかったら、一から十まで全部言いなさいって叱ってるところよ」
「……申し訳ありません」
「いいわ。それでこうなった、と?」
「結果的には……そうですね」
有沢さんが難しい顔で腕を組んでいる。
「……今のあなたたちは、アイドルとマネージャーなのかしら?」
言外に込められた意味を理解し、深く頷く。
「そうです。どんなときでも私たちの関係は変わりません」
「……長年、あなたと一緒にやってきたからこそわかってるの。仕事に恋愛を持ち込むようなことはしないし、間違ってもこんな瞬間をすっぱ抜かれるような真似はしないって」
「…………」
「どういう過程でどんな結果になったにせよ、既にこんな写真が出回ってしまった。……そこはわかるわね?」
「はい」
恋人の逢瀬でもなんでもないけれど、世間はそう見ない。
だとしたら私にできることはひとつしかなかった。
「今のうちに退職の準備を――」
「待ちなさい、こら」
有沢さんが私に手のひらを突き付ける。
「違うのよ、やめろって話じゃないの」
「あ……そうなんですか……?」
「結論を決めるのが早すぎるのも困りものね。……しばらくアキの担当を外れてって言いたかったのよ」
「……それだけですか?」
「ええ、社長もそう判断したわ」
とても信じられなくていぶかしむ。
「ですが、私が問題を起こしたのは……二度目になります」
「あなたがなにもかも悪いわけじゃない。違うの?」
不覚にも泣きそうになってしまった。
そうまではっきり言い切ってくれる人が、この人の他に何人いるだろう。
「違いません。……だけど、今回のことはアキくんも悪いわけじゃ」
「どっちも悪い、ってところね。こんな低俗な雑誌にすっぱ抜かれてるんじゃないわよ、まったく」
「す、すみません」
「……二人して相手は悪くないって言わないでほしいものね。本当に関係があるのかと思っちゃうじゃない」
「アキくんもそう言っていたんですか?」
「三十分くらい前にね」
てっきり私の方が先に呼び出されたのかと思っていたけれど、アキくんの方が早かったらしい。
しかも同じように言っていたとは。
「好きな人に告白して、がっつり振られましたってね。失恋して泣きたかったです、なんて堂々と言われたら、こっちだって気が抜けるわ」
「ほ……本当に全部言ったんですね……」
それを言っているなら、もうなにも隠していないのだろう。
話しているときのアキくんが目に浮かぶようだった。
「あの子、もともとの自分のキャラで乗り切れますって言いきってたわ。普段から懐っこく人に付きまとったりくっついてたのはこういうときのためだ、って言われたのには驚いたけどね」
「……なんとなく気付いてはいたんですが、やっぱり計算であのキャラなんですね」
「やっぱりあの子、売れるわ」
私も同じ思いを抱いて頷いた。
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