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好きはひとつじゃない
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「これぐらい許してよね」
「アキくん……」
「仕事はちゃんとするよ。志保ちゃんとの関係も変わらない。狙い続けていきたいとは思ってるけど」
アキくんが離れていく。
――恋をしている人の顔、というものがどんなものなのか、その顔を見て理解した。
「失恋しちゃったから、ちょっと散歩してきていい?」
「う、ん……」
「先に帰っててもいいよ。気まずいでしょ」
私がそうすると決めつけているのか、アキくんは返事を待たずに歩き出す。
咄嗟にその背中を追いかけ、服の裾を掴んでいた。
「なに」
「一緒に帰ろう。これからの関係が変わらないなら、ここで気まずいまま帰りたくないよ」
「うっわ、残酷。振られてるんですけど、こっちは」
「う……」
「……でも、志保ちゃんのそういうとこが好きだな」
くしゃ、と髪を撫でながらアキくんが笑う。
「いつだって仕事熱心でさ。……だから振り向いてほしかった」
もう一度軽く抱き締められ、耳元で囁かれる。
「……簡単に諦めるタイプじゃないから、よろしく」
そうして今度こそアキくんは一人で行ってしまった。
背中越しにひらひら手を振っているのを見る限り、きっとあとで一緒に帰ってくれるのだろう。
(……ごめんね)
あとでまた同行するとはいえ、今は一人にするべきときだった。
もう追いかけずに、海へ沈んでいく夕日を見つめる。
(私、神宮寺さんのことが好きだ)
傷付くのを恐れて認めなかった想いと向き合う。
ときおり見せる優しさに。子供っぽい反応に。触れてくる手の熱さに。あの眼差しに。
ずっとずっと、縛られていた。
(契約はもうすぐ終わり。だけど、その後にアキくんとは付き合えない)
アキくんがずるいと言ったように、私もまた同じ思いを神宮寺さんに抱く。
あの人は契約でしかない日々の中で私を捕らえてしまった。
他の人に好意を抱かれようと心が動かない。
出会わなければアキくんとの未来もあったのだろう。
本人が言っていたように、そちらの道の方が幸せになれていたかもしれない。
でも、もう遅かった。
(……あとひと月で終わるのにね)
失恋が決まっている恋。
最初から叶うはずのない想いは、ただひたすら苦かった。
「アキくん……」
「仕事はちゃんとするよ。志保ちゃんとの関係も変わらない。狙い続けていきたいとは思ってるけど」
アキくんが離れていく。
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「失恋しちゃったから、ちょっと散歩してきていい?」
「う、ん……」
「先に帰っててもいいよ。気まずいでしょ」
私がそうすると決めつけているのか、アキくんは返事を待たずに歩き出す。
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「なに」
「一緒に帰ろう。これからの関係が変わらないなら、ここで気まずいまま帰りたくないよ」
「うっわ、残酷。振られてるんですけど、こっちは」
「う……」
「……でも、志保ちゃんのそういうとこが好きだな」
くしゃ、と髪を撫でながらアキくんが笑う。
「いつだって仕事熱心でさ。……だから振り向いてほしかった」
もう一度軽く抱き締められ、耳元で囁かれる。
「……簡単に諦めるタイプじゃないから、よろしく」
そうして今度こそアキくんは一人で行ってしまった。
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(……ごめんね)
あとでまた同行するとはいえ、今は一人にするべきときだった。
もう追いかけずに、海へ沈んでいく夕日を見つめる。
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ずっとずっと、縛られていた。
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他の人に好意を抱かれようと心が動かない。
出会わなければアキくんとの未来もあったのだろう。
本人が言っていたように、そちらの道の方が幸せになれていたかもしれない。
でも、もう遅かった。
(……あとひと月で終わるのにね)
失恋が決まっている恋。
最初から叶うはずのない想いは、ただひたすら苦かった。
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