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好きはひとつじゃない
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「あんたが仕事に向けるその想いを、俺だけに向けてくれたらいいなって。そのとき、どんな顔で俺を見てくれるんだろうって……」
(――アキくんは、私と同じだ)
一瞬も逸らされない瞳を見ながら気付いてしまう。
「俺はあんたが好きだよ。だから……」
「……ごめんなさい」
最後まで聞く前に震える声を吐き出してしまった。
だって、わかってしまったから。
「私……私、今のアキくんの言ってること、わかるの。仕事に向ける想いを自分に向けてくれたらって。すごくよくわかるの」
「…………」
「……この気持ちは、やっぱり好きってことなの?」
「……え、それ俺に聞く?」
ぷっと思い切り吹き出したかと思うと、そのまま声を上げて笑い出す。
「いや、さすがにその返しは予想してなかったって言うか。断るのも早すぎでしょ」
「ご、ごめんなさい」
「それに、すごくずるい」
いつもは私が面倒を見てきた人が、子供にするように頭を撫でてくる。
泣きそうになりながらアキくんを見ると、苦い笑みが口元に浮かんでいた。
「志保ちゃんがそう思う相手って、あいつじゃん?」
「……うん」
「その気持ちは『好き』じゃないよ、って俺は言いたいわけ。けど、そうしたら俺があんたに向ける気持ちも『好き』じゃないってことになる」
「あ……」
「俺はさ。そう思うのは『好き』だからだよ、しか言えないんだよね」
「ごめんなさい、アキくん……」
「いいよ」
ぽんぽん、と頭を優しく撫でられる。
「好きな人だから、誰を見てたのかも気付いてた。だから俺、神宮寺さんのこと嫌い」
いつもの茶化した風を装っている。
でも、声のトーンが違っていた。
「恋人って言ってたのに、志保ちゃんはあの人を好きじゃないと思ってたんだ」
「それは……その……」
「事情ありっぽいけど、聞かないでおく。攫っちゃいたくなるし」
ぎくりとしたのも束の間、手を引っ張られ――抱き締められる。
「俺を選んだ方が幸せになれるよ」
「……うん」
「だって俺、あんたを幸せにするから」
頬に触れた手が私の顔を持ち上げる。
目と目が合った。
「いいキャラしてるし、人気者だし、そもそもアイドルだよ? どう?」
冗談めかして言われたからか、少し笑ってしまった。
彼がその方向で来るなら私も応えよう。
「ごめんね。アキくんは付き合ったら面倒なタイプだと思うの。わがままもいっぱい言うし、人前でべたべたしてきそう」
「そりゃあ恋人にはわがまま言うし、べたべたもするよ? ってかなに、面倒なタイプって! 神宮寺さんはそういう人じゃないって言うわけ?」
「ううん」
正直に首を横に振る。
「あの人の方がもっともっと面倒だよ。自分のことをあんまり見せてくれないし、なにを考えてるかだってわからない。わがまま……って言うより、自分中心に話を進めるところはアキくんより手に負えないと思う」
「なのに、好きなんだ」
「うん」
笑ったはずみに、涙がこぼれた。
(笑わないって言われてるのに、私の前では笑ってくれるの)
身体を重ねたから心が勘違いしたのだと思い込むようにしていた。
だけど私はとっくにあの人を好きになっていて、どこに惹かれたのか言うことができる。
「ずっと好きだったの」
仕事と向き合うあの真剣な姿に惹かれていた。
だから恋人になってほしいという提案を飲んで、身体も許してしまったのだ。
この人にならいい、と思ってしまったから――。
「……あーあ、勝ち目ないじゃん」
「え……?」
ふに、とアキくんが私の頬をつまむ。
ついでに涙を拭われた。
「そんな顔させられる男に勝てるわけなかった」
「そんな顔ってどんな――」
「恋してる女の子の顔」
「――っ!」
顔が近付いて、指ではない柔らかい感触が頬に落ちる。
その熱に驚いて手で押さえると、くくっと声を上げて笑われた。
(――アキくんは、私と同じだ)
一瞬も逸らされない瞳を見ながら気付いてしまう。
「俺はあんたが好きだよ。だから……」
「……ごめんなさい」
最後まで聞く前に震える声を吐き出してしまった。
だって、わかってしまったから。
「私……私、今のアキくんの言ってること、わかるの。仕事に向ける想いを自分に向けてくれたらって。すごくよくわかるの」
「…………」
「……この気持ちは、やっぱり好きってことなの?」
「……え、それ俺に聞く?」
ぷっと思い切り吹き出したかと思うと、そのまま声を上げて笑い出す。
「いや、さすがにその返しは予想してなかったって言うか。断るのも早すぎでしょ」
「ご、ごめんなさい」
「それに、すごくずるい」
いつもは私が面倒を見てきた人が、子供にするように頭を撫でてくる。
泣きそうになりながらアキくんを見ると、苦い笑みが口元に浮かんでいた。
「志保ちゃんがそう思う相手って、あいつじゃん?」
「……うん」
「その気持ちは『好き』じゃないよ、って俺は言いたいわけ。けど、そうしたら俺があんたに向ける気持ちも『好き』じゃないってことになる」
「あ……」
「俺はさ。そう思うのは『好き』だからだよ、しか言えないんだよね」
「ごめんなさい、アキくん……」
「いいよ」
ぽんぽん、と頭を優しく撫でられる。
「好きな人だから、誰を見てたのかも気付いてた。だから俺、神宮寺さんのこと嫌い」
いつもの茶化した風を装っている。
でも、声のトーンが違っていた。
「恋人って言ってたのに、志保ちゃんはあの人を好きじゃないと思ってたんだ」
「それは……その……」
「事情ありっぽいけど、聞かないでおく。攫っちゃいたくなるし」
ぎくりとしたのも束の間、手を引っ張られ――抱き締められる。
「俺を選んだ方が幸せになれるよ」
「……うん」
「だって俺、あんたを幸せにするから」
頬に触れた手が私の顔を持ち上げる。
目と目が合った。
「いいキャラしてるし、人気者だし、そもそもアイドルだよ? どう?」
冗談めかして言われたからか、少し笑ってしまった。
彼がその方向で来るなら私も応えよう。
「ごめんね。アキくんは付き合ったら面倒なタイプだと思うの。わがままもいっぱい言うし、人前でべたべたしてきそう」
「そりゃあ恋人にはわがまま言うし、べたべたもするよ? ってかなに、面倒なタイプって! 神宮寺さんはそういう人じゃないって言うわけ?」
「ううん」
正直に首を横に振る。
「あの人の方がもっともっと面倒だよ。自分のことをあんまり見せてくれないし、なにを考えてるかだってわからない。わがまま……って言うより、自分中心に話を進めるところはアキくんより手に負えないと思う」
「なのに、好きなんだ」
「うん」
笑ったはずみに、涙がこぼれた。
(笑わないって言われてるのに、私の前では笑ってくれるの)
身体を重ねたから心が勘違いしたのだと思い込むようにしていた。
だけど私はとっくにあの人を好きになっていて、どこに惹かれたのか言うことができる。
「ずっと好きだったの」
仕事と向き合うあの真剣な姿に惹かれていた。
だから恋人になってほしいという提案を飲んで、身体も許してしまったのだ。
この人にならいい、と思ってしまったから――。
「……あーあ、勝ち目ないじゃん」
「え……?」
ふに、とアキくんが私の頬をつまむ。
ついでに涙を拭われた。
「そんな顔させられる男に勝てるわけなかった」
「そんな顔ってどんな――」
「恋してる女の子の顔」
「――っ!」
顔が近付いて、指ではない柔らかい感触が頬に落ちる。
その熱に驚いて手で押さえると、くくっと声を上げて笑われた。
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