【R18】きみを抱く理由

さくら蒼

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好きはひとつじゃない

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「あんたが仕事に向けるその想いを、俺だけに向けてくれたらいいなって。そのとき、どんな顔で俺を見てくれるんだろうって……」

(――アキくんは、私と同じだ)

 一瞬も逸らされない瞳を見ながら気付いてしまう。

「俺はあんたが好きだよ。だから……」
「……ごめんなさい」

 最後まで聞く前に震える声を吐き出してしまった。
 だって、わかってしまったから。

「私……私、今のアキくんの言ってること、わかるの。仕事に向ける想いを自分に向けてくれたらって。すごくよくわかるの」
「…………」
「……この気持ちは、やっぱり好きってことなの?」
「……え、それ俺に聞く?」

 ぷっと思い切り吹き出したかと思うと、そのまま声を上げて笑い出す。

「いや、さすがにその返しは予想してなかったって言うか。断るのも早すぎでしょ」
「ご、ごめんなさい」
「それに、すごくずるい」

 いつもは私が面倒を見てきた人が、子供にするように頭を撫でてくる。
 泣きそうになりながらアキくんを見ると、苦い笑みが口元に浮かんでいた。

「志保ちゃんがそう思う相手って、あいつじゃん?」
「……うん」
「その気持ちは『好き』じゃないよ、って俺は言いたいわけ。けど、そうしたら俺があんたに向ける気持ちも『好き』じゃないってことになる」
「あ……」
「俺はさ。そう思うのは『好き』だからだよ、しか言えないんだよね」
「ごめんなさい、アキくん……」
「いいよ」

 ぽんぽん、と頭を優しく撫でられる。

「好きな人だから、誰を見てたのかも気付いてた。だから俺、神宮寺さんのこと嫌い」

 いつもの茶化した風を装っている。
 でも、声のトーンが違っていた。

「恋人って言ってたのに、志保ちゃんはあの人を好きじゃないと思ってたんだ」
「それは……その……」
「事情ありっぽいけど、聞かないでおく。攫っちゃいたくなるし」

 ぎくりとしたのも束の間、手を引っ張られ――抱き締められる。

「俺を選んだ方が幸せになれるよ」
「……うん」
「だって俺、あんたを幸せにするから」

 頬に触れた手が私の顔を持ち上げる。
 目と目が合った。

「いいキャラしてるし、人気者だし、そもそもアイドルだよ? どう?」

 冗談めかして言われたからか、少し笑ってしまった。
 彼がその方向で来るなら私も応えよう。

「ごめんね。アキくんは付き合ったら面倒なタイプだと思うの。わがままもいっぱい言うし、人前でべたべたしてきそう」
「そりゃあ恋人にはわがまま言うし、べたべたもするよ? ってかなに、面倒なタイプって! 神宮寺さんはそういう人じゃないって言うわけ?」
「ううん」

 正直に首を横に振る。

「あの人の方がもっともっと面倒だよ。自分のことをあんまり見せてくれないし、なにを考えてるかだってわからない。わがまま……って言うより、自分中心に話を進めるところはアキくんより手に負えないと思う」
「なのに、好きなんだ」
「うん」

 笑ったはずみに、涙がこぼれた。

(笑わないって言われてるのに、私の前では笑ってくれるの)

 身体を重ねたから心が勘違いしたのだと思い込むようにしていた。
 だけど私はとっくにあの人を好きになっていて、どこに惹かれたのか言うことができる。

「ずっと好きだったの」

 仕事と向き合うあの真剣な姿に惹かれていた。
 だから恋人になってほしいという提案を飲んで、身体も許してしまったのだ。
 この人にならいい、と思ってしまったから――。

「……あーあ、勝ち目ないじゃん」
「え……?」

 ふに、とアキくんが私の頬をつまむ。
 ついでに涙を拭われた。

「そんな顔させられる男に勝てるわけなかった」
「そんな顔ってどんな――」
「恋してる女の子の顔」
「――っ!」

 顔が近付いて、指ではない柔らかい感触が頬に落ちる。
 その熱に驚いて手で押さえると、くくっと声を上げて笑われた。
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