【R18】きみを抱く理由

さくら蒼

文字の大きさ
上 下
27 / 81
好きはひとつじゃない

しおりを挟む
「あんたが仕事に向けるその想いを、俺だけに向けてくれたらいいなって。そのとき、どんな顔で俺を見てくれるんだろうって……」

(――アキくんは、私と同じだ)

 一瞬も逸らされない瞳を見ながら気付いてしまう。

「俺はあんたが好きだよ。だから……」
「……ごめんなさい」

 最後まで聞く前に震える声を吐き出してしまった。
 だって、わかってしまったから。

「私……私、今のアキくんの言ってること、わかるの。仕事に向ける想いを自分に向けてくれたらって。すごくよくわかるの」
「…………」
「……この気持ちは、やっぱり好きってことなの?」
「……え、それ俺に聞く?」

 ぷっと思い切り吹き出したかと思うと、そのまま声を上げて笑い出す。

「いや、さすがにその返しは予想してなかったって言うか。断るのも早すぎでしょ」
「ご、ごめんなさい」
「それに、すごくずるい」

 いつもは私が面倒を見てきた人が、子供にするように頭を撫でてくる。
 泣きそうになりながらアキくんを見ると、苦い笑みが口元に浮かんでいた。

「志保ちゃんがそう思う相手って、あいつじゃん?」
「……うん」
「その気持ちは『好き』じゃないよ、って俺は言いたいわけ。けど、そうしたら俺があんたに向ける気持ちも『好き』じゃないってことになる」
「あ……」
「俺はさ。そう思うのは『好き』だからだよ、しか言えないんだよね」
「ごめんなさい、アキくん……」
「いいよ」

 ぽんぽん、と頭を優しく撫でられる。

「好きな人だから、誰を見てたのかも気付いてた。だから俺、神宮寺さんのこと嫌い」

 いつもの茶化した風を装っている。
 でも、声のトーンが違っていた。

「恋人って言ってたのに、志保ちゃんはあの人を好きじゃないと思ってたんだ」
「それは……その……」
「事情ありっぽいけど、聞かないでおく。攫っちゃいたくなるし」

 ぎくりとしたのも束の間、手を引っ張られ――抱き締められる。

「俺を選んだ方が幸せになれるよ」
「……うん」
「だって俺、あんたを幸せにするから」

 頬に触れた手が私の顔を持ち上げる。
 目と目が合った。

「いいキャラしてるし、人気者だし、そもそもアイドルだよ? どう?」

 冗談めかして言われたからか、少し笑ってしまった。
 彼がその方向で来るなら私も応えよう。

「ごめんね。アキくんは付き合ったら面倒なタイプだと思うの。わがままもいっぱい言うし、人前でべたべたしてきそう」
「そりゃあ恋人にはわがまま言うし、べたべたもするよ? ってかなに、面倒なタイプって! 神宮寺さんはそういう人じゃないって言うわけ?」
「ううん」

 正直に首を横に振る。

「あの人の方がもっともっと面倒だよ。自分のことをあんまり見せてくれないし、なにを考えてるかだってわからない。わがまま……って言うより、自分中心に話を進めるところはアキくんより手に負えないと思う」
「なのに、好きなんだ」
「うん」

 笑ったはずみに、涙がこぼれた。

(笑わないって言われてるのに、私の前では笑ってくれるの)

 身体を重ねたから心が勘違いしたのだと思い込むようにしていた。
 だけど私はとっくにあの人を好きになっていて、どこに惹かれたのか言うことができる。

「ずっと好きだったの」

 仕事と向き合うあの真剣な姿に惹かれていた。
 だから恋人になってほしいという提案を飲んで、身体も許してしまったのだ。
 この人にならいい、と思ってしまったから――。

「……あーあ、勝ち目ないじゃん」
「え……?」

 ふに、とアキくんが私の頬をつまむ。
 ついでに涙を拭われた。

「そんな顔させられる男に勝てるわけなかった」
「そんな顔ってどんな――」
「恋してる女の子の顔」
「――っ!」

 顔が近付いて、指ではない柔らかい感触が頬に落ちる。
 その熱に驚いて手で押さえると、くくっと声を上げて笑われた。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜

雪井しい
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。 【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】 ☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆ ※ベリーズカフェでも掲載中 ※推敲、校正前のものです。ご注意下さい

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~

菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。 だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。 車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。 あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

あまやかしても、いいですか?

藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。 「俺ね、ダメなんだ」 「あーもう、キスしたい」 「それこそだめです」  甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の 契約結婚生活とはこれいかに。

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...