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好きはひとつじゃない
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しおりを挟む「――はい、休憩入ります!」
都心から離れた島でのロケはとても順調だった。
「あの子、いい子だね。最近名前を聞くようになったけど、アキだっけ?」
「歌とか出してるみたいですねー」
「へえ、割と面白いコメントしてくれるし、使いやすくていいな」
「まず、顔がいい」
「それね」
あちこちからアキくんの評価が聞こえてくる。
この現場には大物を何十人も相手してきたスタッフと、大物本人ばかりいた。
新人のアキくんに向ける目は厳しくなると見ていたけれど、この様子なら無事に十日間を乗り切れるに違いない。
(自分の担当している人の評価を肌で感じるって、いいな)
一般的にマネージャーというのは、複数人を担当する。
だけど私はアキくんしか担当しておらず、おかげでどんな現場にもべったりくっついてまわることになっていた。
一人だけしか担当しないのは経験が足りないからかと思っていたけれど、有沢さんの口利きによるものなら、こういう瞬間をきちんと味わわせるためなんじゃないだろうか。
自分に自信をつけて、胸を張って仕事をする。
それがあの人の信条だった。
「志保ちゃん、お水」
「はい、どうぞ」
汗を拭ったアキくんにペットボトルを差し出す。
いい飲みっぷりに回りがほうっと息を吐いたのが見えた。
「これ、タオルです。風邪引いちゃうので汗を拭っておいてください」
「志保ちゃんにやってほしいとか思ったりして」
「そのぐらい自分でやってください」
ありがたいことに、あれからアキくんは神宮寺さんのことを聞いてこない。
今も私が拒否したからか、不満げな顔をしながらも汗を拭っている。
「ここで見ていましたが、周りの評価もいいみたいです。オンエアされたときの反応が楽しみですね。またファンが増えるかも」
「別に。ファンとか割とどうでもいいよ」
「そういうことを言っちゃだめです」
「志保ちゃんがいいって思ってくれるなら、それで充分なんだよねぇ」
「いい加減マネージャー離れしないと、担当が変わったときに困りますよ」
「変わらせないもーん。そういうわがまま言うために頑張ってるとこあるし?」
「わがままのためですか……」
「そ。マネージャーを俺だけの専属にして、おはようからおやすみまで面倒見てもらうの」
「そうなったら、その分の給料はアキくんに出してもらいますね」
「え、出す出す。朝ご飯作ってほしいって言ったら、プラスおいくら?」
「百万円くらいですね」
「たっか!」
大げさな反応に、一緒になって笑ってしまう。
やや癖のある人だけど、明るくて楽しい。応援したいという気持ちを素直に抱ける。
「ふふふ、残り期間も頑張りましょうね」
「任せてよ。朝ご飯、絶対作らせてみせるから」
そこにスタッフから声がかかる。
アキくんからペットボトルとタオルを受け取り、背中を見送った。
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