【R18】きみを抱く理由

さくら蒼

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なにも見えない振りをする

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「――あの、もしもし」

 駅に向かいながら、初めて自分から神宮寺さんに連絡を入れる。
 仕事が終わったら電話しろ、とメールが入っていた。

「今、どこにいる?」

 すぐに声が聞こえた。
 鼓膜をくすぐるような低い声に、知らず、胸がざわつく。

「駅に向かっているところです。……お時間大丈夫ですか? 急ぎの話ではないので、また明日でも構わないんですが」
「そっちに行く」
「えっ」

 聞き返そうとしたときにはもう、電話が切れている。

(……あの人、割と人の話を聞かないよね)

 呆れと一緒に、仕方がない人だと口元が緩む。
 つーつー、と悲しい音を立てる携帯を切り、少し足を速めた。


 駅に着くと、既に神宮寺さんが待っていた。

「神宮寺さんも帰るところだったんですか?」
「いや? 時間を潰していただけだ」
「ん? なにかあったり……?」
「そういう古典的な質問はいい。……君を待っていたに決まっているだろう」
「……え」

 どき、と鼓動が大きな音を立てる。

(一緒に帰りたいから待ってた……とか。だから私の連絡を待って……?)

 期待してしまったけれど、速攻でその考えを振り払った。

「……週末だからですね」
「うん? まあ、そうだな」
「……遅くなるかもしれなかったのに、わざわざ待っていたなんて」
「会いたかったから」

(……心臓に悪い)

 この人にとって大した発言ではないのだろうけれど、私には充分刺激の強い言葉である。

「で、君の話はなんだ」
「……あ、それなんですが」

 有沢さんからの話を伝え、十日間は会えないことを言う。

「……その間、あの男と一緒か」
「アキくんですか? そうですね、いろいろと面倒を見てあげないと」
「まるで保護者だな」

 ややトゲのある言い方にむっとする。

「保護者じゃなくてマネージャーです」
「そんなに過保護なマネージャーがいるか」
「ここにいます」
「君がそこまでする必要はない」
「どうしてあなたに決められなきゃいけな――」

 言い返そうとしたのに、顎をすくいとられ、キスされる。

「話がそれだけならもういい。十日会えないんだろ。時間がもったいない」
「……っ、あ」

 逃がさないとでも言うように手首を掴まれ、引っ張られてしまう。

(……自分のことばっかり)

 文句を言いたいけれど、飲み込んでしまった。
 求めているのは私も同じだったから。


 ホテルに連れ込まれて、ベッドになだれ込む。
 すぐに荒っぽく唇を塞がれると、そのまま組み敷かれた。

「んっ……待っ……服……皺になる、から……」
「待てない」
「あ……っ……」

 自分で服を脱ぐ猶予さえ与えてもらえない。
 急いた手つきでシャツのボタンをはずされ、下着も奪われた。

「っ……」

 素肌に唇が触れる。
 ちゅ、と聞こえた音に自分でぞくりとしてしまった。

「……っ、ちょ、だめです……っ」

 ちりりと走った痛みに驚き、神宮寺さんの肩を掴む。
 自分からはよく見えないけれど、きっと胸元に痕が残っているだろう。

「誰かに見られたら……」
「普通に恋人がいるんだと言えばいい。なんの問題がある?」
「説明しなきゃいけないのは私なんですよ」
「悪くないな。俺も君の口から聞きたい」
「……なにをですか?」
「誰が恋人なのかを」

 言ってみろ、と唇を指でなぞられる。
 望みを叶える代わりに、その指を軽く噛んだ。

「こら」
「いつも言いなりにできると思ったら大間違いです」
「なるくせに」
「……今日はなりません」
「無理だな」

 私も無理だと思う、とは言わない。
 だっていつも主導権を奪われて好き勝手されるだけなんて、悔しすぎる。

「……ん、ぅ」

 痕を付けて満足した唇が徐々に下へ降りる。
 ぬる、と這った舌が鎖骨から胸のふくらみへ向かった。
 下着を奪われたせいでさらされたそこに、ゆっくりと。焦らすように。

「っ……ん」

 一番感じてしまう場所には触れてこない。
 頂にそって伝い、ぎりぎりかすめる程度に済ませては離れていく。
 直接触れられたわけでもないのに、もうしっかり身体は反応を示していた。
 むしろ、早く触れろと言わんばかりに胸の先が存在を主張している。

「……どうしてほしい?」

 吐息が、声が、刺激を求めるそこをくすぐっていく。

「し……知りません……」
「じゃあ、俺も知らない」

 思い通りにさせたくないと思うのは、精一杯の抵抗だった。
 契約の関係なら、この時間は遊びに過ぎない。
 お互いの身体に宿る熱を発散させるだけのスポーツと言ってもいい。

(好きなんかじゃ、ない)

 本気にはならないし、なるつもりもない。
 触れられて嬉しいのは、心ではなく身体が求めているから。
 自分に言い聞かせて、あくまでも対等な立場であることを知らしめるように唇を噛む。
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