【R18】きみを抱く理由

さくら蒼

文字の大きさ
上 下
20 / 81
なにも見えない振りをする

しおりを挟む

「――あの、もしもし」

 駅に向かいながら、初めて自分から神宮寺さんに連絡を入れる。
 仕事が終わったら電話しろ、とメールが入っていた。

「今、どこにいる?」

 すぐに声が聞こえた。
 鼓膜をくすぐるような低い声に、知らず、胸がざわつく。

「駅に向かっているところです。……お時間大丈夫ですか? 急ぎの話ではないので、また明日でも構わないんですが」
「そっちに行く」
「えっ」

 聞き返そうとしたときにはもう、電話が切れている。

(……あの人、割と人の話を聞かないよね)

 呆れと一緒に、仕方がない人だと口元が緩む。
 つーつー、と悲しい音を立てる携帯を切り、少し足を速めた。


 駅に着くと、既に神宮寺さんが待っていた。

「神宮寺さんも帰るところだったんですか?」
「いや? 時間を潰していただけだ」
「ん? なにかあったり……?」
「そういう古典的な質問はいい。……君を待っていたに決まっているだろう」
「……え」

 どき、と鼓動が大きな音を立てる。

(一緒に帰りたいから待ってた……とか。だから私の連絡を待って……?)

 期待してしまったけれど、速攻でその考えを振り払った。

「……週末だからですね」
「うん? まあ、そうだな」
「……遅くなるかもしれなかったのに、わざわざ待っていたなんて」
「会いたかったから」

(……心臓に悪い)

 この人にとって大した発言ではないのだろうけれど、私には充分刺激の強い言葉である。

「で、君の話はなんだ」
「……あ、それなんですが」

 有沢さんからの話を伝え、十日間は会えないことを言う。

「……その間、あの男と一緒か」
「アキくんですか? そうですね、いろいろと面倒を見てあげないと」
「まるで保護者だな」

 ややトゲのある言い方にむっとする。

「保護者じゃなくてマネージャーです」
「そんなに過保護なマネージャーがいるか」
「ここにいます」
「君がそこまでする必要はない」
「どうしてあなたに決められなきゃいけな――」

 言い返そうとしたのに、顎をすくいとられ、キスされる。

「話がそれだけならもういい。十日会えないんだろ。時間がもったいない」
「……っ、あ」

 逃がさないとでも言うように手首を掴まれ、引っ張られてしまう。

(……自分のことばっかり)

 文句を言いたいけれど、飲み込んでしまった。
 求めているのは私も同じだったから。


 ホテルに連れ込まれて、ベッドになだれ込む。
 すぐに荒っぽく唇を塞がれると、そのまま組み敷かれた。

「んっ……待っ……服……皺になる、から……」
「待てない」
「あ……っ……」

 自分で服を脱ぐ猶予さえ与えてもらえない。
 急いた手つきでシャツのボタンをはずされ、下着も奪われた。

「っ……」

 素肌に唇が触れる。
 ちゅ、と聞こえた音に自分でぞくりとしてしまった。

「……っ、ちょ、だめです……っ」

 ちりりと走った痛みに驚き、神宮寺さんの肩を掴む。
 自分からはよく見えないけれど、きっと胸元に痕が残っているだろう。

「誰かに見られたら……」
「普通に恋人がいるんだと言えばいい。なんの問題がある?」
「説明しなきゃいけないのは私なんですよ」
「悪くないな。俺も君の口から聞きたい」
「……なにをですか?」
「誰が恋人なのかを」

 言ってみろ、と唇を指でなぞられる。
 望みを叶える代わりに、その指を軽く噛んだ。

「こら」
「いつも言いなりにできると思ったら大間違いです」
「なるくせに」
「……今日はなりません」
「無理だな」

 私も無理だと思う、とは言わない。
 だっていつも主導権を奪われて好き勝手されるだけなんて、悔しすぎる。

「……ん、ぅ」

 痕を付けて満足した唇が徐々に下へ降りる。
 ぬる、と這った舌が鎖骨から胸のふくらみへ向かった。
 下着を奪われたせいでさらされたそこに、ゆっくりと。焦らすように。

「っ……ん」

 一番感じてしまう場所には触れてこない。
 頂にそって伝い、ぎりぎりかすめる程度に済ませては離れていく。
 直接触れられたわけでもないのに、もうしっかり身体は反応を示していた。
 むしろ、早く触れろと言わんばかりに胸の先が存在を主張している。

「……どうしてほしい?」

 吐息が、声が、刺激を求めるそこをくすぐっていく。

「し……知りません……」
「じゃあ、俺も知らない」

 思い通りにさせたくないと思うのは、精一杯の抵抗だった。
 契約の関係なら、この時間は遊びに過ぎない。
 お互いの身体に宿る熱を発散させるだけのスポーツと言ってもいい。

(好きなんかじゃ、ない)

 本気にはならないし、なるつもりもない。
 触れられて嬉しいのは、心ではなく身体が求めているから。
 自分に言い聞かせて、あくまでも対等な立場であることを知らしめるように唇を噛む。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

忙しい男

菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。 「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」 「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」 すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。 ※ハッピーエンドです かなりやきもきさせてしまうと思います。 どうか温かい目でみてやってくださいね。 ※本編完結しました(2019/07/15) スピンオフ &番外編 【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19) 改稿 (2020/01/01) 本編のみカクヨムさんでも公開しました。

お酒の席でナンパした相手がまさかの婚約者でした 〜政略結婚のはずだけど、めちゃくちゃ溺愛されてます〜

Adria
恋愛
イタリアに留学し、そのまま就職して楽しい生活を送っていた私は、父からの婚約者を紹介するから帰国しろという言葉を無視し、友人と楽しくお酒を飲んでいた。けれど、そのお酒の場で出会った人はその婚約者で――しかも私を初恋だと言う。 結婚する気のない私と、私を好きすぎて追いかけてきたストーカー気味な彼。 ひょんなことから一緒にイタリアの各地を巡りながら、彼は私が幼少期から抱えていたものを解決してくれた。 気がついた時にはかけがえのない人になっていて―― 表紙絵/灰田様 《エブリスタとムーンにも投稿しています》

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~

吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。 結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。 何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

甘い束縛

はるきりょう
恋愛
今日こそは言う。そう心に決め、伊達優菜は拳を握りしめた。私には時間がないのだと。もう、気づけば、歳は27を数えるほどになっていた。人並みに結婚し、子どもを産みたい。それを思えば、「若い」なんて言葉はもうすぐ使えなくなる。このあたりが潮時だった。 ※小説家なろうサイト様にも載せています。

処理中です...