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誰も知らない
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――志保を家に送り届けた後、俺はすぐ自宅へ向かった。
部屋の電気もつけずにソファへ腰を下ろし、溜息を吐く。
「……あのガキ」
苦々しい思いを向けるのは、もちろんいいタイミングで現れたアイドルのアキである。
マネージャーの志保と一日中過ごしていられる、彼女にとっての特別な存在。
舌打ちが漏れた。
(俺の方が先だ)
一度、志保のいないときに話したことがある。
――ずっと探していた彼女を見つけて、その名前をスタッフから聞いていたときのことだった。
アキはにこやかに笑いながら、しかし目だけは探るようにして、志保に興味があるのかと尋ねてきた。
撮影の邪魔をしたのは自分だから、志保にクレームを入れるような真似はやめてほしい、と続けて。
それに対して「関係ない」と言ったのに、アキは引かずに踏み込んできた。
――志保ちゃんは俺のだよ。
あれがお気に入りのマネージャーを守るための言葉だと判断できるなら、こんな焦燥感は覚えていない。
しかし、そんなかわいらしいものではなかった。
手を出すな――とあそこまではっきり匂わせていたのだから。
あんなキャラをしておいて、ずいぶんと過激な本性をしているらしい。
今まで何度あんな風に牽制したのか考えるつもりはないが、きっと志保の知らないところでいろいろと動いているのだろう。
そう思わせるようなやり取りだった。
(……ようやく見つけられたのにな)
暗い天井を見上げ、額に手を当てる。
彼女は知らない。
なぜ、『相模志保』でなければならなかったのかを。
(あと二ヶ月か)
偽物の恋人として自分に縛り付けられるなら、なんでもよかった。
もっと三ヶ月というのは長いものだと思っていたのに、気が付けば既にひと月が過ぎている。
(……抱くつもりはなかったんだが)
目を閉じれば、戸惑いながらも甘えてくる志保の顔が浮かんでくる。
初めて夜を共にしたあの瞬間から、瞳に、脳に焼き付いてしまった。
三ヶ月だけなのだから過ちは一度だけで終わらせておくべきだと思ったのに、やっと手に入れられたとなると、もうその熱を忘れられなくて。
何度も、何度も、彼女に自分の体温を刻み付けた。
「…………ガキは俺の方か」
その気だったのをアキに邪魔されてしまったのもあり、思い出しただけで身体が彼女を求め始める。
思春期の学生のようだと考えて、ひと月前からまったく自分自身が思い通りにならないことを思い知る。
初めて求めてしまったあの夜。
彼女があんな表情を見せなかったら。
吐息の流れを感じられるほどの距離にいなかったら。
その直前で、触れていなかったら。
(……クソ)
出会ってから何度吐き捨てたかわからない思いを、今日も暗闇に落とす。
――こんな形で捕らえたくはなかった、と悔いた。
――志保を家に送り届けた後、俺はすぐ自宅へ向かった。
部屋の電気もつけずにソファへ腰を下ろし、溜息を吐く。
「……あのガキ」
苦々しい思いを向けるのは、もちろんいいタイミングで現れたアイドルのアキである。
マネージャーの志保と一日中過ごしていられる、彼女にとっての特別な存在。
舌打ちが漏れた。
(俺の方が先だ)
一度、志保のいないときに話したことがある。
――ずっと探していた彼女を見つけて、その名前をスタッフから聞いていたときのことだった。
アキはにこやかに笑いながら、しかし目だけは探るようにして、志保に興味があるのかと尋ねてきた。
撮影の邪魔をしたのは自分だから、志保にクレームを入れるような真似はやめてほしい、と続けて。
それに対して「関係ない」と言ったのに、アキは引かずに踏み込んできた。
――志保ちゃんは俺のだよ。
あれがお気に入りのマネージャーを守るための言葉だと判断できるなら、こんな焦燥感は覚えていない。
しかし、そんなかわいらしいものではなかった。
手を出すな――とあそこまではっきり匂わせていたのだから。
あんなキャラをしておいて、ずいぶんと過激な本性をしているらしい。
今まで何度あんな風に牽制したのか考えるつもりはないが、きっと志保の知らないところでいろいろと動いているのだろう。
そう思わせるようなやり取りだった。
(……ようやく見つけられたのにな)
暗い天井を見上げ、額に手を当てる。
彼女は知らない。
なぜ、『相模志保』でなければならなかったのかを。
(あと二ヶ月か)
偽物の恋人として自分に縛り付けられるなら、なんでもよかった。
もっと三ヶ月というのは長いものだと思っていたのに、気が付けば既にひと月が過ぎている。
(……抱くつもりはなかったんだが)
目を閉じれば、戸惑いながらも甘えてくる志保の顔が浮かんでくる。
初めて夜を共にしたあの瞬間から、瞳に、脳に焼き付いてしまった。
三ヶ月だけなのだから過ちは一度だけで終わらせておくべきだと思ったのに、やっと手に入れられたとなると、もうその熱を忘れられなくて。
何度も、何度も、彼女に自分の体温を刻み付けた。
「…………ガキは俺の方か」
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初めて求めてしまったあの夜。
彼女があんな表情を見せなかったら。
吐息の流れを感じられるほどの距離にいなかったら。
その直前で、触れていなかったら。
(……クソ)
出会ってから何度吐き捨てたかわからない思いを、今日も暗闇に落とす。
――こんな形で捕らえたくはなかった、と悔いた。
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