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余計なことしか言わない人たち
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しおりを挟む「志保ちゃーん」
「その呼び方はやめてください」
相変わらずなアキくんを注意する。
あれからひと月経つけれど、幸い高橋による妨害などは見受けられない。
やっぱり神宮寺さんの存在を無視できなかったのだろう。
敵に回してはいけないタイプ、という点では、私も高橋も考えが一致している。
「志保ちゃんさ、なんか前と違う匂いするよね」
「……え」
不意にアキくんからそう言われ、ほとんど無意識に引いてしまった。
「あ、めっちゃドン引きされてる」
「……匂いなんて言い出すからです」
「だって違うし。シャンプー変えた?」
「セクハラですよ」
「アイドルはセクハラなんてしませーん」
けらけら笑うアキくんを受け流す。
「こんだけ一緒にいるとさ、いろいろわかってくることもあるじゃん? 髪切ったんだなー、とか、新しいスカート履いてるなー、とか」
「セクハラじゃなくてストーカーですね」
「あはは。志保ちゃんってそんな冷たかったっけ?」
「今まで通りですよ。……それより、スケジュールの確認は終わったんですか?」
「終わってる終わってる。ばっちりだから」
(本当かな……)
額を押さえ、アキくんに渡していたスケジュール表を受け取る。
なにをするかによってきっちり色分けしたそれは、アキくんの方から作ってほしいと頼まれたものだった。
自分がどこでなにをするのかわかる方がやりやすい、ということで私も引き受けたけれど、そろそろ甘やかすのはやめた方がいいかもしれない。
「そういえば、こないだ神宮寺さんと話したんだけど」
ぎくり。
今、私が感じた気持ちを擬音にするならそれがふさわしい。
「あの人、やっぱ怖いねぇ。やたら睨んでくるし、なんできゃーきゃー言われてんのかわかんない」
「……言われてるんですか?」
「俺の次くらいにー」
「そういうの、反応に困ります」
「え、なんで?」
またアキくんが笑う。やっぱり扱いが難しい。
「でも、今度俺のことを撮ってもいいって言ってたよ」
「えっ? そんな話、こっちには来ていませんが」
「志保ちゃんからお願いするんじゃないの? うちのアキくんをよろしくお願いしますーって」
「ああ、そういう……」
アキくんを撮りたがっているのではなく、あくまで撮ってやってもいいという意味なのだろう。
そう思ってもらえているのはありがたいけれど、今のあの人との関係を考えると、そのお願いをするのは少々抵抗がある。
「俺も撮られてみたいし? お願いしまーすってしといて」
「……わかりました。忙しい方ですし、すぐには難しいかもしれませんが」
「融通利かせてくれたりしないかなぁ」
(……ない、と思いたい)
アキくんにはもちろん、周りの誰にもいまだに神宮寺さんとの関係を気付かれていない。
三ヶ月だけということで、これからも言うつもりはないけれど、万が一、この関係を仕事に持ち込んだら大変なことになるだろう。
と言うより、私が持ち込みたくない。
(これでアキくんに融通を利かせてもらったら、枕営業と変わらない。……ベッドを共にする相手が、高橋さんから神宮寺さんに変わっただけなんて絶対に思いたくないし)
どう撮影の依頼をするか考えていると、やや場違いな明るいメロディが流れた。
「はーい、もしもしー?」
アキくんが置いてあった携帯を手に取り、耳に当てる。
(私的なやり取りは仕事中、控えてねって言ったのに)
また後でお説教が必要かもしれない。
楽しそうに電話するアキくんの横でそんな風に思った。
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