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『どこまで』するの?
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(え――)
消え入りそうな声で名前を呼ばれ、キスをされる。
「ん、んん」
二度、三度と突き入れられた後、神宮寺さんが息を止めた。
びく、とその肩が痙攣し、解放された唇が新鮮な空気を取り入れる。
「……は」
お互い、ほとんど同時に息を吐きだした。
まだ繋がったまま見つめ合い、どちらからともなく唇を触れ合わせる。
心地よい疲れに浸りながらも、少し心配だった。
「……ごめんなさい」
「うん?」
「されるばっかりで、満足させられなかったと思います」
「なにを言っているんだ、君は」
ずる、と中から引き抜かれる感触に身体を震わせる。
「満足していなかったら、こんなに出すものか」
こんなに、が、どんなに、かは知らない。
神宮寺さんも見せてくれなかった。
まあ、見せられても反応に困るというのはある。
「あんまり気にするな」
ぐったりとシーツに沈んだ私へ、神宮寺さんが笑いかける。
「君を満足させるのは俺の仕事だが、俺を満足させるのは君の仕事じゃない」
「……そうなんですか?」
「自分のことは自分でやる」
突き放すような素っ気ない言葉が胸を刺した。
反応に困っていると、汗で額に張り付いた前髪をかき上げられる。
「君はおとなしく俺に甘やかされていればいい」
今日されたどのキスよりも甘いキスが額に触れる。
本物の恋人でもないのに、なんという声で囁いてくるのか。
ついさっき名前を呼んだ声も、今のとろけそうな声も、私の心に刻み込まれる。
逃げられないよう、縛られたようにさえ感じた。
(好き合ってるわけじゃないのに……)
まだ異物感の残る身体の奥がずくんと疼いた。
――パシャ、と聞き覚えのある音が聞こえた。
閉じていた瞼を緩慢に開けると、カメラを構える神宮寺さんの姿がある。
「え……」
「おはよう」
片方の手は繋がっていた。
たった今、私の寝顔を撮った張本人と。
「こんなに気持ちよさそうに眠る人は初めて見た。いい写真を撮らせてもらったよ」
「な――にを撮ってるんですか……!」
慌ててカメラを取り上げようと起き上がったけれど、ぱさりと身体を覆う毛布が落ちたのを見て、すぐ胸元を隠す。
(私……この人と『した』んだった)
あの後、初めてのことであまりにも疲れたからか、ぐっすり眠ってしまっていた。
シャワーも浴びず、本当にした後そのままの状態で朝を迎えたのはわかっている。
なのに、神宮寺さんはそんなあられもない瞬間を撮ったのだ。
「写真家に撮るなはないだろう。これから三ヶ月、好きなだけ好きなときに撮影したいから契約したんだぞ」
「もう少し時と場所を考えてください!」
「俺の知ったことじゃないな。撮影するチャンスがあるのに、みすみす見逃せと?」
「チャンスにも種類があるじゃないですか! せめて服を着ているときにしてください……!」
「次からは考えておこう。……まあ、もう遅いが」
「えっ」
「三十分前には起きていたからな」
はっと神宮寺さんの持つカメラに目を向ける。
三十分前から起きていたという事実。そしてたった今、私のあられもない写真を撮っていたという事実――。
「何枚撮ったんですか……?」
震える声で尋ねると、鼻で笑われた。
私の欲しかった答えは返ってこない。
「全部ちゃんと消してくれますよね? 後で変なところに流したりしませんよね?」
「君の今後の態度次第だな」
「なっ……!」
(じゃあ、気に入らないことをしたら……?)
リベンジポルノという言葉が脳裏によぎる。
最悪の展開を想定してぞっとした。
「高橋さんより神宮寺さんの方が、よっぽど悪どいです」
「せっかく助けてやったのに、ひどい言いようだな」
「だって、は……裸の写真を撮ってるなんて……」
「君が寝ているのが悪い」
まったく悪びれずにカメラを触り始めたのを見て、最大級の失敗をしてしまったんじゃないかと絶望する。
少なくとも私はあのカメラを粉々にするまで自由がない。
そしてそのカメラは神宮寺さんが仕事でも使っている大事なものだろう。壊せばどれだけの損害になるのか、考えるだけで恐ろしい。
つまり、もう『詰み』だった。
「なにかあったら訴えますから……」
「変な心配はしなくていい」
カメラを置いた神宮寺さんが私の肩を抱き寄せる。
そして、耳元で蠱惑的に囁いた。
「恋人を傷付ける男なんているはずないだろう?」
人の全裸写真を撮っていた人がよく言う、と言い返したかったのに、その囁きだけで昨夜の熱を思い出し、声が出てこない。
ひたすら俯いて忘れようとしていると、毛布の上から身体を撫でられた。
「君はもう、俺のものだ」
恋人だ、ではなく所有物だと示すその発言に、神宮寺さんの性格が出ている気がした。
優しく気遣ってくれる人だと思ったのは、きっとなにかの間違い。やはり周りから噂されていた通り、性格面に難のある人なのだろう。
「……好きにしてください、もう」
「俺にそう言うとどうなるか、昨日理解したんだと思っていたが」
ぎょっとして身を引こうとした。
その前に腰を抱かれ、逃げ道を奪われる。
「好きにさせてもらおうか?」
嘘でしょう――と言いかけた唇を塞がれ、シーツの上に押し倒される。
大人の夜を知ったばかりの身体は、再び甘い快楽に沈んでいった。
消え入りそうな声で名前を呼ばれ、キスをされる。
「ん、んん」
二度、三度と突き入れられた後、神宮寺さんが息を止めた。
びく、とその肩が痙攣し、解放された唇が新鮮な空気を取り入れる。
「……は」
お互い、ほとんど同時に息を吐きだした。
まだ繋がったまま見つめ合い、どちらからともなく唇を触れ合わせる。
心地よい疲れに浸りながらも、少し心配だった。
「……ごめんなさい」
「うん?」
「されるばっかりで、満足させられなかったと思います」
「なにを言っているんだ、君は」
ずる、と中から引き抜かれる感触に身体を震わせる。
「満足していなかったら、こんなに出すものか」
こんなに、が、どんなに、かは知らない。
神宮寺さんも見せてくれなかった。
まあ、見せられても反応に困るというのはある。
「あんまり気にするな」
ぐったりとシーツに沈んだ私へ、神宮寺さんが笑いかける。
「君を満足させるのは俺の仕事だが、俺を満足させるのは君の仕事じゃない」
「……そうなんですか?」
「自分のことは自分でやる」
突き放すような素っ気ない言葉が胸を刺した。
反応に困っていると、汗で額に張り付いた前髪をかき上げられる。
「君はおとなしく俺に甘やかされていればいい」
今日されたどのキスよりも甘いキスが額に触れる。
本物の恋人でもないのに、なんという声で囁いてくるのか。
ついさっき名前を呼んだ声も、今のとろけそうな声も、私の心に刻み込まれる。
逃げられないよう、縛られたようにさえ感じた。
(好き合ってるわけじゃないのに……)
まだ異物感の残る身体の奥がずくんと疼いた。
――パシャ、と聞き覚えのある音が聞こえた。
閉じていた瞼を緩慢に開けると、カメラを構える神宮寺さんの姿がある。
「え……」
「おはよう」
片方の手は繋がっていた。
たった今、私の寝顔を撮った張本人と。
「こんなに気持ちよさそうに眠る人は初めて見た。いい写真を撮らせてもらったよ」
「な――にを撮ってるんですか……!」
慌ててカメラを取り上げようと起き上がったけれど、ぱさりと身体を覆う毛布が落ちたのを見て、すぐ胸元を隠す。
(私……この人と『した』んだった)
あの後、初めてのことであまりにも疲れたからか、ぐっすり眠ってしまっていた。
シャワーも浴びず、本当にした後そのままの状態で朝を迎えたのはわかっている。
なのに、神宮寺さんはそんなあられもない瞬間を撮ったのだ。
「写真家に撮るなはないだろう。これから三ヶ月、好きなだけ好きなときに撮影したいから契約したんだぞ」
「もう少し時と場所を考えてください!」
「俺の知ったことじゃないな。撮影するチャンスがあるのに、みすみす見逃せと?」
「チャンスにも種類があるじゃないですか! せめて服を着ているときにしてください……!」
「次からは考えておこう。……まあ、もう遅いが」
「えっ」
「三十分前には起きていたからな」
はっと神宮寺さんの持つカメラに目を向ける。
三十分前から起きていたという事実。そしてたった今、私のあられもない写真を撮っていたという事実――。
「何枚撮ったんですか……?」
震える声で尋ねると、鼻で笑われた。
私の欲しかった答えは返ってこない。
「全部ちゃんと消してくれますよね? 後で変なところに流したりしませんよね?」
「君の今後の態度次第だな」
「なっ……!」
(じゃあ、気に入らないことをしたら……?)
リベンジポルノという言葉が脳裏によぎる。
最悪の展開を想定してぞっとした。
「高橋さんより神宮寺さんの方が、よっぽど悪どいです」
「せっかく助けてやったのに、ひどい言いようだな」
「だって、は……裸の写真を撮ってるなんて……」
「君が寝ているのが悪い」
まったく悪びれずにカメラを触り始めたのを見て、最大級の失敗をしてしまったんじゃないかと絶望する。
少なくとも私はあのカメラを粉々にするまで自由がない。
そしてそのカメラは神宮寺さんが仕事でも使っている大事なものだろう。壊せばどれだけの損害になるのか、考えるだけで恐ろしい。
つまり、もう『詰み』だった。
「なにかあったら訴えますから……」
「変な心配はしなくていい」
カメラを置いた神宮寺さんが私の肩を抱き寄せる。
そして、耳元で蠱惑的に囁いた。
「恋人を傷付ける男なんているはずないだろう?」
人の全裸写真を撮っていた人がよく言う、と言い返したかったのに、その囁きだけで昨夜の熱を思い出し、声が出てこない。
ひたすら俯いて忘れようとしていると、毛布の上から身体を撫でられた。
「君はもう、俺のものだ」
恋人だ、ではなく所有物だと示すその発言に、神宮寺さんの性格が出ている気がした。
優しく気遣ってくれる人だと思ったのは、きっとなにかの間違い。やはり周りから噂されていた通り、性格面に難のある人なのだろう。
「……好きにしてください、もう」
「俺にそう言うとどうなるか、昨日理解したんだと思っていたが」
ぎょっとして身を引こうとした。
その前に腰を抱かれ、逃げ道を奪われる。
「好きにさせてもらおうか?」
嘘でしょう――と言いかけた唇を塞がれ、シーツの上に押し倒される。
大人の夜を知ったばかりの身体は、再び甘い快楽に沈んでいった。
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