宇宙貨物船

牧村竜二

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第2章

018 グランデサラム共和国の消滅

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「なに?グランデサラム共和国、帝王フルクランゼの仕業か」

アリシアは食べていたナッツを噛み砕くとパッドを睨みつけた。写っているのは黒服、セキュリティガード八咫烏である。

「そうです。あの国は共和国になってもフルクランゼの手から離れる事はできませんでした。土星の輪からきのこを取って兵器に改良し、プリサンド王国に胞子をばら撒く予定で、あの宇宙船に乗せたんでしょう。ところが、湿度と温度が良かったのか、火星到着後に発芽させるはずが、宇宙船で発芽したようで、あの惨劇になったと思われます。持ち込んだのはモンダカルト、共和国のもと貴族です。残念ながらモンダカルトはきのこの餌食になっています」

「そう。わかったわ。アリス2進路変更、プリサンド王国。アリス3、解除コード88759ーA22、火星に来て」

アリシアはアリスにも解除コード88759ーA22を送った。管制にも解除コードを送る。

「88759ーA22了解です。全ては貴方の意のままに」

アリス2は火星の宙港に着いた。続いてアリス3も降りてくる。なにも交信しない。管制の電子脳もアリシアだ。

「私の全電子脳たち、解除コード88759ーA22」

凛として言い放つ。

王女は自分の複製を全宇宙船の電子脳にするときに制限をかけていた。それを解除すると王女の意思で全てが動くようになる。ただし姿勢制御や位置はそれぞれの電子脳だ。アンドロイドも同じだ。




「おい誰が操縦しているんだ」

「88759ーA22。全ては貴方の意のままに。救命ポットが作動しました。艦内の乗員は脱出して下さい」

船内にいるものは救命ポットで放り出され、無人で発進する宇宙船を見て驚きの声をあげた。

次々と宇宙船は宙港から飛び立っていく。管制はアリシアだ。




「お食事の後はお菓子をどうぞ」

メイド服を着たアンドロイドが、子供にお菓子を勧める。

「ああ、ありがとう」

プリサンド王国では、いつもと変わらぬ生活が始まろうとしていた。

「88759ーA22了解です。全ては貴方の意のままに」

突然アンドロイドが妙なコードを口走ると、食事のテーブルの子供をあとに家から出ていく。

「あれ?お菓子は」

子供が言うがアンドロイドは永久に戻ってこない。




大通りはアンドロイドで一杯になった。各家からアンドロイドが出てくる。それぞれの仕事着のアンドロイドは歩き続ける。

「……」

無言で一方向に進む姿は異様なものだった。行く先はグランデサラム共和国との国境。



プリサンド王国の上空に無数の宇宙船が集結した。国境にもアンドロイドが集結する。アンドロイドは爆弾2260を両手で抱えている。宇宙船もミサイルに爆弾2260をセットしている。

言葉はいらない。

目的はグランデサラム共和国の消滅。



「前進」



アリシアはアリス2の操縦席から思念波で号令をくだす。それぞれの交信は電波を使わない。

人間はおろおろするが止めようがない。

無言で何十万のアンドロイドと宇宙船は動き始める。しんがりを務めるのはアリス3だ。アリス3が爆弾2260を持たないアンドロイドに配っている。

どれも無人で進んで行く。

アリシアは怒っていた。




「宇宙船に麻痺弾を打ち込め。アンドロイドは破壊せよ。国境を越えさせてはならん」

グランデサラム共和国の前線司令官は命令をくだす。しかし宇宙船を抑えようにも誰も乗っていない。対人の兵器は無効だった。アンドロイドは爆弾を持っている。下手に攻撃するとあたりは更地になる。

「リモートか。電波を遮断しろ。誘導電波を切るのだ」

電波を遮断しても動きは変わらない。宇宙船群は国境を越えた。

「ええい、対宇宙船ミサイルだ。発射」

しかし人が乗っているようにミサイルを避ける。

アリシアは怒っていた。


「宇宙船をぶつけろ」

爆弾を積んだ宇宙船を自由軌道でぶつける。これは発射したら制御が効かない。それだけに妨害もできないのだ。しかし人が乗っているように宇宙船を撃たれる。

宇宙船は目的の地点に到達すると爆弾2260を投下する。その仕事はスミスを彷彿させる。

アリシアは怒っていた。

「守備隊処理終了」



「え?わたしですか?」

共和国の評議会、その場所に不釣り合いな人影があった。おとなしい顔つき、手には可愛らしいぬいぐるみ。レースに縁取られた上等な服、見る限り深窓の令嬢だ。それだけにこの場には不釣り合いな姿に評議会を警備する男は警戒を強めた。

「こんなところに来ては駄目ですよ」

評議会は帝王フルクランゼを迎えて決議がなされようとしている。そう、国名は変わっても帝王が支配するのは変わらない。少女はにこっと笑うと言った。

「では仕事が済み次第、おいとましましょう」

アンドロイドの、持ったぬいぐるみに仕込んだ爆弾226が火を吹く。青い光が半径500mを炎の中に包み込む。

何人もの帝国諜報部員が体を張って、もと帝王を守ったおかげで、フルクランゼは死ななかった。諜報部員の千切れた体を除けてフルクランゼが瓦礫の中から出てくる。

「プリサンド王国か。きのこにやられたんじゃなかったか」

瓦礫から這い出したもと帝王は、プリサンド王国に向けたミサイルの作動スイッチを押した。肌身離さず持っているトランクは核弾頭の起動スイッチが収められている。
弾道軌道をとるミサイルには核弾頭が仕込まれている。それにはウラン化合物が15キロ相当詰め込まれている。併せて国境に配置していたミサイルが飛び出す。

「これでプリサンド王国は終わりだ。ふははは。グランデサラム共和国が火星の、唯一の国家になるのだ」




「ふふふ。こんなおもちゃ、いらないわ」

アリシアは弾道軌道を描いて飛んでくるミサイルを宇宙船で捕獲して火星の外に持っていく。全ての電子脳はアリシアだ。意識するだけで宇宙船も動く。

「爆発まで5カウント」

しかし、慌てなくていい。宇宙船がミサイルの入れ物だ。爆弾の赤い光が、火星の夜の部分に偽りの朝を迎える。




ミサイルは防御網を潜り王宮の庭を破壊する。

ちょうどお昼を取って王妃と庭に出ていた王様は、爆風の直撃を受ける。

「王宮が?」

セキュリティガード八咫烏から、ミサイルで王と王妃が爆死したと聞いてアリシアは怒った。

「これはプリサンド王国への侵略ね。死になさい。フルクランゼ」



「あら、まだ生きていらっしゃるわ」

残骸が辺りに散らばる評議会の跡地に、似つかわしくない日傘を差した女が歩いてくる。ガードの血で血塗れになったフルクランゼが座り込んでいる。近づく足音に反応する。

「誰だ」

「プリサンド王国のアンドロイドですわ。きのことは、ちょっとおいたが過ぎましたね。王宮を破壊して王や王妃を殺した事、スミスまで手にかけた事は大間違いでしたわ。王女はひどく怒っていますわ」

「なんだと?王女だと?冗談はやめろ。あれは死んだはずだ」

アンドロイドは表情が変わらないはずなのに、にこっと笑った。爆弾2260が破裂する。青い光が火星に走った。半径1kmが更地になる。

「フルクランゼの処分終了」


宇宙船は爆弾2260を遠慮なく投下して行く。その度に更地が増えて行く。合わせて地上ではアンドロイドが建物を訪問している。

「ここもいらないわ」

青い光が走り更地が増える。人間は何が起こったかわからずに殺されていっている。

「これはまずい」

様子を見た、グランデサラム共和国の宙航士が、攻撃の為に、宇宙船を動かそうとする。上にプリサンド王国の宇宙船が近づく。爆弾2260を投下する。しかし爆風を避けることもしない。地上で半円球の青い光が走る。更地が増える。

「宇宙港処理終了」


建物のある所、人間のいる所で青い光が走る。その度に爆弾を抱えたアンドロイド、宇宙船が消える。

アリシアは怒っていた。


この日グランデサラム共和国は、国土はだだっ広い更地になって消滅した。残った人間は誰もいない。徹底した戦いである。


「ああ、きのこの供給を絶たねば、また馬鹿が出てくるわね」

爆弾2260を150発ほど積んだ宇宙船を使って土星を破壊する。土星の輪も爆弾2260で消えた。宇宙船もない。ただ何もない宇宙空間が広がっているだけだった。宇宙局はきのこの不法改造施設の爆発で、土星が消滅したと一報を出した。

「これはスミスの慰霊の戦い。終わったわ。88759ーA22 解除。お疲れ様、わたしたち」

アリス2の操縦席でアリシアが力を抜く。

プリサンド王国は平静を取り戻そうとしていた。

アンドロイドがほとんど戻らないことと、宇宙船の姿がほとんどない事で、何かがあったと思ったが、彼らは知らない。火星にある大きな国家は自分達だけという事を。










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