The Cross Bond

夜桜一献

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The Radio Girl

第七話

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 綾乃と摩子が部活を結成してから数日が経過したものの思うように人は集まらない。興味を持ってくれる人も何人かはいるものの活動内容がはっきりしないのも一因になっていた。部室の確保もままならない上、このままいけば部活の創設は白紙に戻る。とはいえ、摩子はその方がいいとさえ思っているが。綾乃は真剣に悩んではいるが、部員獲得の手立てが思うようにいかない。放課後の誰も居ない教室で二人は今後について話し合っていた。黒板に摩子が今後どうするべきか?という議題をチョークで書いて綾乃に言及した。

「という訳で、部員が集まらないと何にもならないわ」

「だよねえ・・・どうしよう」

「聞きたいんだけど、この部活作って何がしたいの?」

そういわれて、腕を組んで綾乃が目を閉じて考え始めた。

「うーん。正直な所、同じ価値観を持つ人と一緒に居たかっただけかも。今までは探しても居なかったから私この世で一人だけかと思い込んでたし」

(多分、貴方と同じ価値観を持つ人なんて居ないと思うけど)

そう胸内で突っ込んで尋ねる。

「じゃあ別に、何か黒魔術始めるとかUFO追っかけるとかそれが目的じゃないのね」

「うん、だけど何か私の見てる物を一緒に体験してもらおうかなぁとは考えてるよ」

「ちょっと怖いけど一応聞いておくわ」

「そうだねぇ、幽霊スポット案内とか妖怪の棲家に案内とか」

「UFOの追っかけの方が楽しそうなのは何故かしら」

「多分UFOは待っても来ないけど、本当に色々出るからね」

そういって、綾乃は口元に笑みを浮かべた。

「話を元に戻しましょう。3人目をどうするか、携帯を見た時の様に誰かそれらしい人は居ないの?」

「何人か心当たりは居るんだけど、一人は尻尾を掴ませてくんないし一人は話かけようと思ったら絶対に会わないんだよね」

綾乃が黒板に名前を書いていく。橘 葵(たちばな あおい)、暁 花音(あかつき かのん)

「橘君の家は神社やってるって聞いた事あるけど、この2人の中でいうなら私の直感では暁花音さんね」

摩子は、一度雨の日にすれ違ったのを覚えている。白い髪の毛が綺麗な美少女。小柄で可愛いその容姿ではあったが無表情が少し残念に思える。彼女が自分の前を歩いてようやく、目に映る違和感に気づいた。
その華奢で軽そうな細い体には想像もつかない雨の日のグラウンドの足跡がやけにはっきりしていたのは目を引いた。同じようにぬかるんでいるかと試してみたがあれほど深い足跡はつきようも無かった。その時は、何か鞄に物凄く重たい物でも所持しているのではないかと考えもしなかったが綾乃が名前を書くことでこの事が違和感として今は感じる。家族旅行で魔術師の居る世界に行った経験も要因だった。

「だよね」

「貴方も何か根拠があって?」

「うん、何か生きてる感じしない。
人間でも、幽霊でも、精霊でも、妖怪でもない感じ」

そうきっぱりと答えた。

「そう感じたのなら、貴方の違和感と私の直感は正しいのかもしれない。ただ、私の時みたいに力づくは禁止ね。あんた怖いわ本気で」

「ごめん。だけど他に考えようもなかったと言いますか」

一応手を合わせて謝罪をして、二人の話し合いはそこで打ち切りとなった。後日、花音に話を伺うという方向で決まり、休み時間に教室に向かうと案の定、花音は居なかった。他の人に話しを聞くと先程までそこに居たとの事でおかしな話に摩子と綾乃も揃って首を傾げた。昼休み、放課後になってようやく廊下で花音の後姿を捉えた。二人は勢い良く走って、次の曲がり角で捉えたと思ったが忽然と消えてしまった。廊下に人気はなく、窓は開いているが外にも居ない。

「ね?いっつもそうなんだよ。追いかけようとしたら消えちゃうの」

「私の時みたく魔法使ってるんじゃ?」

「それだと私、変な壁みたいなのが見えるから」

「そうなんだ、逆に見えちゃうんだ」

呆れて、そう答えた。二人が廊下を去った後で、廊下の壁からすっと花音が姿を現す。彼女の周囲にキラキラ光る粒子が下に落ちていく。これは、光の屈折を利用した短時間の光学迷彩を可能にする。

「本日も回避対象の尾行の妨害に成功。サーモグラフィチェック、異常無し。このまま二人の方向とは逆から出ますので、車の位置も同様にお願いします」

そう告げて、彼女は踵を返して学校を出た。
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