一番悪いのは誰

jun

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役立たずの王子の先生

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俺は執務室から見える彼女を見る度に、自分に嫌気がさして吐き気がした。

優秀な兄と聡明な双子の姉。
俺はそこそこな王子。
リンカには良いように使われ、気付けば全てが終わっていた。
何にも手伝えなかった。

経緯も結果も報告は受けた。
処罰を出す際も、ローラ殿の謁見の場にもいた。
だが、謝罪する事も出来なかった。
代表で父、母、兄、フェデリカが謝罪した。
俺も謝罪したかったが、俺は何もしていなくて、それが情けなくて、何も言えなかった。
だからローラ殿が歩けるようになった時、真っ先に祝福し、謝りたいと思った。
だから一瞬でも見逃せないと毎回見ているが、彼女の姿は、俺の適当に過ごしてきた自分の甘さを自覚させるものだった。

俺はあんなに必死に頑張ってきたものが何もない。
どうせやっても兄には敵わない。
俺がやっと兄に並んだと思ったら、とっくに兄は先に行っている。
だからいつしか努力する事を辞めた。
そんな俺だからリンカの魅了にあっという間に落ちたのだろう。
兄の婚約者を自分のものにした、という優越感があったんだと思う。

今考えると情けないし、恥ずかしい。

そんな自分だから彼女の姿は俺の劣等感を刺激する。
そして俺の罪悪感を膨らます。

「ハア~何やってんだろ、俺…」

俺の側近は軒並みいなくなった。
俺と同じでリンカに心酔し、フェデリカとファビオの噂を流して側近を外された。
新しく側近を付けねばならないが、なかなか見つけられない。
なのでこの執務室には俺しかしない。
兄の補佐として執務をしているが、一人でやるにはキツイ。

彼女はまだ頑張っている。
何度も諦めず自分が納得出来るまで繰り返している。

「なら、俺もやるしかないよな。」

俺も頑張るしかないと机に向かった。

毎月彼女の頑張りを見ると、やる気が出た。
彼女も頑張っているのだと、俺だけが辛いのではないと教えてくれる彼女は、いつの間にか俺の先生のような存在になった。

彼女は立つ事、足を動かす事、数歩歩く事ができるようになり、杖を使ってだが、歩けるようになった。
そこまでいくのに一年半かかった。

その間に俺も仕事の要領も覚え、最初の頃よりかなりの量をこなせるようになった。
自分で改良点も見つけ、兄上に進言する事も増えた。
特に魅了対策に力を入れた。
魅了の被害者の救済措置についての法の改正にも尽力した。
俺の側近達は魅了に惑わされ、婚約者を傷つけてきた。
そのような婚約者などが泣き寝入りする事がないよう法を改正し、魅了の告知義務と国からの慰労金の配布、魅了を使った者に対する量刑を反逆罪と同等とものとした。
魅了にかかった者に対しても解除後の精神的ケアなどにも力を入れた。

今回の被害者には俺達王族の私財から払う事となった。


そして今日、ローラ殿の休憩に俺が同席する許可を得た。
杖は使うが、人の手を借りず歩けるようになったローラ殿は、あの謁見の時に言っていた、“褒めてもらう”という約束を果たしてもらう為に、順番に休憩時、お茶に同席してもらう事にしたと連絡がきた。

一番最初が俺だった。
緊張して喉がカラカラだ。

「ジーノ様、唇がカサカサです。
お茶でも飲んで、少し私とお話しして下さいますか?」

「あ、はい。ありがとうございます!」
と何故だかお礼を言ってしまった俺は、お茶を一気に飲んで喉を潤した。

二杯目のお茶を注がれた後、ローラ殿が話し始めた。

「やっと杖を使ってですが、一人で歩けるようになりました。
ジーノ様は見ていて下さいましたか、これまでの私を。」

「はい、ずっと見ていました。
ローラ殿が立つ練習の時から、ずっと見ていました。
俺は…今まで諦めていました…。
優秀な兄と姉には敵わないと、努力しても追いつけないと勝手に僻んで逃げていました。
そんな俺は誰よりも早くリンカの魅了に落ちました。
解除された後も、何も手伝う事が出来ませんでした…。
何かしたいのに、何をしたらいいのか分からなかったんです…。

貴方の姿を見て、最初は苦しかった…。
自分の未熟さと幼稚さに気付かされて見るのが辛かった。
貴方に謝る事も出来なかった俺は、貴方が歩けるようになった時、真っ先に謝罪しようと決めてからは、見逃さないよう毎回窓に張り付いて見ていました。

頑張る貴方の姿を見て、俺の中でいつしか貴方は“先生”になっていました。
俺にはたくさんの教師がいましたが、生き方を教えてくれる教師はいなかった。
貴方は俺の生き方を教えてくれた先生です。

今更ですが、リンカを増長させ、貴方を傷付けてしまったこと、申し訳ありませんでした。
そして、俺の進む道を教えてくれてありがとうございました。
貴方の頑張る姿は、王宮中に良い影響を与えてくれました。
これからも努力は続くと思いますが、貴方はこの一年半、誰よりも頑張っていました。

私達を導いて下さり、ありがとうございました。」

「謝罪より、やっぱり“ありがとう”や“頑張りました”の方が嬉しいですね。
ジーノ様に褒められたと自慢します。
そして、この一年半のジーノ様のご活躍は主人からも聞いております。
とても素晴らしいと思います。

ジーノ様もよく頑張りました!」

そう言ってローラ殿は笑ってくれた。

俺は泣いた。
嬉しくて泣いた。
誰よりも頑張っていた人に、“頑張った”と褒めてもらえた事が何より嬉しかった。

ローラ殿はそんな俺の背中をずっとトントンしてくれていた。


「まだここには来ますけど、またお茶、飲んでくれますか?」

俺は喋れなくて、頷いた。




また“先生”に褒めてもらう為に頑張ろうと思った。














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