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騎士の応援
しおりを挟む俺は近衛隊の騎士をやっている。
ついこの間までやりたくもない妃殿下の専属護衛だった。
ほんっとに、ほんっとに、あの人が嫌いだった。
目つきも、匂いも、触り方も吐き気がするほど嫌いだった。
なのにあの人専属になった時、騎士を辞めようと思った。
止めてくれたのが隊長と副隊長だった。
「俺も妃殿下は嫌いだ。
目も合わさない。けど仕事は仕事だ。
だから全て仕事のせいにして、妃殿下の要求を断れば良い。
俺の名前を出しても構わない。
極力近付かないよう、逃げ回れ。」
と隊長が言い、
「俺もあの人は大嫌いだ。
一度も目を合わせた事もないし、要求に応えた事もない。
“仕事中です”、“イヴァン様に呼ばれていますので”、“この後交代です”、しかあの人とは話した事ないぞ。
ロレンもそれで乗り切れ。」
と副隊長に教えてもらった。
そして隊長の婚約者のローラ様からの差し入れのハンカチをもらった。
ローラ様は俺の顔色の悪さが気になったのか、騎士隊に来た時、真っ直ぐに俺の所に来た。
「ロレン様、大丈夫ですか?顔色がとても悪いです。
もし宜しければ、このハンカチをお待ち下さい。お守り代わりに毎日持ち歩いて下さいね。少し体調も良くなると思います。」
と俺にハンカチを二枚もくれた。
そのハンカチを持つようになって、劇的に体調が良くなった。
気持ち悪さも楽になった。
それからは気持ち悪くなる度ローラ様から貰ったハンカチを顔に当てた。
ローラ様には本当に助けて頂いた。
そのローラ様が、あの人のせいで大怪我をしたと聞いた時、俺は怒りに震えた。
何もしていないローラ様を、ただ隊長を籠絡したいが為に殺そうとするなんて許せなかった。
そのせいでローラ様は足に麻痺が残ってしまった。
聖女様のお力で少しずつ麻痺を無くしていくようだが、かなりの年数がかかるだろう。
筋肉を落とさない為の運動も、歩く訓練も凄まじいものだろう、どれほどローラ様はお辛いだろうと思っていた。
ローラ様は俺達に怒っていた。
何をしていたんだと、こんなに人間がいてどうしてここまで放置したんだと怒っていた。
確かにそうだった。
ただあの人から逃げていた俺は、何か変だ、嫌だと分かっていたのに何もしなかった。
隊長も副隊長もだ。
謝罪はいらないから、王宮庭園への立ち入り許可を望んだローラ様は、そこで自分の姿を見ていてほしいと言った。
妃殿下を放置していたせいで私が歩けなくなった事を嘆くのなら、月に一度自分の姿を見て二度と起きないよう魅了への対策を練ってほしいと望んだ。
そして歩けるようになったら、みんなで褒めてほしいと言った。
それからローラ様は庭園に月に一度現れた。
俺はその日は必ずローラ様を見に行った。
立つ事すらできなかったローラ様が立てるようになった時は思わず拍手してしまった。
ふと見ると、離れた所で庭師の爺さんも応援しているようだ。
気に入らないのは、たまに現れる“影”だ。
ローラ様に付いている“影”はローラ様が転びそうになるとローラ様を助けて、すぐいなくなる。
俺だって助けたいのに!
こんな事なら近衛ではなく“影”になれば良かった!
そして三回目でローラ様の足は動いた。
ほんのちょっとだけど、確かに動いた。
普通だったら有り得ない。
でもローラ様の足は自らの力で動かせた。
汗だくで、辛そうで、見ていられないほどだったけど、ローラ様の足は動いた。
俺は「おーし!」とガッツポーズを取った。
ふと周りを見ると、同じように喜んでいる人がポツポツといた。
それぞれがローラ様を応援していたのだろう。
離れた場所にいた、いつも難しい顔をしている重鎮の大臣も笑顔で喜んでいたのを見て、泣きそうになった。
俺が見ていたのに気付いた大臣は、親指を立てて、俺に笑顔を向けた。
俺も親指を立てて笑った。
庭園で訓練を始めて一年経った時、ローラ様が三歩歩いた時は、大歓声が上がった。
最初はほとんどいなかったギャラリーは今では目立たないようにしていても、気付けば大勢の人間が見守っていた。
それからもローラ様は庭園での訓練を続けていたが、いつも隊長か侍女だった付き添いが、男の護衛になった。
「あ!あの男⁉︎」
“影”の男はローラ様の専属護衛になっていた。
クソ────────!
俺がなりたかった──────!
でも、俺はここでローラ様を城の皆んなで応援していきたい。
いつかローラ様が歩けるようになった時、この場所で、応援している皆んなと共に喜びたいと思っている。
その時、どれだけの人が応援していたのかローラ様は驚くだろうな。
早く歩けるように祈っているが、ローラ様の姿が見れなくなるのも寂しいと少し、ほんの少し思ってしまう俺ってダメだな…。
ちょっと切ない気持ちにもなるが、俺はローラ様の応援をいつまでも続けると誓った。
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