一番悪いのは誰

jun

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謁見

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その日、俺はローラを車椅子に乗せ、王妃様のサロンに義父と共に三人で待機している。

ローラの母親は二年前に亡くなっている。
俺も両親が早くに亡くなってしまったので、俺達の親は義父しかいない。
だが義父がいれば大丈夫と思うくらいの安心感がある。

「ローラ、身体は大丈夫か?辛くないか?」

「大丈夫よ。久しぶりに外に出たから気持ちが良いよ。それにパウロ様や他の近衛隊の方にも会えたしね。」

パウロは壁際に立ち、こちらを見て微笑んでいる。

「ローラ、車椅子にずっと座っているのはキツくないか?俺が抱っこしようか?」

「嫌よ、ビー!国王陛下に会われるのよ、抱っこなんてしたら不敬だわ。」

「陛下は気にしないと思うよ、ローラ。
文句を言ったらお父様が一発陛下に言ってあげるからね。」と義父が黒い笑みを浮かべていた。

パウロが、
「陛下が来られました。」
と告げ、ドアを開けた。

義父と俺は頭を下げ、ローラも頭を下げた。

「頭を上げて欲しい、今日は態々呼び出して済まない、座ってくれ。」

陛下、王妃様、イヴァン様、フェデリカ様、ジーノ様、アルベルト、ロジーニがいた。

ガチガチに緊張しているローラに陛下が、
「ローラ殿、あまり緊張しなくともよい。
今日は国王としてではなく、チャーリー先輩の後輩としてここに来たのだから。
もう体調は大丈夫かい?」
とローラの緊張を解こうと優しく話しかけた。

「体調は大丈夫です。
陛下は父と交流があったのですか?」

ローラは義父と陛下の関係に驚いたようだ。

「チャーリー先輩には学生時代生徒会でお世話になりました。」

「チャーリー先輩・・・ですか…不思議な感じがします…」

「とてもチャーリー先輩は優秀で私など足元にも及びませんでしたよ。」

「先輩後輩としてここにいるなら率直に聞く。今日は何の用なのだ。
ここにくるまでにローラは大勢の好奇の目に晒された。
本来ならば精神的にもまだ外には出たくなかっただろう娘を呼びつけた要件を先に言って欲しい。」

「申し訳ありません、先輩。
どうしてもここに来て頂けないと出来ない事があるものですから。
それとローラ殿に会って謝罪したかったのです。
ローラ殿、話しを聞いてもらえるだろうか?」

「私は・・怒っていました。
訳もわからず、こんな身体になり、夫とは連絡も取れず、嫌な噂を聞かされ、誰に文句を言えばいいのかも分からなくて、誰も彼もが許せなくて、正直、穏やかな日を送る事が出来ていません。

何があったのかは夫に聞きました。
大変な事が起きていて、必死に解決しようとなさっていた事は理解しています。
“魅了”など、魔法でも使わない限り抵抗することも難しい事なのも分かっています。
それでも、何もおかしいと思わなかったのでしょうか?
変だなと思わなかったのでしょうか?
調べてみようと思わなかったのでしょうか?
私は思いました、何が起きているのだろうと。
おかしい、何か嫌だと王宮に来る度思っていました。
私よりも頭の良い人がたくさんいるのに何故調べようと思わなかったのでしょうか?
魅了されていたから?
全員が魅了されていたわけでもないのに?

でも私自身、誰にも言わなかったので同罪です。
ですから私に謝罪するべき人は妃殿下と私を殺そうとした人と連絡を怠った夫だけです。」

「さすが先輩の娘さんだ、容赦がないな…。
ローラ殿の言う通り、不徳の致すところだ。」

するとイヴァン様が、
「ローラ殿、もう聞いていると思うが、リンカは既に処罰を受け、ここにはいない。
代わりに元夫として、私が謝罪したい。
リンカは自分の欲望の為だけにローラ殿を殺そうとした。
許される事ではない。
だが、そうさせてしまったのは私や周りの者達だ。
私も違和感には気付いていたのに放置していた。
本当に申し訳なかった。」

アルベルトとロジーニも頭を下げた。

「私もいいかしら?」
王妃様がローラに話しかけた。

「私もイヴァンの母、リンカの元義母として謝りたいの。
息子の異変にも、リンカの異常さにも気付かず、夫まで良いようにされていた愚かな女ですが、これからはこんな事が二度と起きないよう対策も考えます。

この城で働く半数近くの者がリンカの魅了にかかっていました。
ですが、ローラ様が言った通り魅了にかからなかった者もいたのです。
ですからもっと早い段階で解決出来た事でもありました。
本当にごめんなさい、ローラ様。
貴方の心も身体にも傷をつけてしまった事、心から謝罪します。
申し訳ございませんでした。」
と言って頭を下げた。

「一番悪いのは私です…」

そう言ったのはフェデリカ様だった。

「私は早い段階で気付いていたのです…。
ですが、どう抵抗すれば良いのか分からないし、どう説明していいのかも分からず、父にも母にも兄にも上手く説明する事が出来ませんでした。
私がグズグスしているうちに、私の話しを聞いてくれる人すらいなくなってしまって…。

私を嫌っていたあの人は、私とギルディー侯爵との嘘の噂を流しました…。
そのことでローラ様を苦しめてしまった事、申し訳ございませんでした。」
そう言って頭を下げた。

「皆様、私などに頭を下げないで下さい。

それに、私がもっと早くお祖母様やお父様に相談すればこんな事にはならなかったのです。
足もこれから訓練すれば歩く事も出来るようになるそうです。
歩けるように必死に私も努力しますが、私の姿を見るたび皆様は今回の事を思い出してしまうと思うのです。

そこで考えました。
誰に怒りをぶつけていいのか分からないので、この姿を見て罪悪感がわくのであれば、存分に見てもらおうと。
ヨタヨタと歩く姿を見て、心を痛めて頂こうと思いました。
なので、月に一度、王宮の庭園を散歩する許可を頂きたいのです。
少しずつ、少しずつ歩けるようになる姿を見ていてください。
歩けるようになりましたら、今度は皆さんが笑顔で褒めて下さいませ。
王族の皆様に頭を下げて頂いた事は誰にも言えませんが、褒めて頂けたら自慢出来ますから。」

そう言って笑ったローラは、やっぱり可愛くて、俺はローラを抱きしめた。

「庭園の件、了承しました。
ローラ様の頑張る姿は、私達のいい薬になると思います。
いつかローラ様とお茶を飲める日を楽しみにしております。
ドナルド、彼の方をそろそろお呼びしないと怒られますよ。」
と王妃様が言った。

彼の方?と俺とローラ、義父が首を傾げていると、

「ローラ!」と言ってローズ様が入ってきた。

「もう!ドナルド様、いつまで待たせるのですか!久しぶりに孫に会えるというのに!」

隣国でお会いした時とは別人のようにはしゃいでいるローズ様に呆気に取られていると、

「チャーリー、久しぶりね。」と義父に声をかけた。

「お久しぶりでございます、義母上。
お変わりないようでようございました。」

「貴方は相変わらず堅いわね。さあさあ、可愛い孫の顔を良く見せてちょうだい。
あら、ファビオ様いつまでもローラに抱きついていないで退いてちょうだい!」

俺を押し退けると、ローラを抱きしめた。

「ローラ、会いたかったわ。
なかなか自由に国を出れないから、今回はレスティア国からの緊急事態の要請を受けて、という形でしか来れなかったの。
会えて良かったわ、ローラ。

さっきのローラの啖呵、カッコよかったわ!さすが私の孫ね。」

「お祖母様、お久しぶりです。私も会いたかったです。
お祖母様はご自分で来たのではなく、陛下が呼んで下さったという事でしょうか?」

「相変わらず可愛いわね、ローラ。
お嫁さんになったら今度は綺麗になっちゃって。これからもっと綺麗になるわよ、ローラは。
そうよ、陛下が呼んで下さったの。
勝手に私からは押しかけられないのよ…。
陛下の手紙はね、文章なのに土下座してるような内容で笑ってしまったわ。
でも可愛い孫が大怪我をしたと聞いて飛んできたの。

だからその足を少し治していくわね。
一度には治せないから、数回に分けて少しずつ私の聖力で足の麻痺を無くしていくわね。
毎日歩く訓練は必要だけど、必ず前と同じに歩けるようになるから、ローラも頑張って。
貴方の頑張る姿を見せつけてやりなさい。」

そうか、だからここまでローラを連れてきて欲しかったのか、陛下は。
義父も納得したようだ。

「国王陛下、ありがとうございます。」
ローラが頭を下げた。

「これくらいしか私に出来る事がなかったからね。」
と苦笑しながら陛下が言った。


この日からローラの歩行訓練が始まった。















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