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怒りの行方は何処へ
しおりを挟む妃殿下の尋問が終わった後、執事見習いのジョージの捕縛に向かう事になったが、俺はローラに会いに行けと、帰らされた。
途中、花屋で最愛の妻に渡したいと言うと店員が見繕ってくれた。
小さいが色んな花が混ぜられた花束はとても綺麗だ。
お礼を言い、ダンゼン伯爵家へ向かった。
屋敷に着き、ローラの部屋へ案内されて中へ入ると、身体を起こしベッドで刺繍するローラがいた。
「ローラ!」
駆け寄り、ローラを抱きしめた。
「ローラ、ローラ、会いたかった…凄く会いたかったのに帰って来れなくてごめん。
寂しい思いをさせてごめん。
辛い時、側にいれなくてごめん。
身体は?痛い所は?ご飯は食べてる?夜は眠れてる?」
「ビー、おかえりなさい。私もとっても会いたかった…。
身体はまだ少し痛いけど、今は大丈夫よ。
ご飯はたくさん食べてるわ。
運動不足で太りそうよ。
夜はビーがいないから寂しくて眠れない…な~んてね。」
「ローラ、俺もローラに会えなくておかしくなりそうだった。
怪我をしたと聞いた時は心臓が止まりそうだった・・・・」
「ねえファビオ、お父様から大体は聞いたけど、何があったのかファビオの口から教えてくれる?」
それから俺は全てをローラに話した。
ローラは最後まで黙って聞いていた。
その後、
「私ね、だいぶ前から何かおかしいと思っていたの…。
でもそれが何なのか、何がおかしいのか分からなくて誰にも言えなかった。
ファビオに会うと、必ず嫌なモノが全身を纏ってた。
私といると消えてしまうけど、その嫌なものが何なのか全く分からなかったの。
城に行くと、その嫌なモノはどんどん増えていって怖かった。
その時にちゃんとファビオに言えば良かった…。
そうしていたらこんな事にはならなかったのかもしれない。
妃殿下は何がしたかったの?
妃殿下はファビオが好きだったの?
王太子殿下が好きだったのではないの?」
「あの人は自分の周りの人間全員に愛されたかったんだそうだ。
本人がそう言っていた。
俺はあの人に会った時から嫌いだったから、好きにならない俺に執着してたんだ。
結婚した事も気に入らなかったんだろう。
だから結婚式の翌日に嫌がらせで自ら毒を飲んで俺を呼び戻して自分の側に侍らせた後、ゆっくり籠絡しようと企んだようだ。
そこまでやったのに堕ちない俺に痺れをきらしてローラの存在のせいだとでも思ったんだろうな、バカだから。
ごめんな、俺が側にいればローラに辛い思いはさせなかったのに…。」
「私ね、今自分の感情がよく分からないの。
だって何が何だか分からない状況で、知らない人に殺されそうになって、足も不自由になって、ビーにも会えなくて・・・。
絶望したし、たくさん泣いたし、たくさん怒ったけど、何に対してなのか、誰に対してなのかが分からない。
今は泣けばいいのか、悲しめばいいのか、怒ればいいのか、分からない。
だって怒鳴り散らしたい人が多過ぎて、怒りを発散する事が出来ないんだもの。
ビーを呼び出した王太子殿下にも腹が立ったし、城に入れてくれない守衛の人にも腹が立ったし、近衛隊の人を見かけて声をかけても無視する人にも腹が立ったし、私やマルコに暴言や暴力をふるった人にも腹が立つし、こんなになるまで何もしなかった国王にも王妃様にも腹が立った。
結婚式に出席してくれた人が一人でも、ビーの事を教えてくれてもいいのに誰もここには来てくれなかった。
何かおかしいと思った人は絶対いたと思うのに、私に教えてくれる人は誰もいなかった。
何百人といる王宮の中に誰も私達に情報をくれる人がいないのって、異常だと思うの。
非常事態だったのだとは思う。
ビーのお仕事の事も理解してる。
でも全員が城から出れなかったわけじゃないのに、どうして私達には何も伝わってこなかったの?
誰かが邪魔をしていたんだろうけど、それを誰も気付かなかった?
誰一人?
妃殿下を捕まえたのなら、私は妃殿下だけに怒りをぶつければいいの?
私を殺そうとした人?
指示を出した人?
止められなかった人?
それとも戻って来なかったビーに?
ううん、私は誰かに怒りたいんじゃないの。
私は全てに怒ってるの。
だって普通の伯爵令嬢ですらおかしいって思ったのよ?
なのに国の頂上にいる人も、それを支えている人も、その違和感に気付かなかったなんてないと思うの。
妃殿下に関わっている人達は一度もおかしいって思わなかったなんて事ないと思うの、そうでしょ、ファビオ。
なのに何もしなかった。
何かは分からなくてもなんとかしないととハンカチを私は配ったわ。
後の人は何をしたの?
何をしてたの?
だから私は誰も許さない。
この足が以前のように歩けるようになった時に、やっと許せると思うの。
そうじゃないと私のこの怒りは治らない。」
「ごめん・・・ごめん、ローラ…」
「多分、私が一番悪いんだと思う。
私が気付いた時にお祖母様に相談すれば良かったんだもの…。
だから全部私が悪いんだと思おうとしたの。
でも、出来なかった…。
だってもう私はビーとダンスも踊れない…。
走る事も、一人で馬車に乗る事も出来ない。
本当は仕方なかったのよねって言ってあげたい。
ファビオは悪くないよって言ってあげたい。
でも今は言えない・・・。
ごめんね、疲れて帰ってきた夫を労ってもやれない妻で…ごめんね。」
「ローラは悪くない・・ローラは何にも悪くない・・もっと怒って良い・・不甲斐なくてごめん・・守ってあげられなくてごめん・・許してもらえなくても良い、でも俺はローラから離れない。寄るなって言っても抱きしめる。
ローラの行きたい所には何処にでも連れて行く。いつでも俺がローラを支える。
だから別れようとか言わないで、なんか言われそうで怖い…。」
「さすがに離婚しようとは言わないけど、罰は与えるよ。」
「罰?」
「そう。放ったらかしにした罰。
妃殿下を放置していた罰。」
「なんでもするよ、罰は何?」
「それはね────」
ローラの俺への罰は、一カ月の同衾禁止だった・・・。
俺にとっては涙が出るほど辛い罰だった。
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