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義父と陛下
しおりを挟む成人した、いい大人四人は動く事も出来なかった。
それほど義父の怒りは迫力があった。
決して大声を出した訳でもないのに、“何をトロトロやっとんのか!”と怒鳴られたような空気に騎士の俺でも身動き取れないほどだ。
それでもさすが王族のイヴァン様が、
「ダンゼン伯爵の話しは分かった。
少し席を外すが、すぐ戻る故待っていてもらえるだろうか。」
と言い、執務室を出て行った。
そこで、俺達は息をはいた。
無意識に息を止めていたようだ。
アルバートがすぐ新しいお茶を淹れなおした。
出されたお茶を義父上は悠々と飲んでいるが、俺達は手を出す事が出来なかった。
しばらくすると廊下がバタバタとしだし、執務室に陛下を先頭に飛び込んできた。
俺達は全員立ち上がり頭を下げたが、
「チャーリー殿!」
と陛下が義父に駆け寄った。
「陛下、王妃様、ご無沙汰しております。
チャーリー・ダンゼンがご挨拶申し上げます。」
「挨拶などいい。
ダンゼン伯爵、イヴァンから聞いた。
とりあえず座って欲しい。」
俺達は立ち上がり、陛下、王妃様、イヴァン様、義父が座った。
「簡単にしか聞いていない。
面倒ではあろうが、もう一度ダンゼン伯爵から直接聞きたい。
この場には我らしかおらん。
不敬だなどと決して言わん。
忌憚なく話して欲しい。」
そして淡々とさっき俺達に行ったことを話した。
王妃様は、倒れそうなほど顔色を悪くした。
陛下はずっと義父を見つめて聞いていた。
義父が話し終わると、王妃様は泣いていた。
そして陛下が、
「国王として頭を下げる事は出来ないが、同じ子を持つ父親として謝罪したい。
揃いも揃って誰一人ローラ殿を慮る事を怠ってしまった。
ダンゼン伯爵の言う通りだ。
今も犯人は追っているが、最重要案件として私の影を今すぐローラ殿の護衛として付けさせてもらう。
捜査も影達に追わせているが、警備隊はもちろん、近衛からも人員を回す。
リンカが興奮し尋問もまだだが、自白剤を使ってでも吐かせる。
全てが終わった後に改めて謝罪させてもらうが、今、謝罪させて欲しい。
ダンゼン伯爵の大事なお嬢さんに、生涯残る傷をつける事態にまで放置させてしまったこと、本当に申し訳ない。
そして、ダンゼン伯爵、ファビオ、お嬢さん、大事な奥方を守れなかった事、誠に申し訳なかった。」
と国王が頭を下げた。
王妃様もイヴァン様も頭を下げた。
「皆様方、頭など下げてはいけません。
まだ全て解決致しておりませんが、謝罪は受け取ります。
許す許さないは別として。
娘にも報告させて頂きます。
一刻も早い解決をお願い致します。」
「私にも謝らせて欲しいの。
ローラ様の事は頭にあったのにこちらの問題を優先してしまいました…。
謝ってもローラ様の足が治る訳ではありませんが、ローラ様のお気持ちを思うと、謝らずにはいられません。
本当に申し訳ございませんでした。
治療費も今後の生活の事も、私共の私財から払わせて頂きます。
少しでもローラ様が歩けるよう、腕の良い医者も必ず見つけます。
ごめんなさい・・本当にごめんなさい・・・」
と声を出して泣いている王妃様の背中を陛下がずっと撫でていた。
「先程、ダンゼン伯爵は一人一人謝って欲しい訳ではないと仰っていましたが、私にも謝らせて頂きたい。
最初にファビオを城に呼びつけたのは私です。
魅了にかかっていたとはいえ、解除出来た時点でファビオは屋敷に帰すべきでした。
私の采配の拙さのせいです。
ローラ様を保護することもなく、警護をつけることもせず、大怪我を負わせてしまったこと、誠に申し訳ございませんでした。」
と頭を下げた。
俺達側近もそれに合わせて頭を下げた。
「結局、謝らせてしまい、此方こそ申し訳ございませんでした。
皆様の謝罪はしっかり受け取りました。」
張り詰めた空気が義父の言葉で和らいだ。
「チャーリー先輩に叱られたのは学園以来ですね…学生時代を思い出し、足が震えそうでしたよ。」
と義父に親しげに話す陛下に俺達は驚いた。
王妃様は、
「そうですね、よくドナルドは叱られていたわね。とても怖かったですもの、チャーリー先輩は。」
と王妃様も親しげに話す。
「陛下、やめて下さい。学生の時の話など、お若い方々が驚いておりますよ。」
と義父が言うと、
「チャーリー先輩の名前を聞いて、思わず走ってきてしまいました。
ダンゼン伯爵はチャーリー先輩だとどうして気付かなかったのかと自分が情けないです…。
チャーリー先輩、必ず即刻解決させますので、もうしばらくだけお待ち下さい。
お願いします。」
「そうしてもらえると有り難い、ドナルド。」
陛下を名前呼びする義父にギョッとした俺達に陛下が、
「学生時代、生徒会でお世話になった。
チャーリー先輩は一つ上の学年だったが、卒業するまで全学科満点の首席だった。
私も首席だったが、先輩のように満点ではなかった。俺達の世代では誰よりも頭が良かったんだ。
ただ先輩の当時婚約者だった奥方の母上がローズ様だったから、側近にしたかったが出来なかった。
聖女様を政治に利用されない為にね。」
それほど凄い人だったなんて思ってなかった。
確かに何もしていなのに、威圧感が半端なくて、いつも義父の前では緊張していた。
圧倒するオーラのようなものがあって、そんな義父に少し憧れていた。
「さて、言う事は全部言ったからそろそろ帰ろうかな。
陛下、王妃様、王太子殿下、側近の方々、本日はお時間を頂きありがとうございました。
私はこれで失礼させて頂きます。」
そう言い、礼をした後、颯爽と帰っていった義父が執務室を出ると全員が、
「ハア─────────」と息をはいた。
陛下が、
「久しぶりに緊張した・・・」
とボソッと呟いた言葉に全員が頷いた。
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