一番悪いのは誰

jun

文字の大きさ
上 下
21 / 36

義父と陛下

しおりを挟む


成人した、いい大人四人は動く事も出来なかった。
それほど義父の怒りは迫力があった。
決して大声を出した訳でもないのに、“何をトロトロやっとんのか!”と怒鳴られたような空気に騎士の俺でも身動き取れないほどだ。

それでもさすが王族のイヴァン様が、
「ダンゼン伯爵の話しは分かった。
少し席を外すが、すぐ戻る故待っていてもらえるだろうか。」
と言い、執務室を出て行った。

そこで、俺達は息をはいた。
無意識に息を止めていたようだ。

アルバートがすぐ新しいお茶を淹れなおした。

出されたお茶を義父上は悠々と飲んでいるが、俺達は手を出す事が出来なかった。

しばらくすると廊下がバタバタとしだし、執務室に陛下を先頭に飛び込んできた。

俺達は全員立ち上がり頭を下げたが、

「チャーリー殿!」
と陛下が義父に駆け寄った。

「陛下、王妃様、ご無沙汰しております。
チャーリー・ダンゼンがご挨拶申し上げます。」

「挨拶などいい。
ダンゼン伯爵、イヴァンから聞いた。
とりあえず座って欲しい。」

俺達は立ち上がり、陛下、王妃様、イヴァン様、義父が座った。

「簡単にしか聞いていない。
面倒ではあろうが、もう一度ダンゼン伯爵から直接聞きたい。
この場には我らしかおらん。
不敬だなどと決して言わん。
忌憚なく話して欲しい。」

そして淡々とさっき俺達に行ったことを話した。

王妃様は、倒れそうなほど顔色を悪くした。
陛下はずっと義父を見つめて聞いていた。

義父が話し終わると、王妃様は泣いていた。
そして陛下が、

「国王として頭を下げる事は出来ないが、同じ子を持つ父親として謝罪したい。

揃いも揃って誰一人ローラ殿を慮る事を怠ってしまった。
ダンゼン伯爵の言う通りだ。
今も犯人は追っているが、最重要案件として私の影を今すぐローラ殿の護衛として付けさせてもらう。
捜査も影達に追わせているが、警備隊はもちろん、近衛からも人員を回す。
リンカが興奮し尋問もまだだが、自白剤を使ってでも吐かせる。
全てが終わった後に改めて謝罪させてもらうが、今、謝罪させて欲しい。

ダンゼン伯爵の大事なお嬢さんに、生涯残る傷をつける事態にまで放置させてしまったこと、本当に申し訳ない。
そして、ダンゼン伯爵、ファビオ、お嬢さん、大事な奥方を守れなかった事、誠に申し訳なかった。」
と国王が頭を下げた。
王妃様もイヴァン様も頭を下げた。

「皆様方、頭など下げてはいけません。
まだ全て解決致しておりませんが、謝罪は受け取ります。
許す許さないは別として。
娘にも報告させて頂きます。

一刻も早い解決をお願い致します。」

「私にも謝らせて欲しいの。
ローラ様の事は頭にあったのにこちらの問題を優先してしまいました…。
謝ってもローラ様の足が治る訳ではありませんが、ローラ様のお気持ちを思うと、謝らずにはいられません。
本当に申し訳ございませんでした。
治療費も今後の生活の事も、私共の私財から払わせて頂きます。
少しでもローラ様が歩けるよう、腕の良い医者も必ず見つけます。
ごめんなさい・・本当にごめんなさい・・・」
と声を出して泣いている王妃様の背中を陛下がずっと撫でていた。

「先程、ダンゼン伯爵は一人一人謝って欲しい訳ではないと仰っていましたが、私にも謝らせて頂きたい。
最初にファビオを城に呼びつけたのは私です。
魅了にかかっていたとはいえ、解除出来た時点でファビオは屋敷に帰すべきでした。
私の采配の拙さのせいです。
ローラ様を保護することもなく、警護をつけることもせず、大怪我を負わせてしまったこと、誠に申し訳ございませんでした。」

と頭を下げた。
俺達側近もそれに合わせて頭を下げた。

「結局、謝らせてしまい、此方こそ申し訳ございませんでした。
皆様の謝罪はしっかり受け取りました。」

張り詰めた空気が義父の言葉で和らいだ。

「チャーリー先輩に叱られたのは学園以来ですね…学生時代を思い出し、足が震えそうでしたよ。」
と義父に親しげに話す陛下に俺達は驚いた。

王妃様は、

「そうですね、よくドナルドは叱られていたわね。とても怖かったですもの、チャーリー先輩は。」
と王妃様も親しげに話す。

「陛下、やめて下さい。学生の時の話など、お若い方々が驚いておりますよ。」
と義父が言うと、
「チャーリー先輩の名前を聞いて、思わず走ってきてしまいました。
ダンゼン伯爵はチャーリー先輩だとどうして気付かなかったのかと自分が情けないです…。
チャーリー先輩、必ず即刻解決させますので、もうしばらくだけお待ち下さい。
お願いします。」

「そうしてもらえると有り難い、ドナルド。」

陛下を名前呼びする義父にギョッとした俺達に陛下が、
「学生時代、生徒会でお世話になった。
チャーリー先輩は一つ上の学年だったが、卒業するまで全学科満点の首席だった。
私も首席だったが、先輩のように満点ではなかった。俺達の世代では誰よりも頭が良かったんだ。
ただ先輩の当時婚約者だった奥方の母上がローズ様だったから、側近にしたかったが出来なかった。
聖女様を政治に利用されない為にね。」

それほど凄い人だったなんて思ってなかった。
確かに何もしていなのに、威圧感が半端なくて、いつも義父の前では緊張していた。
圧倒するオーラのようなものがあって、そんな義父に少し憧れていた。

「さて、言う事は全部言ったからそろそろ帰ろうかな。

陛下、王妃様、王太子殿下、側近の方々、本日はお時間を頂きありがとうございました。
私はこれで失礼させて頂きます。」

そう言い、礼をした後、颯爽と帰っていった義父が執務室を出ると全員が、

「ハア─────────」と息をはいた。

陛下が、

「久しぶりに緊張した・・・」
とボソッと呟いた言葉に全員が頷いた。















しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

うーん、別に……

柑橘 橙
恋愛
「婚約者はお忙しいのですね、今日もお一人ですか?」  と、言われても。  「忙しい」「後にしてくれ」って言うのは、むこうなんだけど……  あれ?婚約者、要る?  とりあえず、長編にしてみました。  結末にもやっとされたら、申し訳ありません。  お読みくださっている皆様、ありがとうございます。 誤字を訂正しました。 現在、番外編を掲載しています。 仲良くとのメッセージが多かったので、まずはこのようにしてみました。 後々第二王子が苦労する話も書いてみたいと思います。 ☆☆辺境合宿編をはじめました。  ゆっくりゆっくり更新になると思いますが、お読みくださると、嬉しいです。  辺境合宿編は、王子視点が増える予定です。イラっとされたら、申し訳ありません。 ☆☆☆誤字脱字をおしえてくださる方、ありがとうございます! ☆☆☆☆感想をくださってありがとうございます。公開したくない感想は、承認不要とお書きください。  よろしくお願いいたします。

2番目の1番【完】

綾崎オトイ
恋愛
結婚して3年目。 騎士である彼は王女様の護衛騎士で、王女様のことを何よりも誰よりも大事にしていて支えていてお護りしている。 それこそが彼の誇りで彼の幸せで、だから、私は彼の1番にはなれない。 王女様には私は勝てない。 結婚3年目の夫に祝われない誕生日に起こった事件で限界がきてしまった彼女と、彼女の存在と献身が当たり前になってしまっていたバカ真面目で忠誠心の厚い騎士の不器用な想いの話。 ※ざまぁ要素は皆無です。旦那様最低、と思われる方いるかもですがそのまま結ばれますので苦手な方はお戻りいただけると嬉しいです 自己満全開の作品で個人の趣味を詰め込んで殴り書きしているため、地雷多めです。苦手な方はそっとお戻りください。 批判・中傷等、作者の執筆意欲削られそうなものは遠慮なく削除させていただきます…

寡黙な貴方は今も彼女を想う

MOMO-tank
恋愛
婚約者以外の女性に夢中になり、婚約者を蔑ろにしたうえ婚約破棄した。 ーーそんな過去を持つ私の旦那様は、今もなお後悔し続け、元婚約者を想っている。 シドニーは王宮で側妃付きの侍女として働く18歳の子爵令嬢。見た目が色っぽいシドニーは文官にしつこくされているところを眼光鋭い年上の騎士に助けられる。その男性とは辺境で騎士として12年、数々の武勲をあげ一代限りの男爵位を授かったクライブ・ノックスだった。二人はこの時を境に会えば挨拶を交わすようになり、いつしか婚約話が持ち上がり結婚する。 言葉少ないながらも彼の優しさに幸せを感じていたある日、クライブの元婚約者で現在は未亡人となった美しく儚げなステラ・コンウォール前伯爵夫人と夜会で再会する。 ※設定はゆるいです。 ※溺愛タグ追加しました。

裏切られた令嬢は死を選んだ。そして……

希猫 ゆうみ
恋愛
スチュアート伯爵家の令嬢レーラは裏切られた。 幼馴染に婚約者を奪われたのだ。 レーラの17才の誕生日に、二人はキスをして、そして言った。 「一度きりの人生だから、本当に愛せる人と結婚するよ」 「ごめんねレーラ。ロバートを愛してるの」 誕生日に婚約破棄されたレーラは絶望し、生きる事を諦めてしまう。 けれど死にきれず、再び目覚めた時、新しい人生が幕を開けた。 レーラに許しを請い、縋る裏切り者たち。 心を鎖し生きて行かざるを得ないレーラの前に、一人の求婚者が現れる。 強く気高く冷酷に。 裏切り者たちが落ちぶれていく様を眺めながら、レーラは愛と幸せを手に入れていく。 ☆完結しました。ありがとうございました!☆ (ホットランキング8位ありがとうございます!(9/10、19:30現在)) (ホットランキング1位~9位~2位ありがとうございます!(9/6~9)) (ホットランキング1位!?ありがとうございます!!(9/5、13:20現在)) (ホットランキング9位ありがとうございます!(9/4、18:30現在))

結婚なんてしなければよかった。

haruno
恋愛
夫が選んだのは私ではない女性。 蔑ろにされたことを抗議するも、夫から返ってきたのは冷たい言葉。 結婚なんてしなければよかった。

その眼差しは凍てつく刃*冷たい婚約者にウンザリしてます*

音爽(ネソウ)
恋愛
義妹に優しく、婚約者の令嬢には極寒対応。 塩対応より下があるなんて……。 この婚約は間違っている? *2021年7月完結

政略結婚の約束すら守ってもらえませんでした。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 「すまない、やっぱり君の事は抱けない」初夜のベットの中で、恋焦がれた初恋の人にそう言われてしまいました。私の心は砕け散ってしまいました。初恋の人が妹を愛していると知った時、妹が死んでしまって、政略結婚でいいから結婚して欲しいと言われた時、そして今。三度もの痛手に私の心は耐えられませんでした。

完結 この手からこぼれ落ちるもの   

ポチ
恋愛
やっと、本当のことが言えるよ。。。 長かった。。 君は、この家の第一夫人として 最高の女性だよ 全て君に任せるよ 僕は、ベリンダの事で忙しいからね? 全て君の思う通りやってくれれば良いからね?頼んだよ 僕が君に触れる事は無いけれど この家の跡継ぎは、心配要らないよ? 君の父上の姪であるベリンダが 産んでくれるから 心配しないでね そう、優しく微笑んだオリバー様 今まで優しかったのは?

処理中です...