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義父の問いかけ
しおりを挟む妃殿下を拘束した後の王宮内は、明らかに変わった。
ギスギスしていた雰囲気が先ず無くなった。
段々、魔石の効果が広がり始め、陛下達も一安心していた。
妃殿下は貴族牢ではなく一般牢に入れられているので一日中騒いでいるらしい。
落ち着いて尋問も出来ないので、しばらく放置するそうだ。
俺とフェデリカ様の噂も、陛下が大々的に否定してくれたお陰でほとんど聞かなくなった。
市井ではまだ一部で囁かれているが、そのうちなくなっていくだろう。
妃殿下は不治の病にかかり、王家所有の別荘にて静養中だと発表した。
時をみて、亡くなったと発表する予定だ。
やっと結婚休暇に入れる。
ローラの顔も見れる。
義父上からローラが目覚めた連絡がきた時は、心の底からホッとした。
だが、義父上が是非今回の件で話したい事があると、今日王宮に来ることになった。
イヴァン様にも聞いて欲しいそうだ。
なので、イヴァン様、俺、アルベルト、ロジーニの四人で話しを聞く事になった。
「王太子殿下、チャーリー・ダンゼンが御挨拶申し上げます。
本日はお時間を頂きまして、誠にありがとうございます。」
「ダンゼン伯爵、今回はこちらこそ申し訳なかった。ローラ殿に怪我をさせるような事態にしてしまった事、改めて謝罪したい。
本当に済まなかった。
ローラ殿を突き落とした犯人は未だ捕まえていないが、必ず捕まえると約束する。
ローラ殿が目覚めたと聞いた、心配していたが安心した。」
「有り難きお言葉、痛み入ります。
ローラの事も心配して頂きありがとうございます。
目覚めました事、本当に私も安心致しました。
ファビオ殿との連絡が一切取れない状況での事でしたから、色々と思う所もございまして本日図々しくも、こうしてやって来た所存でございます。
王太子殿下に心配して頂いたローラなのですが・・・今までのようには歩く事が出来なくなりました…。」
「「「「何⁉︎」」」」
「義父上、それは本当なのですか⁉︎」
「立つ事は問題はない。ただ歩く事は今までのようにとはいかないらしい。
全く歩けない訳ではない。
だが走る事も、ダンスをする事も出来なくなった。」
「そんな・・・ローラは何もしていないのにどうして・・・」
「そう、それなのです。
私がお話したいのはそこなのです。
もしもローラの怪我が、ファビオ殿と連絡が取れなかった事と関係しているならば、私には事の顛末を聞く権利があると思いました。
相思相愛の人と結婚式をあげ、幸せの絶頂にいる娘が、結婚式の翌日から夫と連絡が途絶え、不安を抱えながらも帰りを待っていた娘に聞こえてきた夫の不貞の噂。
何度も何度も手紙や伝令を出しても繋いでもらえない。
ファビオ殿からの連絡も全くない。
そして娘の怪我。
歩けなくなった娘。
連絡が取れるようになりました、娘の目が覚めました、で終われる状況ではない事を察して頂きたいと思います。
全くもって、納得出来ないのです。
何故、こうなってしまったのか、この件に関わった方々の口から説明して頂きたく、こうして恐れながらも参った所存でございます。」
義父上の怒りを込めた言葉は俺の心を抉った。
真っ先に報告せねばならなかったのに、後回しにしてしまった…。
ローラが安心して静養出来るようにとやってきたつもりが、ローラや待っていた大切な者達の不安を拭うこともせずにいた。
国を支える重鎮達が一番の被害者を蔑ろにしてしまった。
皆、黙ってしまった。
気を取り直して、
「義父上、本当に申し訳ありませんでした。
私がもっと早く気付いていれば・・・。
連絡も何度か送っていたので、安心しておりました。
義父上やローラにも一刻も早く報告せねばならなかったのに・・本当に申し訳ございませんでした。」
「ダンゼン伯爵のいう事は尤もだ。
何があったのかを説明させて欲しい。」
とイヴァン様が義父上に言い、最初から説明した。
最後まで聞いた義父上は、一息長く吐き出すと、
「分かりました。
先日ファビオ殿が戻ってきた際にギルディー家の執事のマルコから簡単には聞いておりましたが、そのような事があったとは・・・。
俄かには信じられない話しではございますが、義母上の所まで行き、事態を収拾させたのならば本当にあった事なのでございましょう。
このような物言い、不敬になるやもしれませんが、でしたら真っ先にローラには知らせるべきだったのではないでしょうか?
本人に伝えるのが不安ならば、マルコにでも私にでも一言、警戒して欲しいと伝えるべきだったのではないでしょうか?
ファビオ殿を城に縛り付けておく為に自作自演までされたのならば、その妻のローラが狙われると何故気付かなかったのでしょうか?
私はそこがどうしても納得出来ません。
内密とはいえ王族方が勢揃いし、側近の方々もいらっしゃって、何故手紙の一つも城外に出す事も出来なかったのでしょうか?
何故ローラが危険なのではと思い至らなかったのでしょうか?
新婚の新婦を放っておいても構わないとお思いになられていたのでしょうか?
いくら説明されても私は納得出来ません。
今更、謝罪されても娘の足は元には戻りません。
皆様が大変な事態に陥っていたのは分かります。
誰が悪いというわけでもないのでしょう。
一番悪いのは妃殿下でしょうが、ギルディー家からの連絡が一切ない事に誰一人気付かなかったのでしょうか?
一度は思ったはずです。
ファビオ殿が今、結婚休暇中だと。
私の、娘の、この誰に向けていいのか分からない怒りをどうしたら宜しいのでしょうか!」
静まりかえる執務室にいる俺達は、義父上の言葉に何も返す言葉がなかった。
確かに一度は皆に言われた。
結婚休暇ではないのかと。
そして、妃殿下の狙いは俺だと全員が知っていた。
なのに妻となったローラが狙われるとは思わなかった。
いや、チラッと過ったのかもしれない。
だから皆、何も言えないのだ。
「義父上、返す言葉もありません。
ここにいる皆、恐らくほんの一瞬でも頭を過ったのに気付かないフリをしたと思います。
今はこの王宮内をなんとかしなければと、ローラを後回しにしたのです。
謝罪しても許されることではありませんが、謝罪させて頂きます。
誠に申し訳ございませんでした。
ローラは私が一生涯支えていく所存です。
ローラにも平身低頭、謝罪します。」
「私は皆さん一人一人に謝って頂きたいわけではないのです。
もちろんファビオ殿はローラを支えていくのは当然ですし、謝罪されるのも分かります、新妻に連絡を怠ったのですから。
そして捕まっていない犯人がいるのに、未だ我が家での警備のみです。
何故、警備を強化して下さらないのでしょうか?
どうして歩けない娘を置いて、私がここまで来るまで放って置かれているんでしょうか?
疑問だらけで腹が立ってきたのです。
私は謝って欲しいのではありません!
娘を守って欲しくてここまで来たのです!」
義父はローラの事を報告に来たのでも、
状況を聞きに来たのでもなかった。
俺達の為体ぶりを叱りに来たのだと、ようやく分かった。
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