一番悪いのは誰

jun

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義父からの二枚目の手紙

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『ファビオ・ギルディー侯爵様


娘、ローラは不幸な事故により長い、とても長いことと相成りました。

侯爵様が結婚式の翌日から屋敷には帰られていない事、侯爵様がローラとの結婚を望んではいない事が分かりました故、侯爵様のお手を煩わせるのも忍びなく思い、ローラは我がダンゼン家にてお預かりする手配を勝手ながらさせて頂きました。

今後の事は侯爵様が落ち着き次第、御相談させて頂きたいと思っております。

娘の事は何ら心配はございませんので、侯爵様はどうぞ御自分の大切な方と心穏やかにお過ごし下さい。



チャーリー・ダンゼン』





俺は意味が分からなかった。
不幸な事故とは何だ⁉︎
長い床につくとはどういう意味だ⁉︎
ローラとの結婚を望んでいない⁉︎
俺の大切な方⁉︎

俺は、訳がわからない義父上からの手紙を読み終わった後、声も出せずに固まってしまった。

「ファビオ様、もう一通ございます。こちらもお読み下さい。」
とマルコに渡された手紙も震える手では開けることすら出来なかったので、マルコが封を開けてくれた。



『ファビオ殿へ


驚かせてしまい申し訳ない。
何やら城でも、侯爵邸でも見えないモノに阻まれ、君との連絡を遮断されているようだ。

そんな中、ローラが階段から突き落とされるという恐ろしい事件が起きた。

最初は事故かとも思ったが、メイドが一人消えた事、マルコがローラが落ちた時に階段の上にそのメイドがいた事を覚えていた。
どうやら何者かが、侯爵邸に刺客を潜ませていたようだ。

ファビオ殿との連絡を取らせたくない者が誰なのかも、狙いが何なのかも分からない、ファビオ殿が侯爵邸に帰ってこられない状況では、ローラを一人にはしていられないので、ローラの状態が安定してすぐ我が家で保護させてもらったが、まだ意識は戻っていない。

ローラは私が必ず守る故、ファビオ殿は一刻も早くこのおかしな状況を解決してほしい。

噂は信じていないが、ローラが階段から落ちる前に聞いてしまっているかもしれない。
目が覚めた時にでも説明してほしい。

何処に誰の目が、耳があるのか分からないので手紙での連絡とした事、申し訳ない。



チャーリー・ダンゼン』




「マルコ、説明しろ!一体何があったんだ!
ローラは死んではいないのだな⁉︎
生きてるんだな⁉︎
ローラは・・・死んではいないんだよな⁉︎」

一枚目の手紙を読んだ時に、息が出来なくなるほど、息を飲んだ。
手が震え、血の気が引いた。

マルコから二枚目を渡されても最初は文字が頭に入ってこなかった。
が、一枚目で俺を家名で呼んでいたのが、いきなりいつもの“ファビオ”呼びに変わっている事に気付き、読み始める事が出来た。

俺とローラ達との連絡が遮断されていた事など知らなかった。
だからローラからもマルコからも手紙が来なかったのか…。
ならば、ローラは俺からの手紙も届いてはいなかったのか…。

結婚式の翌日から全く帰っても来ず、連絡もせず、挙句にフェデリカ様との噂を聞き、どんなに悲しませたのだろう。
ローラの気持ちを考えると胸が苦しくなり、思わずテーブルに拳を叩きつけてしまった。

「ファビオ様、先ずは何があったか説明させて頂きます。」 
そう言い、マルコが俺がいなくなってから何があったのかを話した。
結婚休暇中にも関わらず呼び出すほどの事が起きたのだろうと、俺からの連絡がしばらくない事もそんな理由で気にはしていなかったが、流石に一週間、十日と過ぎると何かあったのだろうかとローラもマルコも心配になり、何度か手紙を送ってくれたそうだ。
だが、待てども返事も、伝令も来ない。
そんな時に街で流れ出した噂。
まさか俺がローラ以外の女とそんな事などあるはずがないと思っていたが、連絡がないのはそういう事ではないかと、屋敷の中でも囁かれ始めた。
ローラも信じてはくれていたようだが、内心不安だったようだ。
マルコも俺がいない代理での仕事があり、屋敷内の事に目を向けてばかりではいられず、使用人達の噂話までは止められなかったそうだ。
そんな時のローラの階段からの落下事故。
混乱を極めたが、マルコが駆けつけた時に声をかけたメイドが見覚えがない事に気付き、事故ではないのではないかと考え、義父上に連絡をして、ローラの身の安全の為にダンゼン家での保護となったという。

俺に口頭での説明では逆上して、ろくに話も聞かないだろうと思い、手紙を書いたという事らしい。
そして一枚目の手紙は、陛下方に見せてほしい事。
義父上は誰が敵なのか味方なのか分からないので、一枚目の手紙を見せて様子を見てほしいと、あんな書き方をしたのだそうだ。


それにしても・・・紛らわしい!


暴れ回る所だった。
確かに口で説明されていたら、俺は使用人を取っ捕まえて一人一人、“お前は敵か、味方か!”と怒鳴りまくっていただろう。
しかし、それでは敵の思う壺だ。
もしまだこの屋敷に間者が潜んでいたらほくそ笑んでいたに違いない。

「済まなかった、マルコ。もっと早くに俺が気付いていれば、ローラが怪我をすることもなかった。
ローラの容体はどうなんだろうか?
意識は戻ったのだろうか?」

「いえ、とにかくファビオ様とこうしてお会いしてご説明出来ましたから。
ローラ様は当初、出血が酷く危険な状態ではありました。
安定したとはいえ、依然意識は戻っておりません。
いつ目を覚まされるかは分からないそうです。」

「クソッ!そのメイドは見つかったのか?」

「いえ、私共も探しは致しましたが、屋敷を長く開けることも出来ず、未だに発見に至っておりません。」

「そうか・・・。
では、言えない事もあるが、今城で何が起こっているのかを話そう。」

そした俺は妃殿下とは言わず、城の状況を説明した。

マルコは名前は出さずとも、妃殿下以外が俺側に付いている事を聞いて、誰なのかは見当がついたようだ。


「なるほど。そのような事に…。だからこのような妨害も容易いのですね。
その高貴な方に妄信している者どもが大勢いる為に。」

「マルコ、ローラに会いには行ってはダメだよな…。居場所がバレてしまうものな…。」

「そうでございますね…。この屋敷にいると思わせておいた方が宜しいかと思いますので、今は辛抱なさって下さい。
ダンゼン伯爵とローラ様ににお手紙をお書き下さいませ、私がお渡し致しますので。
ローラ様はまだ意識はお戻りにはなられてはおりませんが、必ずローラ様はお目覚めになられます。

さあ、ファビオ様は少しお休みください。」

そして、マルコは部屋を出て行った。



すぐに手紙を書き、マルコに渡すと、俺も一気に疲れが出たのか、軽くシャワーを浴びると食事も取らず、眠ってしまった。















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