一番悪いのは誰

jun

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聖女ローズ様

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俺達は馬を駆け、夜には国境近くまで来ていた。
今日は国境近くの街で宿を取り、イヴァン様とアルベルト、俺とレオの二部屋に別れ、風呂に入りサッパリした後合流し、宿屋の食堂で夕食を取った。

アルベルトが、出発する前に妃殿下がイヴァン様の執務室に来た時の話しを始めた。

「ハンカチに気付いたかもしれない。」

「「「なんで⁉︎」」」

「ロジーニがローラ様のハンカチをあの女の前で使ったんだ。
その時、妙にそのハンカチに食い付いた。
俺も持っているのか聞くから持っていないと答えたが、誰かが持っているのを見たのかもしれない。」

「マジか…気付いたとして妃殿下はこれからどう出ると思う?」

アルベルトは機転を効かせて持っていないと言ったが、あのローラのハンカチを自分に好意を持っていない者が持っていた事を知ったら、あの女はローラを狙うのだろうか…。

「ローラ様のハンカチがどう作用しているのかほまだ気付いていないと思うが、自分中心に世の中回っていると思っているリンカは面白くないと思うだろうな。
そして、ローラ様を狙う・・・?」

「たかがハンカチでそこまで考えるだろうか?」とイヴァン様。

「何かあるのかもとは思っていると思う。
だからハンカチを手元に欲しいのだろう。」
とアルベルト。

「もうフェデリカ様とか王妃様に保護してもらえば良いんじゃないですか?」とレオ。

「逆にそれだとローラ殿のハンカチに何か意味があると知らしめるのではないか?」

「それはそうなんだが、無防備な今の状態は襲って下さいって言ってるのと同じだ。
だったら目の届く所にいた方がいい。
ファビオも落ち着くだろう。」

ローラ・・・

「とにかくローズ様と接触出来たらすぐにファビオの屋敷に連絡してもらおう。
ローズ様からなら問題なく届くだろう。」

今、ローラはどうしているだろう。
もしすでに妃殿下に狙われているとしたら…。
侯爵家にも護衛はちゃんといる。
俺が厳しく鍛えあげた者共たちだ。
ローラを命懸けで守ると信じているが、もし妃殿下の魅了に落ちている者がいたら…。
首をブルブルと横に振り、悪い考えを飛ばした。

「どうした、ファビオ?」とイヴァン様が俺を気にして聞いてきた。

「もし、既に屋敷に妃殿下の手のものが紛れ込んでいたらと思い、不安になってしまいました。」

「それはなんとも言えないな…ハンカチの事がなくてもあのファビオへの執着は異常だ。
既に監視されてる可能性もある。
だから急がないと。」
とアルベルトは真剣な顔で言った。

「その辺は王妃様やフェデリカ様がやってくれてますよ。
なんてったって聖女様のお孫さんなんですから。
ローラ様も何かしらの力は持ってるんじゃないすか?こう、聖力?みたいな、邪悪なモノを跳ね返すとか?」

「母上とフェデリカもだが、父上もジーノもいる、絶対とは言えないが、ファビオも父上達を信じてくれ。」

「はい…」

それしか言えなかった。

夕食を早々に済ませ、各部屋に戻って翌日に備え早めに床についた。



夜明けと共に宿を出た俺達は、国境を越え、検問所も問題なく通過出来た。
ローズ様に父上からの連絡が伝わったらしく、迎えが来ていた。

「ようこそおいで下さいました。
イヴァン王太子殿下方、ローズ様がお待ちしております。
先導しますゆえ、ご案内致します。」

聖騎士と呼ばれる銀の鎧を着けた騎士二名が俺達を案内してくれた。

緊急の極秘案件の為、神殿での謁見となった。

朝と言っても既に日が昇りだいぶ時間は経っているが、早くから待ってくれていたようだ。

案内された部屋は日が当たり、明るく何か清浄な空気に満たされているような部屋だった。

そんな部屋の真ん中にローズ様はいた。

「初めてお目にかかります、レスティア国王太子殿下イヴァン様、アルベルト・バルダート様、レオ・ラザロ様。
そしてローラの旦那様になられたファビオ・ギルディー侯爵様、結婚式に顔も出せず申し訳ございませんでした。
こうしてお顔を拝見出来ました事、嬉しく思います。」

「聖女ローズ様、お初にお目にかかります。
レスティア国王太子、イヴァンが挨拶申し上げます。
丁寧な挨拶を頂き、有り難き幸せにございます。
お忙しい中、お時間を下さりありがとうございます。」

イヴァン様の挨拶に皆、跪き、礼をする。

「こんなおばあちゃんに膝など付く必要などございませんよ、皆さん頭を上げて下さい。」

全員が立ち上がり、ソファに座るよう勧められた。

「さあ、何があったのかお話し頂けますか?」

アルベルトが今起こっている妃殿下による魅了の事を説明した。
その影響は、陛下も含め王妃様、王子様方、騎士、令息、令嬢、どこまで広がっているのかも分からないほどで把握しきれていないこと。
妃殿下が見つめたり、近くに来てふれたり、妃殿下が刺繍したハンカチを身に付けていると、魅了されたままになり、言われるがまま動いてしまう、だがローラが刺繍したハンカチを身に付けると魅了が解除されるとローズ様に話した。

「ローラの刺繍したハンカチは何枚くらいあるのかしら?」

「後数枚です。陛下方、妃殿下に近しい人間にしか渡していませんが、近衛騎士隊は以前ローラが大量に配ったので、半数以上は持っているかと。」

「じゃあ全然足りないのね…。
その妃殿下の名前は何だったかしら?」

「リンカです。実家はオルドニ公爵家です。」
とイヴァン様が答え、

「私はつい先日までリンカに惑わされておりました。
盲目的にリンカの言葉に従ってきてしまいました。
父もリンカに惑わされ、私と母を裏切る関係になってしまいました。
ローラ殿のハンカチで今は元に戻り、問題はありません。
ですが、殆どの者が魅了されている状態ではリンカに対抗出来ない状態であります。
このような事態になるまで気付かなかった事は王太子として、次期国王として、恥ずべき事ではありますが、どうかローズ様の聖女のお力を貸して頂きたく、図々しくも罷り越した次第で御座います。」

「徐々に、徐々にかけられてしまったのですもの、仕方ありませんよ。
まさか魅了を使う輩がいるなんて想像もしませんからね。
私が行けば早いのですが、今腰を痛めてしまって馬車に長時間は乗れないの…。ごめんなさいね。でも、ちゃんと方法はありますから安心してね。」

「ローズ様、今一番リンカに狙われているのがファビオなのです。
リンカの魅了が効かないファビオに執着しているようです。
ファビオの結婚式の翌日に自作自演の毒物混入事件を起こしています。
おそらくファビオを城に引き止める為だけに。
万が一、ファビオだけでなくローラ殿にまで刃が向いてしまったらとファビオは心配しております。」

「まあ、結婚式の翌日から城にいて、帰れないの?
なんて事を・・・。

分かりました。これは一刻を争う事態ですわね。
今すぐ神殿の聖女見習い、神官、全員で聖力を魔石に込めます。
その魔石を王宮に妃殿下に見つからないように、置いて下さい。
少し時間はかかりますが、皆で頑張ってたくさん作りますからね。
貴方達は少し休んでいなさい。」

そう言うとローズ様はすぐに神官長を呼び、
事情を簡単に説明し、神殿総出で取り掛かり始めた。


魔石に聖力が貯まるまで、俺達は待つだけだが、アッサリローズ様の協力を得られた事に全員の力が一気に抜け、この部屋の心地良さに皆、眠ってしまった。


しばらく経った頃、全員が眠っている姿をローズ様がみて、

「みんな、疲れていたのね…安心しきって眠っている姿はまだまだ子供ね、フフ。」

と笑われていたの事など知らず、熟睡した俺達だった。















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