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嫌な感じ
しおりを挟むそれから毎日、妃殿下の部屋で護衛に付きながら、パウロに極秘で捜査してもらっている。
フェデリカ様にハンカチを届けたパウロは、
「犯人の仲間が恐ろしいほど沢山いるの。
だから、無闇にあちこちで聞き込みなんてやったらダメよ。
今、私は私でこの状況をなんとかしようとしているのだけれど、敵が多くてなかなか進捗状況が良くないの。
でも、絶対なんとかしてみるわ。
とりあえずこのハンカチで一人味方に付けるわ。」
と言っていたそうだ。
「隊長、奥様って前に騎士隊にハンカチ配った時ありましたよね?」
「あ~あったな、良かったら使って欲しいと渡されて、みんなに配った。
あれがどうした?」
「いや、確認したかっただけです。
まだ分からないので、ハッキリしたら俺もフェデリカ様も説明します。必ず説明しますから。」
それ以上は何も言わないパウロに問い質したかったがパウロを信じ、それ以上は聞かなかった。
そしてそんな俺は今、妃殿下と飲みたくもないお茶を飲まされようとしている。
本能が飲むなと訴えている、見た目も匂いも別段おかしな所はないが、このお茶は飲んではダメだ。
「ファビオ、折角だもの一緒に飲みましょう。誰も何も言わないわ。」
「いえ、職務中ですので。ですが念の為、毒味はさせていただきます。」
「そうね、先日の事もあるもの。ファビオに毒味をお願いしてもいいかしら?」
「毒味用の試薬を持っておりますので、飲まずに毒物の有無を確認出来ます。」
使い捨てのスプーンと試薬を出した。
紅茶をすくい、試薬を垂らした。
何も無ければ色は変わらないが、薬物が入っていれば色は変わる。
変わった色で薬物の種類が分かる優れものだ。
いちいち口にして毒味などすれば護衛出来なくなる場合もある。
陛下が研究チームを立ち上げ試行錯誤し、試薬セットを作った。
心から陛下に感謝した。
毒なら黒、睡眠薬なら青、下剤なら赤、媚薬ならピンク。
そして紅茶はピンク。
それを見た妃殿下は、
「まあ!色が変わったわ!ピンクは何?何の毒ですの!怖いわ…ファビオが居なければ私…どうなっていたのか…」
と言って泣き出した。
専属侍女のアンナが妙な刺繍のハンカチで妃殿下の涙を拭いている。
「リンカ様、ファビオ様さえいて下さったら大丈夫ですよ。ファビオ様がリンカ様を救って下さいました。もう大丈夫です!」
何度も俺の名前を出すのが嫌で堪らなかったが、
「この紅茶は誰が準備を?」と聞けば、
「私がお茶は入れましたが、食器はそちらの棚から出しました。メイドであれば誰でも触れる事は出来ます。
お湯を沸かすのはここで出来ますが、水は厨房から運ばせますので、水に入れられていたならば、厨房にいた者かと思います。
ファビオ様、早く見つけて下さいまし。
この警備も厳重な王太子宮でこのような事が出来るものなど限られましょう。
さっさと捕まえて下さいませ!」
アンナを無視して、廊下のウルーシとロレンに声をかけた。
妃殿下のお茶に媚薬が混入されていた事を至急イヴァン様に報告するようにと、厨房、メイドを集め聞き取りをするよう指示し、ポットと紅茶の入ったカップをすぐ運ばせた。
「ファビオ、私、とっても怖いわ・・・」
「私も含め、近くに護衛はたくさんおります。それに先日の毒物混入の事もありましたので口に入れる物に対しては必ず監視の下、細心の注意をはらっております。
ですので、薬物を混入出来る人物は限られるかと思いますので、ご安心下さい。」
「ずっと私の側にいてね、ファビオ。」
「御意」
それ以上の言葉を言いたくなかったので、ひたすらイヴァン様が来るのを待った。
その間、妃殿下とアンナが俺に話しかけていたが真っ直ぐ前だけを見て、質問されない限り無視していた。
バタンと急にドアが開き剣に手をかけたが、足音がイヴァン様のものだったので、抜刀する事はなかった。
「リンカ!媚薬を盛られたと聞いた。大丈夫か⁉︎」
イヴァン様は俺が側近として付いていた最初の頃は、どちらかというとリンカ様を避けている方が多かった。
他の側近達も苦手にしている奴がほとんどだったのに、気付けば俺以外全員リンカ様を可愛がるようになった。
綺麗というよりも可愛らしいリンカ様は、良く言えば親しみやすい、悪く言えば馴れ馴れしい、そんな感じの人だ。
俺が苦手なだけで他の奴らは嫌いではないのだろうと思っていたが、何か別の理由があるのだろうか?
目の前の二人を見ていると、何か違和感がある。
ジッと見ていると、
「ファビオ、そんなに見つめられると恥ずかしいわ。」
と気持ち悪い事を言った。
「ファビオ、お前はもう良い。俺が呼ぶまで待機していろ。」
と言って俺を追い出した。
これから夫婦の時間なのだろう。
とりあえず廊下に出ると、
「全て手配は終わりました。今パウロ副隊長が集めたメイドに話しを聞いています。
隊長は厨房をお願いしたいと副隊長が言っていました。」
ロレンが報告してくれたので、
「お前達は何か見たりはしてないのか?」
「それといって怪しい人は見ていません。
というか今日は朝食時のベッドメイクの時以外誰もここには入っていませんし、ワゴンを運んできたのは俺です。
水差しに水を入れる所を確認して俺が持ってきたんですから。」
「じゃあこの部屋の中で入れられたって事か?」
「そういう事になるかと。」
ウルーシとロレンは近衛の中でも信頼のおける騎士だ。
その二人がそういうのなら薬を入れたのはアンナか?
それとも俺に飲ませようとしたのか?
「隊長、この部屋ってなんか嫌な匂いしませんか?」
ロレンが眉間に皺を寄せながらそう言った。
「俺、どうしてもこの部屋に入ると気持ち悪くなっていられないんですよね…。
まあ、仕事なのでやりますけど。」
確かにこの部屋は何か嫌な感じがする。
油断すると何かに引っ張られるようなそんな感じだ。
「確かに…俺も何か嫌だこの部屋は。」
ウルーシも言う。
「お香を焚いている訳でもないのに、何か吐き気がする甘い匂いです。」
とロレン。
「分かった。調べてみよう。」
そうは言ったが、匂いだけでは分からない。
とりあえず最低でも二、三時間は呼ばれないだろうと思い、厨房に行き、聞き取りを始めた。
何人かは、妃殿下に何かあったのかと食ってかかるほどの勢いの者もいたが、何人かは苦虫を噛んだような顔をしていた。
結局誰も不審な人物を見た者も、不審な行動をした人物もいなかったが、ここにも妃殿下を好む者と苦手な者がいるのが分かった。
パウロが聞き取りしていた部屋へ行くと、
「隊長、危なかったですね、危うく襲われる所でしたよ」
と言った。
「やっぱり俺が狙われたのか・・・やたらと俺にお茶を進めた。意地でも飲むかと思っていたが…。ではアンナが入れたのか…」
「うーん、アンナだろうけど、どうしてこんな、誰が入れたかすぐにバレるような事をしたのかって事が重要ですね。
今後もこういった事、続くと思いますよ、大元をたたかないと。」
「大元・・・妃殿下か?」
「今は証拠がないのでなんとも。ですが必ず証拠を掴みます。隊長は顔に出やすいので、詳しい事は言いません!
ほら、今のうちに休憩して下さい、体力勝負ですよ!」
そう言った後、パウロは部屋から俺を追い出した。
執務室へ行き、飯も食わずに仮眠室のベッドに横になり考えた。
俺は妃殿下が苦手だ。
パウロもウルーシもロレンも。
使用人も数人そう思っている者もいる。
だが大半は妃殿下を慕っている。
イヴァン様はある時から妃殿下を溺愛し始めた、側近達も。
俺はそうはならなかった。
それはどうしてだ?
パウロもウルーシもロレンも。
分かりそうで分からない。
睡魔に勝てず、起きたら考えようと俺は目を閉じた。
ハア~疲れた・・・・・
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