一番悪いのは誰

jun

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結婚式を終え、最愛のローラとの夢のような初夜を済ませた翌日、王太子から急な呼び出しを受けた。

まだ寝室で休んでいるローラを残して行くのは辛いが、至急出自せよとの命には逆らえない。
後ろ髪を引かれながら屋敷を後にした。

急ぎイヴァン様の執務室へ向かうと、イヴァン様が謝罪した。
「済まない、結婚休暇中のファビオを呼び出す事になってしまった。」

「一体何があったのですか?」

「リンカが毒を盛られた。」

「え⁉︎妃殿下の容体は⁉︎一体誰に⁉︎」

「リンカは一命を取り留めた。しかし危ないところだったのは確かだ。
リンカも多少の毒には慣らしていたからなんとか持ち堪えた。
毒を盛ったのはおそらくフェデリカだ。」

「王女殿下が⁉︎どうして⁉︎」

「リンカととにかく仲が悪い。何故だか最初からだ。
毒を飲まされた時に一緒にいたのはフェデリカだ。証拠はないが、他に考えられん。
妹を疑いたくはないが、政敵が狙うなども考え付かん。
リンカは皆が望んだ妃殿下だ。
使用人も私の部下達も慕っている。
妹だけが嫌っている。やっていないと否定しているが、今のところ怪しいのはフェデリカだけという事だ。」

「それで私は犯人を見つければよろしいのですか?」

「それもだが、私ではなく今からしばらくリンカに付いていてほしいのだ。
次また狙われる可能性もある。
結婚したばかりで申し訳ないのだが、なるべくリンカの側に付いていてほしい。せめて犯人を見つけるまで。」

「了解致しました。では今日から妃殿下に専属として就かせて頂きます。
今はどちらに?」

「リンカの自室で休んでいる。部屋の前にはお前の部下が付いている。
頼んだぞ、ファビオ。」

「御意」

そして俺はその時から王太子妃の臨時の専属護衛になった。

王太子妃の自室に行き、ドアの前にいたウルーシとロレンに中の様子を聞いた。

「ウルーシ、ロレン、中の様子はどうだ?妃殿下は起きておられるのだろうか?」
ウルーシが、
「意識は戻られているようなので起きてはいると思います。
隊長は昨日から休暇なのに呼び出されたのですか?」

そうだよな、普通結婚式の翌日仕事なんかしない。

「イヴァン様に呼び出された。今日から犯人が捕まるまで妃殿下付きだそうだ。」

「それは・・何というか…大丈夫なのですか?」

何か含みのある言い方が気になり、
「どういう意味だ、ロレン。」

「いや、その…あの…隊長は結婚したばかりなので大丈夫なのかと思っただけです・・・」

「仕方がない、イヴァン様の命令だからな。
妃殿下に挨拶してくる。」
何か二人の様子がおかしいが、ノックをすると、妃殿下の専属侍女のアンナがドアを開けた。

「お待ち致しておりました、ファビオ様。」

待ってた?イヴァン様から連絡があったのか?と一瞬思ったが、

「お待たせ致しました、妃殿下に挨拶だけでもしたいのだが、今、大丈夫だろうか?」

「こちらでお待ち下さい。支度が出来ましたらお呼び致します。」
と言って、妃殿下の寝室に戻って行った。

実を言うと、妃殿下の事は苦手だ。
何かと距離が近い。

妃殿下はオルドニ公爵家の長女で、7歳でイヴァン様と婚約し、厳しい王太子妃教育を受け、2年前イヴァン様と結婚した。
俺はイヴァン様の側近としてずっと近くにいたが、他の側近達はリンカ様が気軽に話しかけたり、身体に触れる事を親しみがあると喜んでいたが、俺は当時から不快だった。
イヴァン様がいるのに意味もなく身体に触れ、しなだれかかる様が、何より嫌だった。
何度もイヴァン様には諌めてくれるよう伝えたが、“リンカは幼い時からああなんだ”と全く取り合わない。
なので自分でなんとか距離を取り、自衛していた。

結婚して王太子宮に入るとそういった事も少なくなったが無くなったわけではない。
妃殿下専属となった今からは面倒な事にならなければ良いのだがと心から思う。
後でローラにしばらく帰れないと文を出さねばな。

そんな事を思っている間に支度が出来たと声が掛かった。

「リンカ様、ファビオ・ギルディー、本日から毒物を盛った人物の捕縛までの短い期間ですが妃殿下付きと相成りました。
よろしくお願い致します。

体調の方は大丈夫なのでしょうか?」

「まあ、イヴァンがファビオ様を寄越して下さったのですね、これで安心ですわ。
短い期間なんて言わず、ずっと私付きになって下さればよろしいのに。」

面倒なので、

「まだ病み上がりでしょうから、これで私は失礼して、隣りにて控えさせて頂きます。」
と言って、寝室を出た。

廊下へのドアを開けて、ウルーシとロレンに声をかけ、交代で休憩を取るよう指示した。

ウルーシとロレンの休憩が終わった頃、廊下が騒がしくなった。
どうやら部屋に入れろと王女フェデリカ様がウルーシ達と揉めているようだ。

騒ぎを収めようとした時、

「お兄様、どうして私はお義姉様にお会い出来ないのですか⁉︎」
とフェデリカ様が叫んでいるのが聞こえた。
どうやらイヴァン様が来たらしい。

「フェデリカ、お前は部屋で謹慎していろと父上に言われていたのではないのか!
それにリンカが毒を盛られた時に一番近くにいたのは其方だ。
毒を盛ったと疑われる人物に見舞いなどさせる訳がなかろう!」

「酷い!お兄様までそんな事をおっしゃるのね!良いわ、私は誰が入れたのか知っていますが、お兄様には教えないわ!
それでは、ごきげんよう!」

「おい、フェデリカ、待て!誰が入れたと言うのだ、おい!」

フェデリカ様は誰が入れたのか知っているのか?
ならどうしてその事を進言しないのだろう・・

部屋に入ってきたイヴァン様がため息をつく。

「何故にあれほど頑ななのだろう。フェデリカは優しい子なのだが、リンカに関する事だけは何でも気に入らないらしい…」

少しだけ分かる。
何か嫌なのだ。
妃殿下の何がなのかは分からない。
だが、何か嫌だ。
フェデリカ様はその何かを知っているのか…。

「ファビオ、お前も休憩を取れ。私がリンカに付いている。少し休んでこい。」

そう言われ、休憩する為廊下に出たが、先程騒いでいたフェデリカ様がまだ近くにいたのが見えたので、急いで追いかけた。

「フェデリカ様!」
声をかけるとこちらを振り返り、俺を見てギョッとした。
「ファビオ⁉︎貴方、昨日結婚式だったのではなくて⁉︎」

「はい、昨日結婚式でしたが、今朝イヴァン様に呼び戻されました。」

「なんて事⁉︎お兄様ってば、本当にリンカ様に関しては阿呆者になりますのね!
もしかするとリンカ様付きになりましたの?」

「犯人が見つかるまでの間だけでございますが、妃殿下付きと相成りました。」

「あの女・・・そこまでして…。
ファビオ、あの人はね、欲しい物はどんな手を使ってでも手に入れる人よ。
気をつけなさい、絶対二人きりになどなってはダメよ。
でもファビオはお兄様付きになって長いわよね?」

「はい、5年になります。」

「そう・・・ファビオは何かいつも身に付けているものがあるの?」

「妻のローラが刺繍したハンカチはいつも胸ポケットにいれております。
お守り代わりだと渡されました。」

「奥様はダンゼン伯爵の娘さんだったわね。」

「はい。ローラの母君は隣国の聖女様だったローズ様の御息女となります。」

「聖女様の…そう…。絶対そのハンカチを身につけなさいよ、必ずよ!
もし枚数に余裕があるのなら一枚だけ貸してもらえないかしら?
後ででいいわ、今は一枚しかないのでしょ?」

「執務室に戻れば引き出しにたくさんありますが。」

「では後で一枚誰かに頼んで私の所に届けてくれる?」

「かしこまりました。」
そう言ってフェデリカ様は行ってしまった。

何かから身を守ってくれているのか、ローラから貰ったハンカチが…。
フェデリカ様は何かを知っている。
そう確信し、執務室へ戻り引き出しに入れている箱を出した。
ローラが大量にくれたハンカチがびっしり入っている。
その中から一枚取り出し封筒に入れた。
副隊長のパウロに封筒を渡そうとして、パウロを見ると、目をまん丸にしている。

「え⁉︎なんで⁉︎隊長って結婚休憩中じゃなかったでしたっけ⁉︎」

「そうだったんだよ、今朝までは!急に呼び出された。パウロは何も聞かされていないのか?妃殿下の件を。」

「いや、何も。何かあったんですね。箝口令は出てないみたいですけど、これから出るのかもしれません。ですから今教えて下さい、何があったんですか?」

そしてパウロに説明すると、

「なるほど・・・。で、目星はついてるんですか?」

「イヴァン様は妹君のフェデリカ様を疑っているが、フェデリカ様ではないと思う。
今さっき話してそう思った。
フェデリカ様は誰がやったのか知ってるようだった。」

「・・・・隊長、絶対気をつけて下さい。
これから多分、面倒な事になると思います。」
パウロは珍しく真面目な顔で俺にそう言うと、
俺から受け取った封筒を持ち、

「このハンカチをフェデリカ様に届ければ良いんですね?」と言って出ていった。

何も言ってないのに、誰に何を渡すのかを悟ったパウロは、さっき会ったフェデリカ様と同じで、今回の妃殿下暗殺未遂の犯人の検討が付いている、そんな感じだった。















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